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第六六九話、T艦隊、地中海大暴れ


 地中海の南、北アフリカ、フランス領アルジェリア。

 その中でオランは、アルジェリア北西部に位置する港町である。そのすぐ西にはメルセルケビール軍港があり、第二次世界大戦当初、枢軸寄りの傀儡政権であるヴィシー・フランス艦隊が、イギリス艦隊と戦闘を行った土地でもある。

 異世界帝国軍が支配するこの地を、T艦隊は襲撃した。


 航空戦艦『浅間』『八雲』から飛び立った紫電改二が、オラン近郊の飛行場を襲撃。『浅間』『八雲』と護衛駆逐艦が、オラン港に突入。港の小型艇、輸送船舶と在泊艦艇へ砲撃を繰り出した。


 一方、ほぼ隣接するメルセルケビール軍港にも、大型巡洋艦『筑波』以下、巡洋艦戦隊が、艦砲射撃を行った。

 タラント軍港に続き、早朝の襲撃は、準弩級戦艦であるダントン級戦艦『ダントン』1万8360トンを撃沈。

 防護巡洋艦『ツェンタ』『シャトールノー』『ニオベ』、偵察艦『カルロ・ミラベロ』『アウグスト・リボティ』ほか、駆逐艦、スループ数隻を血祭りに上げた。


 旧式艦ばかりで、特に回収すべきものもなく、オラン港とメルセルケビール軍港を砲撃したT艦隊は、周辺基地からの攻撃機などが襲来する前に、さっさと離脱した。


 異世界帝国の地中海の拠点のうち、巡洋艦以上の艦艇が停泊する港は四カ所。うち二カ所を、奇襲で叩いた。

 完全に敵の隙をついた攻撃は、異世界人たちに、地球上のどこにも安全な場所はないと知らしめるだけの効果はあった。



  ・  ・  ・



 ムンドゥス帝国地中海方面軍は、奇襲を許した失態を取り戻すべく、多数の偵察機をタラント、オランを中心に地中海へ放った。

 その結果、偵察機は、洋上を行く二つの艦隊を発見したのである。……軍港襲撃を終えたT艦隊は、そのまま地中海に留まっていたのだ。


 空母部隊はタラントから南下しイオリア海へ。航空戦艦『浅間』ら水上打撃部隊は、オランから北東のバレアレス諸島方面へ移動した。

 これに対して、地中海方面軍は内陸の飛行場に動員をかけて、攻撃隊を発進させる。場所によっては、航続距離の問題もあり全ての機種が出撃できたわけではない。


 モラン・ソルニエMS.406、メッサーシュミットBf110双発戦闘機、フォッケウルフFw190、フィアットG.55チェンタウロといった戦闘機。

 ハインケルHe111、ユンカースJu88、カントZ.1007アルチオーネ、Z.1018レオーネ、リオレ・オリビエLeO.451、ドルニエDo217といった雑多な双発爆撃機が、地中海を遊弋する日本艦隊に、逆襲の牙を剥く。


 T艦隊側の対応は、それぞれ分かれた。

 有馬少将率いる空母部隊は、暴風戦闘機による防空戦闘を展開。バラバラと小部隊で向かってくる敵攻撃隊を、彩雲改による誘導により各個撃破していった。


 最後時速400キロから500キロ前半の双発爆撃機を、500キロ代から600キロ前半の速度を出せる戦闘機が護衛する。

 しかし、これらは飛行場の数から、合わせればそれなりの規模になっただろうが、如何せん個々の部隊の機数が少なく、それぞれ撃破されていった。


 特に日本側の防空戦闘機が、最高時速700キロに達する高速戦闘機『暴風』であって、そのスピードを振り切ることはできなかったのである。


 一方、空母を持たない栗田中将の水上打撃部隊の方は、紫電改二という防空戦闘機を持っていたが、これらを利用することなく、敵が近づいてくるのを待った上で、転移で場所を変えた。

 いわゆる、敵攻撃隊の空振りを誘う回避戦術だ。いくつか艦隊を見つけられない敵航空隊はあったが、お構いなしで離脱した。


「攻撃されない以上に、もっとも安全なものはありますまい」


 航空参謀、藤島 正少佐は言うのである。

 航空戦艦『浅間』から、T艦隊司令部は、敵航空隊の接近を確認した上で、さっさと場所を変えた。


「地中海方面は、後方ということですが、それなりに敵さんも基地航空隊は配備していましたね」

「鹵獲機ばかりだったがな」


 神明参謀長は、地図へと視線を向ける。


「今回、こちらに仕掛けてきた敵飛行場は、足の長い航空機を運用している。これらに逆襲する」


 それが、わざわざ地中海に留まり、艦隊をさらして敵攻撃隊を誘い込んだ理由である。

 今ごろ、第三航空艦隊が航空撃滅戦のため、彩雲と二式艦上攻撃機を総動員して、敵攻撃隊の動向を探り、そして追跡している。


「送り狼作戦、開始だ」



  ・  ・  ・



 T艦隊水上打撃部隊を攻撃しようとやってきた異世界帝国航空隊は、目標を発見できなかった。

 偵察機から、日本艦隊が転移離脱したと無線で知らされ、燃料のこともありそれぞれ出撃した飛行場へ引き返す。


 そのすぐ後ろを、遮蔽で隠れた彩雲偵察機または、二式艦上攻撃機が追尾しているとも知らずに。


 戦闘機と双発爆撃機、あるいは航続距離の問題で爆撃機だけの編隊が、飛行場の滑走路に着陸していく。

 一通り機体が降り、これらの機体が燃料補給と整備にかかる頃、基地上空を周回していた日本機は行動を開始した。


 規模の大きな編隊を追尾した彩雲改二は、転移爆撃装置を利用して、三航艦の九九式戦闘爆撃機の小隊を呼び出す。

 九九式戦爆は、敵飛行場に駐機されている戦闘機や爆撃機にロケット弾攻撃や機銃掃射を開始。彩雲改二は、爆撃装置で滑走路を爆撃した。


 一方、小規模編隊を追尾し、比較的小さい飛行場に到達した二式艦上攻撃機は、転移装置などがないので、味方を呼び込むことはできない。

 なので、単独で飛行場へ突入する。まず滑走路に向かい、主翼に懸架した8インチロケット弾2発を、胴体下の同じく8インチロケット弾を順次発射した。

 これらは一発ずつ滑走路に当たると、大きな爆発と共に滑走路を地面ごと抉った。


 E弾頭――対防禦障壁用エネルギー弾頭を装備したロケット弾としては大型のそれは、圧倒的破壊力と、滑走路に深く大きな穴を開けた。

 三つの大穴を穿った後は、二式艦上攻撃機は転移離脱装置を用いて、基地へと帰還した。


 残された飛行場は、穴を埋めねば航空機の離陸、着陸が不可能な状態となる。特に地球製レシプロ航空機にとっては致命的で、抉られた大穴を埋める作業と滑走路の補修をしなければ、飛行場として機能を発揮できなくなった。

 第三航空艦隊は、送り狼作戦を成功させ、地中海における敵航空戦力の低下に貢献したのであった。



  ・  ・  ・



 ムンドゥス帝国地中海方面軍にとって、日本軍の襲撃は寝耳に水であった。

 地中海は後方であり、敵の攻撃を受ける場所ではなかった。帝国の伝統でもある、後方軽視の結果、その防備は弱体であり、その戦力は充分ではない。


 タラント軍港、オラン港に加え、およそ三十の大小飛行場が、ダメージを受けた。そして問題は、やられたので修理しましょう、では済まないことだった。

 滑走路に開いた大穴は重機を使って埋めればよい。が、各地に分散した結果、それら重機の数が足りているとは言い難い。


 また爆撃によって壊された施設の修理にかかる費用や資材についても、後方戦力である地中海方面軍には、全てを元通りにできるほどの余裕はなかった。

 かくて、地中海方面軍は、防衛方針の転換を強いられる結果となる。


 稼働施設を減らし、戦力や人員、資材を、重要度の高い場所を中心にする。防衛戦力を置くことに意味が見いだせない場所については、放棄されることになった。

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