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復活の艦隊 異世界大戦1942  作者: 柊遊馬


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第六四九話、戦場に赴く者たち


 伊藤軍令部次長と、T艦隊の栗田中将の会談で、以降の作戦行動の方針が示された。

 その席上、栗田は白城情報参謀を呼び、伊藤らに、アマゾン川を行く異世界帝国潜水艦隊について説明させた。


「それで、この潜水艦隊の撃滅任務がまだ生きているのだが、我々はどちらを優先すればよろしいか?」

「……そうですな」


 伊藤はしばし考える。


「このアマゾン川の行き先について、何があるのか気になるところです。偵察機を送り、調査した上で、改めて対応を決めるというのはどうでしょうか?」


 現時点では判断しようがないから、先送りにしたとも取れるが、伊藤の言うとおり、何かあるかもしれないというのも無視はできない要素ではある。深く潜れない川で潜水艦隊を襲撃すれば、沈めやすくはあるが、そもそもこの不可解な移動も謎ではあった。


 普通に考えれば、基地の類いと思われる。しかしそれならば、わざわざ川の奥ではなく海に面した場所でいいのではないか――となるのだ。


 結局わからないなら調べるまで。

 会談の後、伊藤次長らが軍令部に帰るのをよそに、栗田は参謀長の神明に言った。


「アマゾン川の偵察は、やはり彩雲でなければ無理か」

「川の長さ自体が、彩雲の航続距離より長いですが、航空機は直線で飛べますから、そこはさほど心配はないかと」


 そもそも、敵が上流を目指すとして、マナウスやサンタレンは、彩雲であれば余裕で届く。


「しかし、空母は必要になるな」

「まだあちらは、敵の支配圏ですからね」


 米軍もアマゾン熱帯雨林には足を踏み入れていない。そこを進むつもりなのかもよく知らないが。

 つまりはこちら側が利用できそうな基地などが手近なところにないということだ。


「遮蔽あり、転移中継装置ありの『翔竜』を送り、アマゾン熱帯雨林を偵察させましょう」

「川だけでなく?」

「支流も多いですから。もしかしたら、港湾都市以外にも、異世界人が何かしら作っているかもしれません」


 藤島航空参謀の弁ではないが、秘密基地などがないという保証もない。


「一応、外洋航行艦艇でも、アマゾン川は登れるんだよな? まさかT艦隊で川上りする羽目にはならんだろうね……」

「そう願いたいところですが……。転移ブイを使って、港湾都市に乗り込む可能性はあるかもしれませんね」


 もっとも、それでも艦隊ではなく、航空隊がメインになるとは思う神明ではあった。



  ・  ・  ・



 空母『翔竜』を、アマゾン川の調査のためブラジル近海に派遣すると告げた時、T艦隊空母戦隊司令の有馬 正文少将は、栗田に言った。


「もし、異世界人の基地なり拠点が確認されたら、攻撃してもよろしいですね?」


 よろしいですか、ではなく、よろしいですね、ときたものだった。栗田は神明を見た。


「問題はないか?」

「ゲート以外であれば、問題ないかと」


 異世界からの帰還者の存在で、今の海軍上層部は、これまで以上に異世界へ強い関心を持っている。

 もちろん、ムンドゥス帝国との戦いをどう決着をつけるかの一点であるが、そのために異世界に行けるゲートについて、どう扱うべきか決めかねていた。


 異世界を行き来するためにゲートは必要だから確保を目指すのか。時期尚早なので、情報が出揃うまでは、敵の増援を阻止するため破壊するのか――などなど。

 上層部の方針が決まっていない以上、非常時を別にすれば、現場での判断は極力控えたいというのが本音である。破壊した後で必要だった、と言われても困るのだ。


「敵潜水艦隊の拠点というのであれば、撃滅は我々の任務だから、有馬少将の判断で攻撃して構わない」


 栗田は許可を出した。


「しかし、偵察隊を展開する都合上、『翔竜』単艦の航空隊では、攻撃力が不足しているのではないか?」

「『翔竜』は転移中継装置がありますから、『雲龍』『雷鷹』の分も投入できます」


 現在、日本海軍は母艦と航空隊を切り離して運用する空地分離をやっている。そのため、母艦固有の航空隊というのが、一部の例外を除けばない。

 だから実際のところ、任務に応じて『翔竜』『雲龍』『雷鷹』の三空母に分散させているだけで、元々は同じ航空隊なのである。


「ただ、敵の規模が不明でありますから、我が隊だけでは不足の可能性もあります。第三航空艦隊からも援軍を得られましたら、確実かと」

「わかった。ではそのように話を通しておく」

「ありがとうございます」


 全面的に要望が通ったことで、有馬はにっこりと笑みを浮かべた。



  ・  ・  ・



 その頃、異世界帰還者たちは、鉄島からほど近い九頭島に収容されていた。

 日本軍から異世界についての聴取を受け、以後どうするのか、処置が決まるまで、九頭島に居住区画を与えられ、生活している。

 もちろん、監視はつけられている。


「しかしまあ、どうしたものか」


 ハンス・ルーデル中尉は、日本側に残る帰還者組にいた。ウィリアム・ハルゼー中将以下、アメリカに向かう組に行かなかったのは、ルーデルの母国ドイツが枢軸陣営で、イギリス、アメリカら連合陣営と敵対関係にあったからだ。

 彼のように、枢軸陣営側は日本、連合陣営側はアメリカにほぼ分かれたと言える。異世界帝国の侵攻により、アメリカとは直接戦ったわけではないドイツではあるが、イギリスやソ連に支援していたアメリカは、どちらかといえば敵陣営だった。


 ルベル世界で共に戦っている間は、連合と枢軸の関係はとりあえず置いておいたものの、やはり直接矛を交えたドイツ人とイギリス人・フランス人とは、些細なことでよく喧嘩になったものだった。


「日本側に残ったものの、このまま飼い殺しはごめんだぞ」

「中尉……。だからって、いきなり屈伸運動はやめてくれませんか?」


 エルヴィン・ヘンシェル兵長が、ドイツ語の本を読みながら気のない声を出した。退屈しているのは、彼も同じである。

 運動好きなルーデルは、長い間じっとしているのが苦痛だった。


「エルヴィン、俺は、ムンドゥス野郎に爆弾を落としたくてウズウズしているんだ。……日本空軍に入れないものか」

「日本には空軍はないらしいですよ」

「――暇そうにしていますね」


 ふっと声がかかり、ルーデルとヘンシェルは振りかえった。

 いたのは原隊では軍医、そしてシュトゥーカの後部機銃手を務めることもあるエルンスト・ガーデルマンだった。


「やあ、ドクトル」

「暇を持て余しているお二人に朗報です」


 淡々と落ち着き払った態度で、ガーデルマンは言った。これでスマートに見えるのは医者たる所以か。


「正式な名称は不明ですが、異世界帝国に対抗する部隊の募集がかかっていました。おそらく義勇軍の類いでしょうが」

「その手があったか!」


 ルーデルは手を叩いた。こんなところで時間を潰しているより断然いい。


「よし、早速、それに参加するぞ!」


 シュトゥーカ乗りのルーデルの行動は早かった。

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