表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
復活の艦隊 異世界大戦1942  作者: 柊遊馬


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

642/1148

第六四二話、T艦隊、到着


 駆けつけたのは、第三航空艦隊に所属する零式艦戦18機と、暴風戦闘爆撃機27機だった。

 彩雲改二5番機が、転移中継ブイを投下後、その転移爆撃装置を用いて、鉄島の三航艦、その航空機を迎え入れたのだ。


 T艦隊の緊急事態に備えて、常に出撃できる直掩の零戦五三型と、マダガスカル島ディエゴスアレス港空襲の際の予備戦力として待機していた暴風が即時発進。この45機が先発隊となって、戦場に現れた。

 観測を続けていた彩雲5番機からの、敵味方の識別について報告を受けた先発隊は、零戦隊が上空警戒につき、暴風隊が赤い巡洋艦群に向かって緩降下を開始した。


 赤い巡洋艦は、高角砲を撃ち上げるが、高速で迫る暴風に信管が追いついていない。暴風は翼下の5インチFFARを連続発射し、敵艦の艦上構造物を吹き飛ばすと、さらに接近しながら500ポンド爆弾を投下した。

 損傷、爆発する赤い巡洋艦。たちまち船団を追いかけていた十数隻の甲板が炎上し、煙を引き始める。


 その様子を見ていた改造空母『エンタープライズ』の面々は歓声を上げる。速度は敵のほうが上。故に追いつかれるのは時間の問題だと思っていた。だからその追っ手が駆けつけた味方によって痛打される様は爽快であった。

 一人、ハルゼー中将を除けば。


「ありぁあ、うちのF4Uじゃないか……」


 鹵獲機の中で見たことがある機体だ。米軍の高速戦闘機F4Uコルセア。その翼と胴体に日の丸をつけて飛んでいる。


「ミートボール……。間違いなく日本軍だ」

「提督?」

「よかったじゃねえか、カミジョウ。お前んとこの子孫が駆けつけたぞ」


 声をかけた東洋人――老いた日本人の肩をハルゼーは叩いた。


「しかし、交信してこうも早く駆けつけるたあ、相当近くにいたんだな。ここは日本の近くなのか?」


 ハルゼーが首を捻った時、比較的近くから轟音が響いた。これは艦艇の爆発音。慌てて音のほうを見れば、これまで無傷だった『プロテウス』が艦体中央から黒煙を撒き散らし、炎を上げていた。


「くそったれ! 当たり所が悪かったか!」


 追いかけてくるルベル・クルーザーは、一万トン級の重巡洋艦だ。全長は200メートルもなく、その主砲は18センチ三連装砲を艦首と艦尾に一基ずつを持つ。

『プロテウス』が食らったのは、その18センチ砲弾だろう。給炭艦であるプロテウス級に、その砲撃を弾く防御力はない。


 日本のコルセアが爆撃で、ルベル・クルーザーを攻撃しているが、如何せん、中々撃沈に結びつかない。

 駆逐艦ならば沈められようが、装甲がある巡洋艦以上となると、ルーデルがやったように800キロや1000キロ爆弾を急所に叩きつけるしかないだろう。


「くそ、雷撃機はないのか、雷撃機は!」


 ハルゼーが声を張り上げる。炎上するルベル・クルーザーを避けて後続艦が前に出てくると、艦首の18センチ砲が火を噴く。

 その砲撃射程圏に、船団はいるのだ。


「アドミラル! 『プロテウス』がヤバい!」


 見張り員が叫んだ。


「速度が落ちてる!」

「……なんてこった!」


 先ほどの被弾が致命傷に等しい大打撃を与えたようだ。『プロテウス』が、『エンタープライズ』『ネレウス』より遅れ始めている。


「提督! また飛行機がっ!」


 日本人が指さした方向を見れば、新たな航空機群が飛んでくる。飛来する二群、その片方はずんぐりした機体で、さらに魚雷を抱えていた。


「ようやく雷撃機のお出ましかい!」


 ハルゼーは相好を崩す。重い魚雷を抱えた雷撃機が鈍足なのは仕方がない。


「やはり敵を沈めるには魚雷が一番よ」



  ・  ・  ・



 援軍第二陣は、九九式戦闘爆撃機21機と、業風戦闘機36機だった。

 九九式戦爆は爆装、そして業風は爆装と雷装の2タイプだ。

 業風――米海軍のF6Fヘルキャットは、コルセア同様、爆弾やロケット弾を搭載し戦闘爆撃機としても使用できたか、その高いエンジン出力によって約1.8トンの外部装備を積むことができた。

 そして呆れたことに、その装備オプションには『魚雷』も含まれている。


 日本海軍、特に第三航空艦隊では、誘導兵器節約のため、通常雷撃ができる機種として業風を選択した。

 かくて出撃した36機中、18機がMk13航空魚雷を搭載して、駆けつけたのである。


 先鋒隊が十数隻を後退させた一方、赤い巡洋艦の後続が前に出てきて、ハルゼーの船団を狙う。

 そこへ第二陣が襲いかかった。業風が低空で敵艦に接近し、魚雷を投下。ルベル・クルーザーも艦側面に並べられた副砲である光弾砲を発砲。不運な業風が直撃を受けて墜落する中、放たれた魚雷は敵巡洋艦に吸い込まれ、水柱を突き上げさせた。


 爆装の九九式戦爆、業風の残りが、まだ健在の敵艦へロケット弾攻撃を繰り出す。

 これらの足止めが進む中、次なる援軍が到着する。

 転移中継ブイを経由して、T艦隊主力が現れたのだ。


「――観測機の報告では、3隻中2隻が被弾。うち1隻が大破。行き足が止まっている模様です」


 航空戦艦『浅間』。白城情報参謀の報告に、栗田 健男中将は頷いた。


「うむ、このまま我々は、船団をすり抜けて敵の足を止める。ハルゼーの船団に、退避手順を説明し、指示に従ってもらえ」


 栗田の指示に白城は頷くと通信室へと移動する。

 ベンガル湾の雨と違い、晴れた空が広がっている。水平線に巨大ゲートの姿があり、その手前を赤い塗装の艦隊が進んでくる。

 双眼鏡を覗き込む神明の横で、田之上首席参謀が同じく双眼鏡を握る。


「赤いですな……。あれも異世界人の軍艦ですか」

「おそらくな」


 神明は視線を後続の敵艦から、前方の船団に向ける。空母『エンタープライズ』というから正規空母スタイルかと予想していたが、彩雲5番機の報告通り、小型で甲板に艦橋がなかった。

 いわゆるフラッシュデッキ――全通式平甲板だ。日本の軽空母によく見られるスタイルである。


「あれでエンタープライズはないでしょう」


 藤島航空参謀が言った。


「むしろ、軽空母の『ラングレー』ですな。そっくりだ」


 それもそのはず、ラングレーはプロテウス級の姉妹艦である。空母に改造すれば同じような姿になるのも無理もない。


「……ん?」


 双眼鏡で見ていた面々は、先頭の空母――『エンタープライズ』が転舵するのに気づいた。


「おいおいおい……!」


 藤島が思わず口走った直後、見張り員の報告が飛び込む。


「先頭艦が反転しました! 敵艦隊に向かっていきます!」

「冗談だろう? あんな軽空母でどうしようってんだ?」

「違うな。味方を救助に向かうつもりだ」


 神明は双眼鏡を下ろした。あの『エンタープライズ』は、脱落した僚艦の救助に戻ったのだ。もう少し進めば、T艦隊に守られたものを、自艦より仲間を優先したのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ