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第六三八話、日本軍、マダガスカル島再来


 ディエゴスアレス。マダガスカル島北端の都市。その名は、かつての航海者、ポルトガルのディエゴ・スアレスにちなむ。

 1940年までフランスのヴィシー政府が統治していたが、ムンドゥス帝国の侵攻により占領され、今日に至る。

 異世界人のインド洋西部の拠点の一つである。


 現在、皇帝の精鋭、紫星艦隊がディエゴスアレス港に駐留していた。

 艦隊司令長官、ヴォルク・テシス大将は旗艦『ギガーコス』にいて、ベンガル湾でのラロス作戦の経過について分析を行っていた。


 元ゲート守備艦隊を囮にして、セイロン島の日本艦隊を釣り上げる――その作戦は、目論見は成功したものの、襲撃艦隊が返り討ちに遭い、結果として失敗であった。

 日本軍が増援を送り込んでくる可能性はあった。だからテシス大将も、いざとなれば紫星艦隊本隊を投入できるように控えていたのだが、ポース級転移装甲艦をやられたことで戦場へ転移する術が失われてしまった。


 戦闘の様子はわかっているので、その報告をもとに戦術を考えていたのだが――


「長官、首席参謀」


 ギガーコス艦長のディレー少将がやってきた。


「西方警戒ブイより報告。未確認の航空機群の接近を確認しました」

「未確認?」


 フィネーフィカ・スイィ首席参謀が眉をひそめれば、艦長は続けた。


「もちろん、アフリカの基地からの移動ではない」


 スケジュールにない行動が観測された。テシスは顔を上げた。


「日本軍だな。全艦に空襲警報。飛行場と空母の即応直掩機を出せ」


 もっとも、手遅れかもしれんが――という言葉は飲み込む。日本軍には遮蔽で隠れて行動する航空隊がいる。それを差し向けられれば、今、この瞬間にも攻撃を受けているだろう。


 ディエゴスアレス港がにわかに慌ただしくなる。日本軍の襲撃に備えていた紫星艦隊の空母から、垂直離着陸型のエントマⅡが飛び立つ。

 さらにディエゴスアレスの町にほど近い飛行場にも、未確認航空隊の接近が伝わるが、こちらの反応は遅かった。紫星艦隊とは別系統の地元駐屯部隊であり、アフリカ大陸方面から飛来したそれが、味方の可能性を疑ったせいもある。


 ただそれでも、一度マダガスカル島が空襲されるという事態を経験しているだけあって、迎撃準備までの人の移動は早かった。

 その間にも、次々と航空機の目撃情報が入る。あいかわらず対空レーダーが仕事をしていないのは、航空隊が海面ギリギリを這うように進んでいるからだろう。

 当然、通知もなくそんな高度で迫る味方などいない。


 実際、目視報告では、未確認機が日の丸をつけた日本機であることが確認された。そしてそれらは、時速700キロ近い高速であっという間にディエゴスアレス港に殺到した。


「思いのほか、早いですな」


 ジョグ・ネオン参謀長が司令塔にやってきて言えば、テシス大将は真顔で告げる。


「おそらく攻撃機がいないのだろう。敵は戦闘機もしくは戦闘爆撃機だ」


 テシスの読みは当たっている。

 日本海軍の暴風戦闘機――F4Uコルセア改は、最高時速700キロを超える。


『即応直掩隊、敵と交戦!』


 日本軍機が飛来する寸前に飛び立ったエントマⅡ航空隊が、日本の暴風に挑む。こちらも最高時速700キロ超えのインターセプターである。

 数は20機に満たないが、他にスクリキ小型戦闘機も順次発進しており、艦隊上空での数はそのうち逆転するだろう。


「思ったより敵機が少ない」


 テシスが呟けば、スイィ首席参謀は振り返った。


「我々の目を引きつける囮攻撃でしょうか?」

「敵の本隊が別にいると……?」


 ネオン参謀長が顔を険しくさせた。テシスは顎に手を当て思考する。


 ――囮というのは妙だ。


 日本軍お得意の遮蔽航空隊による奇襲ではない。それができるなら、とっくにやられている。つまり、この敵は遮蔽できる機体がないのだ。

 そしてギリギリまで察知されないよう、対空レーダーの死角を狙った機動で向かってきたことからして、囮はない。


 繰り返すが、遮蔽による奇襲ができる航空隊なら、先制攻撃を仕掛けてきているはずだ。その攻撃の後に、遮蔽できない航空隊による追い打ちがベターなのだ。


 ――確か、セイロン島の日本艦隊には、2隻ないし3隻の小型空母が配備されていたはずだ。

 それが今回の攻撃隊を、転移を利用して送り込んできたのなら、数の上では辻褄があう。

 ベンガル湾がモンスーンの影響で嵐だから、敵は空母をこちらへ投入してきたわけだ。


「やってくれるな、日本海軍」


 テシスはニヤリとする。大胆不敵。やられるだけでなく、きちんと報復してくるあたり、好敵手たりうる。



  ・  ・  ・



 暴風戦闘爆撃機隊は、異世界帝国機の迎撃を受けた。

 さすがに一度空襲を受けた場所だけあって、方向をごまかした程度で封殺できるものではなかった。


 向かってくる高速迎撃機に、対空装備できた雲龍の戦爆隊が立ち向かう。

 紫星艦隊は、新式の防御シールドを展開して、港内にあってもそれぞれの艦を守った。さすがに精鋭だけあって、襲撃に対する反応は恐ろしく早い。

 日本側に対シールド貫通兵器があれば、その上から攻撃もできただろうが、T艦隊攻撃隊は有り合わせを詰め込んだ部隊である。生産補充中の貫通兵器の配備はほとんどない。


 だから、シールドを張って防御を固める紫星艦隊をほぼスルーし、翔竜、雷鷹の暴風隊は港湾施設と、燃料タンクへの攻撃を行った。


 まさに一撃離脱であった。

 続々と直掩機を増やして艦隊の守りを固める紫星艦隊を尻目に、暴風戦闘爆撃隊は、軽爆弾やロケットを叩き込んで、撤収していった。


 突っかかってきた敵迎撃機との戦闘で暴風は5機が撃墜され、6機が損傷したものの、ディエゴスアレス港への攻撃は成功に終わった。

 日本軍の鮮やかな攻撃に、テシス大将も苦笑する。


「最初から、艦隊は眼中になかったか」


 やられた燃料タンクが、毒々しい煙を天へと伸ばし、激しく周囲のものを燃やしている。この手の襲撃で艦隊があるのに、素通りするという例はとても珍しい。普通ならば、停泊している艦隊が動き出せないうちに撃破しようとするものだ。


 その理由を推察するに、対艦用の魚雷や誘導弾などが不足している、あるいは持っていなかったのだろう。あれば身動きが取りにくい港内の艦隊に対して、積極的に仕掛けてきたに違いない。


「長官、いかがいたしましょうか?」


 ネオン参謀長が今後の対応を確認してきた。本来なら敵――おそらく空母機動部隊がマダガスカル島近くまで進出していると見るべきだろうが。


「マダガスカル島守備隊の方で、敵の捜索はやっているだろうが……。とりあえず、我が艦隊は港を変えよう。ここでは当面、燃料の補給はできないだろう」


 報復したいところだが、敵部隊は去っているだろう。ベンガル湾の方は、進出した転移装甲艦が全滅している以上、転移もできない。


「続報を待とう。まだマダガスカル島襲撃を日本軍が企むなら、その時は応戦も考えよう」

「はっ」


 ネオンら参謀たちは首肯した。そこへ通信長が、司令塔にやってきた。ディレー艦長が報告を受けると、テシスに向き直った。


「長官、レユニオン島中継所より、友軍宛ての緊急電が入っております」

「レユニオン島」


 何か、緊急事態が起きたのだ。

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