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第六三六話、転移戦術の差


 ベンガル湾を南下していた異世界帝国のゲート守備艦隊の残党と、待ち伏せ艦隊は、第七艦隊とT艦隊、深山Ⅱ大型攻撃機によって壊滅した。

 T艦隊の神明参謀長は、艦隊に所属する潜水補給艦であり回収艦でもある伊350潜水艦に、撃沈艦艇のサルベージを、栗田中将に進言。了解をとった。


「まあ、君もそのつもりで、今回は敵艦隊を攻撃したんだろう」


 栗田は苦笑していた。

 異世界帝国の転移艦は、今後の戦いにも大いに影響してくる。故に手に入れられる機会は逃してはならない。


「そういえば……」


 首席参謀の田之上 義雄大佐が神明を見た。


「カルカッタから敵艦隊が離れたということは、転移ゲートや、あの全長600メートルはあった超巨大戦艦も回収できますかね?」

「敵が解体していなければ……。まあ、回収作業をやってみないことにはわからんな」


 カルカッタを巡る戦いから、早一カ月半は経っている。その間、現地に留まっていた守備艦隊の方で、日本軍に入手されないように重要部品の回収や、何らかの細工をしている可能性もなくはない。


「ですか。……今回、転移装備を持った艦がいたのは確実ですから。最低でも、それで補いがつきますかね」

「その艦の魔核が残っていれば、確実だがな」


 撃沈の過程で大抵は艦体が壊れてしまっている。だから再生するために必要なその艦の魔核があることが重要だ。

 ないと再現、解析に時間を要するに上に、最悪、調査不能ということもある。


「それにしても、どんな艦だったんでしょうね。転移艦は」


 田之上が首をかしげる。

 遮蔽に隠れていたので、撃沈はしたがそれがどんな艦艇だったのか、まったくわからない。

 深山Ⅱ大型攻撃機から、敵の位置を特定した須賀大尉が言うには、巡洋艦以上の艦という大雑把なものであった。

 カルカッタで転移ゲートを構成していたゲート艦は、重巡洋艦クラスの船体を持っていたとされるから、それと同型の可能性もある。


「しかし、敵も転移ができるなら、どうしてそれで離脱しなかったんでしょうか」

「そりゃあ、オレたち日本軍を誘い出すためじゃないんですかい?」


 航空参謀の藤島 正少佐が話に入ってきた。

 カルカッタの残留艦隊が出てきたところを転移艦を置いて、待ち伏せしていた異世界帝国軍である。

 藤島の指摘に、田之上は眉をひそめた。


「いや、その待ち伏せは、一回失敗しているだろう? 我々は罠を予想し、一度撤退した。敵からしたら、罠から逃げられたわけで、もう一度仕掛けてこられても、不意打ちにならないぞ」

「そうですか? 3隻目がいたじゃないですか。まだ待ち伏せ奇襲はできましたぜ?」


 藤島が言えば、神明は口を開いた。


「これは私の予想だが、敵の転移艦は、何らかの転移制限があったのではないか」

「制限、ですか……?」

「たとえば、自艦は転移できない、とか」


 神明の発言に、藤島は目を丸くした。


「他の艦は転移させられるのに、自分は転移できないんですか?」

「敵の転移艦の装備をまだ解析していないから、あくまで想像でしかないがな。ただ転移艦が自力では転移できないシステムであるなら、艦隊が転移で離脱せず、そのままベンガル湾を航行していた辻褄は合う」

「その場合、転移艦を単独で残してしまうと、何かしらトラブルがあった時、守れませんからね」


 田之上は頷いた。しかしそこで神明は、気の抜けた顔になる。


「藤島の言う通り、待ち伏せ奇襲をもう一度狙っていた可能性の方が高いがな」



  ・  ・  ・



 ムンドゥス帝国軍が支配する島、マダガスカル。

 アフリカ大陸の南東にある、世界で4番目に広い面積を持つ島の北端、ディエゴスアレス港に、紫星艦隊が停泊していた。

 その司令長官、ヴォルク・テシス大将は、首席参謀のフィネーフィカ・スイィ大佐から、ベンガル湾での日本海軍釣り出し作戦『ラロス』の報告を受けた。


「ほう、全滅か」

「はい」


 スイィ参謀が沈痛な表情を浮かべる一方、テシスはどこか楽しそうだった。


「どんな様子だった?」

「モンスーンの影響で、写真は駄目でした。資料は役に立ちません」

「しかし、証言はあるのだろう?」

「はい」


 スイィは頷いた。


「新鋭機『アステール』による観測によれば、敵は遮蔽に隠れたポース級転移装甲艦を3隻とも見破り、これを撃沈しました」

「遮蔽を見破ったのか」


 増援を送れなくなったから、ポース級に何かあったのは察していたテシスである。不意打ちに送った戦艦6隻の艦隊の他、別に攻撃艦隊を用意していたが、送る先の転移艦が音信不通では、どうしようもない。


「どうやった?」

「不明です。観測員の証言ですと、遮蔽に隠れた航空機――それもおそらく重爆級の敵からの攻撃で1隻、残る2隻は海中からの攻撃でやられたようです」


 証言をまとめたレポートを提出され、テシスは目を通す。


「爆撃搭載量不明の超爆撃機」

「ヴラフォス級の装甲を貫通する爆弾を使用していましたから、搭載トン数はかなりのものです」


 しかもその爆撃は、ゲート守備艦隊残党の軽空母軍の大半をその1機で片付けてしまったらしい。使用している武器は誘導兵器らしく、百発百中だったという。


「それで、転移装甲艦がやられた後は、敵艦隊が転移で殴り込んできた、と」


 テシスは、レポートに書かれた各艦隊の航跡を辿る。一方向から攻めたと思えば、転移で反対側へと飛んで攻撃する。レーダーで観測した動きから書かれたようだが、証言者も自身がないのかクエスチョンマークがついていた。


「この航行図が正しければ、敵は円を描くように機動しているな。照準を付ける時間も恐ろしく短かっただろうな……。それに加えてオリクト級を一撃で大破せしめる火力」

「閣下……?」

「さすがに艦隊での転移機動は、日本海軍に一日の長があるな」


 テシスは不敵に笑った。こうした細かな転移を使って、敵の裏を取る機動は、今のムンドゥス帝国の兵器ではできないだろう。


「我が紫星艦隊に土をつけてくれた。やはり侮れんよ、日本軍は」


 撃破された戦艦と巡洋艦部隊は、紫星艦隊の所属であり、最近増強された部隊であった。ポース級装甲艦のテスト運用を兼ねて、セイロン島の日本艦隊撃滅を、実戦演習と定めたのだが、日本軍はこちらの待ち伏せを予測し、対応してみせた。


 以前、紫星艦隊が日本の機動艦隊――第8、第9艦隊――を不意打ちで叩いたが、同じ手は通用しないということなのだろう。


「楽しませてくれる」

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