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第六三三話、待ち伏せと、遮蔽転移艦艇


 やはり、というべきか、武本 権三郎中将と第七艦隊司令部が予想した通り、異世界帝国軍は、日本艦隊の襲撃を待ち構えていた。

 転移で早々に離脱した第七艦隊とT艦隊は、距離をとって待機していた転移巡洋艦『来島』のもとに集結した。


 第七艦隊旗艦『扶桑』の司令塔に、T艦隊の栗田 健男中将と神明参謀長が赴き、武本ら第七艦隊司令部と打ち合わせが行われる。


「敵上空に留まっている深山Ⅱの観測によると、敵の増援は二隊現れたそうだ」


 武本が海図台を前に、一同を見回した。


「戦艦3隻、重巡洋艦5隻、駆逐艦10隻が2セットだ。一隊は我が艦隊、もう一隊は位置的にT艦隊の背後を衝こうしたようだ」


 つまり、戦艦6、重巡10、駆逐艦20が敵の増援戦力である。


「がっつり待ち伏せされていましたな」


 栗田は口元を引き締めた。武本は頷く。


「あぁ、カルカッタの連中は、あからさま過ぎたからな。我々は敵の伏撃も想定していた」


 だから、敵の奇襲に慌てることなく、整然と転移できたのである。


「しかし、敵さんも、攻撃までよくもその存在を隠しおおせたものだ。遮蔽か? それとも、いよいよ転移を自在に使ってきたのか」

「その件で」


 神明参謀長が挙手した。


「敵を見張っている伊701潜より、興味深い報告がありました」


 T艦隊は、第七艦隊の離脱に合わせて、水上打撃部隊は転移した。だが、潜水艦は戦闘海域に留まり、敵の動向を探っていた。


「どうも遮蔽で隠れている艦がいたようです。報告によると、どうやらその潜伏艦の周りに敵が転移してきたようなのです」

「それはつまり……」


 武本が言いかけ、第七艦隊作戦参謀の佐賀中佐は言った。


「敵も転移巡洋艦、もしくはそれに類する艦を中継して転移してきたと?」


 日本海軍が使う艦隊転移――転移中継装置を使ったそれと、同じ手法を、異世界帝国が使用してきたということである。

 ついに、敵も日本海軍と同じような転移戦術が使えるようになったのでは――その事実に、司令部に重たい空気が流れる。

 由々しき事態である。


「敵がどれほどのものかはわからないが、もし我が軍と同程度の転移能力があるなら、敵は今以上の増援を、送り込んでこれるということか」


 武本は顔をしかめる。栗田は真顔になった。


「ここは、これ以上の攻撃を見送り、撤退するのも手です」


 T艦隊としては、T計画遂行という本命の任務がある。それに差し支えがあってはいけない。第七艦隊も、連合艦隊主力が戦力の再編と回復に務めている中、無用な損害を出して、戦力配分面で負担をかけるわけにもいかなかった。


 だから栗田の意見もあながち間違いではない。ベンガル湾を南下する敗残部隊に固執し、戦力を消耗すべきではないのだ。

 実際、先の襲撃で、敵小型空母は全艦沈めており、数隻の航空輸送艦と巡洋艦、十数隻の駆逐艦を見逃したところで大勢に影響は少ない。


「戦果は充分と見ますが」

「……」


 武本は腕を組み、じっと考え込んでいる。栗田はその答えを待った。

 年齢や兵学校卒業では、栗田より遥かに先輩である武本である。しかし予備役になったことで、同階級、すなわち中将同士では、栗田の方が順列としては上になる。……なるのだが、歳の差が開き過ぎていて、どうにも予備役関係なしの立場で考えてしまう栗田だった。


 しかも、老いぼれではなく、現代の戦いにもきちんと対応し、実際に戦果を上げている。割と前線で戦っている点で共通していることも、栗田は武本を先輩と見て尊敬している節があった。


「神明、貴様、どう思う?」


 武本は、神明の意見を問うた。武本が中佐だった頃に、ふてぶてしい新米少尉であり部下だった神明である。魔技研絡みでの付き合いも長い。


「敵の転移装置、手に入れたいですね」


 神明はさらりと言ってのけた。栗田、第七艦隊参謀長の阿畑少将は呆気にとられ、武本はフッと微笑した。


「正直に言えば、敵が転移中継装置と同等のものが使えるのは、今後の戦略、戦術にも大きく影響します。敵の転移手段がどのようなものか知ることは、傾向と対策を練るためにも必要になってきます」

「魔技研の技術屋らしい意見だ。いや戦略家らしいとも言うべきか」


 武本は首を横に振る。


「で、貴様のことだ。願望を垂れ流すだけでなく、具体的な攻撃案があるのだろう? 聞いてやろうじゃないか」



  ・  ・  ・



「――ということで、須賀大尉。お疲れのところ悪いが、戦場に戻ってもらう」


 セイロン島トリンコマリー飛行場に試製陣風で降りた須賀 義二郎大尉は、同じく燃料補給にきた深山Ⅱ、その機長である日高 成喜大尉に声をかけられた。


「陣風は整備に時間がかかりますよ?」


 試製陣風の初実戦だったのだ。専属の整備員たちが、機体の状況を細かく確認するため、おそらく今日は飛べない。


「それとも、何か他に戦闘機があるんですか?」

「いや、お前さんには、俺たちの深山Ⅱに搭乗してもらう」

「……攻撃機にですか?」


 そちらの経験はないという須賀だが、日高はニヤリとした。


「聞けば須賀大尉は、遮蔽で隠れているやつも見えるそうじゃないか。ということで、ちょっとお手伝いしてほしいんだ。何せ、次の目標は、遮蔽に隠れている新型らしいんでね」


 言うほど遮蔽を見破れるほどの力に自信があるわけではないが――と思う須賀だが、やってみないとわからないところもあり、あからさまに否定もできなかった。

 なお、スカウトされた理由が、神明少将の指名と聞いた時点で、須賀は抵抗が無駄であることを察するのである。


 かくて、補給を終えた深山Ⅱ大型攻撃機は、トリンコマリー飛行場から飛び立ち、須賀もしっかり搭乗していた。

 重爆撃機と同等の図体ながら、マ式発動機の複数積みの影響か、滑走距離が意外と短い。そしてそのスピードも、やはりこの大きさの割には高速であった。


「あなたが須賀大尉ね。私は照準担当の高尾です。よろしく」


 高尾 鹿子大尉と顔を合わせる須賀である。しっとりとお姉さんな雰囲気を持つ女性だと思った。


「あなた、正木 初子は知っている?」

「初子さん? まあ、知ってる」


 一応、幼馴染みである。高尾の温厚そうな笑みが一瞬引きつった。


「名前呼びなんて親しそうね。どういう関係?」

「それ、何か任務に関係ある?」


 何となく嫌な雰囲気を感じたので須賀は追求を躱しにかかる。


「で、任務なんだけど、俺が探す遮蔽を使っている敵ってどんなやつなんだ?」

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