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第六三二話、雨中突撃


 空中から深山Ⅱが、異世界帝国艦隊に爆撃を仕掛けている頃、海からも進むものがあった。


 日本海軍第七艦隊がである。

 潜水状態の戦艦『扶桑』を旗艦に、第九水雷戦隊12隻は、異世界帝国ゲート守備艦隊残党に迫る。


「マ式ソナーによる確認では、敵水上艦隊の他に、潜水型巡洋艦中心の潜水部隊が潜んでいるようです」


 佐賀作戦参謀が言えば、武本 権三郎中将は自身の髭を撫でた。


「やはり、潜んでおる奴らがいたか。ただの残党ではないとは思っておったが」


 敵艦隊は、深山Ⅱの爆撃で撃破した以外に、海中にも潜水艦、いや潜水型の巡洋艦と駆逐艦を潜ませていた。

 阿畑参謀長は口を開いた。


「どうしますか、長官」

「決まっとる。ここまで来て、仕掛けないわけにもいくまい」


 海上が、深山Ⅱの攻撃で空に気をとられている間に、水中からも攻撃する。

 第九水雷戦隊、旗艦『九頭竜』の命令を受けた初桜型潜水型駆逐艦11隻は、一斉に海中で突撃を開始した。

 艦首53センチ魚雷発射管の発射口を開放。まず海中の敵潜水艦艇を狙う。そして2本ずつの先制雷撃を開始した。


 22本のマ式誘導魚雷は、敵艦隊下の潜水艦艇にそれぞれ直進。その高速推進音を、異世界人のソナーは探知し、その列が乱れる。

 だが海中での速度は魚雷の方が速い。それも誘導されていては、ただ針路や深さを変えた程度で躱すことはできなかった。

 たちまち8隻の敵潜水型駆逐艦が、魚雷に艦体を穿かれ、爆発した。


「撃沈8! 潜巡3は健在。他駆逐艦2」


 潜水巡洋艦3隻は、魚雷の接近を感知した際に、防御シールドを展開したのだ。九水戦の雷撃に対して、シールドのない駆逐艦8隻が沈んだが、巡洋艦型は耐え抜き、残存する2隻の駆逐艦と共に、まだ敵艦隊の下にいた。


「第二射。3番、4番、撃て(テェ)!」


 初桜型の艦首53センチ魚雷、四門中残る二門から追い打ちが放たれる。

 異世界帝国の潜水艦艇5隻は、九水戦の方へと艦首を向ける。明らかに攻撃の兆候だ。


「九水戦、各艦、防御障壁を展開!」


 敵の水中での高速攻撃――雷魚の存在は、九水戦も知っている。主な潜水艦は対策がとれないから後方に下げられているが、初桜型は、駆逐艦でもあるから防御障壁を装備している。


 敵はアクティブ・ソナーによる索敵で、九水戦の位置を割り出す。すると案の定、艦首から高速水中攻撃を行った。

 日本側が放った魚雷より速い雷魚は、狙った初桜型潜水駆逐艦に命中する……寸前で、障壁に阻まれる。


 一方で日本の誘導魚雷は5隻の敵の残存艦に集中。潜水巡洋艦のシールドに連続して53センチ魚雷が命中し、その耐久度を下げる。そして最後の二発が、消滅したシールドをすり抜け、着弾した。


「敵潜水艦艇、全て撃沈!」

「ようし海上の敵艦隊に攻撃を仕掛けろ! 全艦、突撃!」


 武本中将の命令を受け、九水戦旗艦『九頭竜』が浮上と同時に、露払いとばかりに片舷16門の53センチ誘導魚雷をばらまいた。

 廃艦となった装甲巡洋艦『阿蘇』を再生し、潜水型重雷装艦に生まれ変わった『九頭竜』である。

 それぞれ複数の誘導装置を装備し、同時誘導可能数を増やしている重雷装艦の雷撃は、混沌の敵水上艦隊に突き刺さった。


 駆逐艦4隻、航空輸送艦1隻に水柱が立ち上る。不運な敵駆逐艦は船体を引き裂かれ爆沈。船首に直撃を食らった航空輸送艦は、船内のスクリキ戦闘機用燃料庫が誘爆し、派手に吹き飛んだ。


『九頭竜』が残る片舷の魚雷が使えるように反転する中、浮上する戦艦『扶桑』と初桜型駆逐艦。

 強い雨が降り注ぎ、波もうねっている。それでも果敢に距離を詰める第七艦隊。その距離は5000メートルを切り、なおも突き進む。


 戦艦『扶桑』の35.6センチ連装砲が、敵艦隊の中の残存空母へと向けられる。発砲。黒煙が風に流れていく中、砲弾は瞬く間に距離を詰め、敵艦の周りに水柱を上げた。

 初弾命中ならず。しかし雨天にも関わらず、至近弾を叩きだす。


「こっちも光弾砲だったら、当たっていたか?」


 武本は呟いた。いくら距離は近いとはいえ、狙ったところに直接当たる光弾系と違い、通常火器での砲撃は、能力者が手を加えない限り、割と当たらないものである。


 異世界帝国艦隊も、迫る第七艦隊に対して行動に出る。

 空母、航空輸送艦が距離を取ろうとする一方、敵駆逐艦は、『扶桑』ならびに九水雷へを迎撃しようと動く。

 三基の13センチ単装砲を振り向け、視界不良の中、レーダー射撃によって、日本艦隊に発砲する。


 一方の九水戦の初桜型も負けじと12.7センチ単装自動砲で応戦する。さらに艦上の61センチ四連装魚雷発射管も動員して、撃沈を狙う。


「長官、T艦隊が敵反対舷より、攻撃を開始しました」


 通信長が、味方――栗田 健男中将率いるT艦隊の突入を報告した。

 第七艦隊が先鋒として攻撃を仕掛け、その注意を引いている間に、逆サイドよりT艦隊が襲撃する。作戦通りであった。


 浮上した『浅間』『八雲』は、逃走を図るグラウクス級軽空母と航空輸送艦を照準内に捉え、40.6センチ三連装光弾砲を発砲。

 シールドの有無関係なしに吹き飛ばす戦艦級光弾は、紙のように薄い軽空母と輸送艦を潰すように破壊した。


 重巡洋艦『愛鷹』『大笠』が続き、軽巡洋艦『奥入瀬』、駆逐艦『朝露』『夜露』『雨露』『露霜』の15センチ光弾砲が矢継ぎ早に、敵駆逐艦を穿ち、蜂の巣に変える。

 異世界帝国艦隊は、さながらシャチの群れに狙われた獲物の如く攻撃にさらされ、その戦力を失っていく。


 全滅も時間の問題となりつつあったその時、戦場に新たな動きがあった。

 戦艦『扶桑』の対水上電探がそれを捉えた。


「艦隊後方より、複数の反応出現!」


 何!?――『扶桑』の艦橋に緊張が走る。

 まるで転移のように、突然、それも8000メートル以内に、異世界帝国のオリクト級戦艦3、巡洋艦5、駆逐艦10の艦隊が出現したのだ。


『敵艦、発砲の模様!』


 見張り員が雨による視界不良の中、わずかな砲撃炎と音でそれを察知した。


「防御障壁、展開!」


 武本は不敵な笑みを浮かべる。


「やっぱりな、仕込んでおったか!」


 のこのこカルカッタの残存艦隊が、援軍もなしにセイロン島の鼻先を通ろうとするわけだ。第七艦隊を誘い出すために、罠を仕掛けていた。


「こんなこったろうと思って、栗田に頭を下げたんだ! よし、予定通り、戦場を離脱だ! とんずらだ!」


 第七艦隊の行動は早かった。防御障壁を張って、初弾での被弾を回避しつつ、反撃の行動を見せず、転移巡洋艦『来島』が待機している海域まで転移離脱するのだった。

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