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第六二八話、日本海軍の重爆撃機と新型貫通爆弾


 ベンガル湾を移動する異世界帝国カルカッタ侵攻軍の護衛艦隊を捕捉、撃滅するため、T艦隊は鉄島から出撃準備にかかっていた。


 第七艦隊の武本中将は、セイロン島を経由し、アッドゥ環礁の秘密基地で艦隊に合流した。

 イギリスが秘密基地を作ろうとし、その後、異世界帝国が引き継いで東洋艦隊を隠していた場所を、武本は艦隊泊地として使っていた。


 セイロン島のトリンコマリーが空襲を受けた際、停泊していた第七艦隊の戦艦、空母が複数大破、着底したことで、警戒していたのだ。

 敵がインド洋の制海権を得るためには、セイロン島の日本軍が邪魔であるのはわかっている。故に、艦隊が全滅するような事態は、インド洋に睨みを利かせるためにも避けねばならなかった。


「……故に、武本さんは、ベンガル湾を南下する敵が、第七艦隊を引き寄せるための餌かもしれないと思ったわけだ」


 神明少将が、ひとり呟けば、そばにいた技術者が「はい?」と首をかしげた。


「何か?」

「独り言だ」


 鉄島の転移倉庫の一つ、第七倉庫に神明はいた。


「中々大きいな」

「はい。大きさはアメリカのB-29や、火山重爆撃機とほとんど変わらないですからね」


 技術者は答えた。二人の前には四発の大型航空機が1機、鎮座している。


 その名は『深山』。

 中島飛行機が、アメリカの四発旅客機の試作モデル、ダグラスDC-4Eを参考に開発した日本海軍の四発の大型陸上攻撃機である。

 なお、6機しか作られなかったレアものだ。十三試大型陸上攻撃機として作られた深山だったが、参考にしたのが重量過多と整備性の悪さが特徴の失敗機であり、しっかりその特徴を引き継いで作られていた。

 そのため、海軍でも試作6機を残して開発中止となった代物だった。


 海軍は、鹵獲した異世界帝国軍の重爆撃機を改造して火山重爆撃機として使用するようになったが、問題となったのは、6機とはいえ作られた試製深山の扱いだった。

 廃棄か、あるいは輸送機に改造するかで海軍が考える中、そのうちの1機を魔技研が預かり、手を加えた。

 それが、目の前にある深山改造型。仮名称『深山Ⅱ』である。


「重量過多なら、軽くするか馬力を上げればいい」

「重爆撃機ですから、重くてなんぼ。であるなら、弄るのは発動機。幸い、我々は異世界人が重爆に使っているマ式エンジンがありますからね」


 技術者は言った。火山重爆も採用しているマ式エンジンの改造連結型エンジンを四基装備。その結果、最高時速591キロの高速を発揮する機体に生まれ変わった。

 当然ながら、遮蔽装置を装備。一方で転移中継装置は、積んでいない。


「さらに転移爆撃装置の採用で、爆弾搭載量は実質無視が可能」

「その搭載予定の重量を他の装備に割くことができる」


 神明の目が光った。


「爆弾誘導装置の搭載」


 無誘導の爆弾の軌道を操作し、ある程度の範囲内ならば、移動目標に導いて命中させる装置である。

 範囲については、投下高度も影響するが、早いうちから軌道を動かすことができれば、風に流された爆弾の修正や、予想した移動地点に誘導できる。


 着想は、戦艦などの砲撃の際、能力者が砲弾の弾着を修正する装置――それを爆撃機に応用したものである。


「これを載せられる機体となると、重爆くらいしかないからな」

「技術部門も、装置の小型、軽量化に頑張ったのですが、どうにも……」


 技術者は苦笑いする。


「器はあるんだ。充分だよ」

「そうですね。深山を手に入れられてよかった」


 爆弾搭載誘導装置を載せられる機体は、現状では、深山Ⅱか、火山重爆撃機くらいだ。しかし火山は数が限られている上、すでに配備先が決まっているので、今から研究用にくださいは通らない代物であった。前線で新たに鹵獲し、それを持ってくる以外には、入手は不可能と言ってよい。


「整備が面倒な機体ではありますが、まあ量産されるわけではないですし、爆弾誘導装置も、専門技師が面倒を見ないといけない代物ですから、整備性の悪さはまあ、許容範囲です」

「運動性は悪く、敵艦に肉薄できないから不採用……。そもそも四発機に海軍は何を期待していたのか」


 誘導兵器が採用されたご時世、超低空肉薄は過去のものであり、巨大な重爆撃機にそもそもやらせるものではない。


「その点、この深山Ⅱは、目標上空を真っ直ぐ飛ぶだけでいいわけですから、普通に飛べるだけで問題はないんですよね」


 技術者は言い、神明は頷いた。


「ほぼ能力者専用機だ。特別機と言ってもよい。それ以外は些細なことさ。……使えるんだな?」

「もちろんです。九頭島ですでに試験飛行は済ませてあります。実戦投入可能です」

「よろしい。……あとは、肝心の爆弾だな」

「対艦用の1.5トン爆弾。大和型の46センチ砲弾に匹敵する重さですね」


 神明と技術者は、第七倉庫の端に並べられている大型爆弾のもとへ移動する。


「……というか、戦艦の徹甲弾に似てますね。私は爆弾の担当ではないのでよくわからんのですが、これはもしかして徹甲弾を改造したものだったり?」

「いや、形が似ているだけだ。この爆弾は、対防御障壁貫通用でな」


 神明は説明した。


「この爆弾を、防御障壁を張られた目標の真上に落とす。すると先端が潰れ、内蔵されている障壁発生装置が作動する」


 だから先端は実はスカスカである。障壁にぶつかった衝撃で先端は潰れるようになっている。


「そんなに脆いのですか?」

「敢えて脆くしてある。硬いと跳ね返るからな」


 壁にボールをぶつければ跳ね返る。しかし卵をぶつければ割れて、跳ね返らない。


「第一の障壁が2秒ほど光の膜を展開して、爆弾を守る。跳ね返らなかった爆弾は、その後、速度がなくなるので、重力に従って敵の障壁をすり抜ける」


 歩行でも通り抜けられる防御障壁である。低速のものはそのまま通過できるのだ。


「通過した爆弾は、目標に当たる。だが落下速度で貫通力が稼げないから、装甲を抜けない。そこで第二の障壁が作動する。通常は壁にするために横に展開するが、第二の障壁は切断効果を狙って縦に切り込みを入れる」


 そこで装甲を切り裂き、重量で爆弾を切れ込みに落として、爆発――という仕掛けである。


「障壁持ちの場合は、それでダメージを与える。軽装甲の艦艇ならば、第二の障壁の時点で船体を真っ二つにされた直後に爆発してトドメ。障壁がない場合は、着弾の瞬間、第一の障壁で、艦橋などの構造物をまず切断、次に縦に切断、そして爆発……つまりは、障壁あるなしにかかわらず効果があるということだ」


 障壁がある場合、貫通力は期待できない分、爆弾の中の炸薬はたっぷり詰めてある。当たれば強力だが、欠点を上げるならば、無誘導であることか。

 後はまだ試作品であるため、正規のラインではなく、製造系能力者たちによる手作りで、数がまだ20発そこそこしかないということか。


「それを活かすために、爆弾誘導装置付きの爆撃機――深山Ⅱなんだがね」


 この爆弾の効果についても、実戦で試す気満々の神明だった。

・深山Ⅱ陸上攻撃機

乗員:7名

全長:31.02メートル

全幅:42.12メートル

自重:31800キログラム

発動機:武本『雷電』一二型×4

速度:591キロメートル

航続距離:3556キロメートル

武装:20ミリ光弾機関砲×2 7.7ミリ機銃×4、転移爆撃装置による各種爆弾

その他:日本海軍の四発陸上攻撃機『深山』を魔技研が改修したもの。出力不足のエンジンをマ式に換装。遮蔽装置を搭載。転移爆撃装置を装備し、爆弾を搭載する必要がなくなった。用意の必要はあるが搭載することなく使用できるため、その爆弾積載量は実質無限。

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