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第六二七話、次の目標はベンガル湾


 鉄島司令部に、インド洋から駆けつけた武本 権三郎中将は現れた。彼は、T艦隊司令部に、異世界帝国のカルカッタ侵攻部隊の護衛艦隊の今を告げた。


「カルカッタの南にあるサーガル島。フーグリ川からベンガル湾への入り口近くにある小さな島だな。ここに、カルカッタに攻めてきた異世界帝国軍の護衛艦隊が残っていたんだが、こいつらが動き出した」


 インド方面に一時上陸した敵。その支援に現れた全長600メートルに達する超大型戦艦『レマルゴス』。それを撃沈したのが、5月16日のこと。あれから一カ月半の月日が流れている。


「もう7月なのに、まだ動けたのですか?」


 田之上首席参謀が驚いて聞けば、武本はコクリと頷いた。


「わしらも、とっくに連中は日干しになっていると思ったんだがな、これが一斉に、今になって動いたんよ」


 参謀たちはざわめく。栗田 健男中将は難しい顔になる。


「敵に補給があったということですか?」

「わからんが、そうとしか思えんわな。九水戦で、ベンガル湾に網を張っていたのだが、敵の補給艦などは引っかかっておらん」


 初桜型潜水駆逐艦で構成される第九水雷戦隊は、海上はもちろん、潜水しての通商破壊活動も可能な艦艇である。

 それらを投入しベンガル湾を通って、カルカッタ部隊に補給しようとする敵がいないか目を光らせていた。


「だが如何せん、セイロン島沖の海戦、そしてその後の空襲で第七艦隊は、大きな被害を受けた。戦力補充は少なく、護衛戦力もカリブ海に引き抜かれたから、手が足りとらんのが実情よ」


 戦艦1、哨戒空母3、巡洋艦4、敷設艦2、駆逐艦14。それが現在の第七艦隊の戦力である。

 田之上は尋ねた。


「潜水艦はないのですか?」


 インド洋では、第七艦隊は敵通商路の破壊を積極的に行っていた。その戦力は当然、潜水艦も用いられていたはずだが。


「知らんのか? 敵の新兵器対策のために、潜水艦に防御障壁を載っける工事を組まれて、今は前線に出せんのだ」


 あー、と参謀たちは納得する。撃沈した敵新型潜水艦を回収、その武器について調べた結果、生き物を改造したものだということがわかった。


 日本軍はこの水中高速生物を、『雷魚』と呼称することに決めた。魚雷の文字をそのまま反対にしただけだけだが、実際、生き物であることを除けば、やっていることは魚雷と変わらないので、その命名で落ち着いた。

 その雷魚対策に、日本海軍は、潜水艦の改装工事を行っている。撃たれたらおしまいである以上、防御障壁の装備は急務であったのだ。


「うちの九水戦は、障壁持ちの潜水型駆逐艦だから、こいつはこのまま使えるのは幸いだった。あれまで引き抜かれていたら、何もできんからな」


 武本は笑った。


「ともあれ、敵さんがベンガル湾を南下するというなら、これを放置もできんということだ。どこに燃料があったか知らんが、動けなくなったと思っていた連中が出てきたんだ。空母の艦載機も全然使える可能性もある。それでセイロン島を攻撃されても面倒だ」


 第七艦隊の情報によれば、異世界帝国のカルカッタ侵攻軍の護衛艦隊――今動き出した敵は、軽空母12、小型戦闘機搭載と思われる輸送艦18、軽巡洋艦4、駆逐艦33隻という。


「思ったより、戦力が残っていますな」


 藤島航空参謀が言えば、武本は鼻をならす。


「そういうことだ。艦載機搭載の輸送艦も空母と見るなら、30隻の軽空母がいるということになる。うちの空母は偵察機十数機程度の哨戒空母が3隻しかおらん」

「10倍の戦力差か……」

「敵の稼働機の情報はあるんですか?」


 田之上に続き、藤島が問う。


「どれくらい動かせるかはわからん。が、直掩と、対潜警戒と思われる攻撃機が出ているところからして、まったく飛んでこない、ということはない」

「しかし、武本さん、我が艦隊がお手伝いするにしても、こちらも空母は多くありませんが」


 栗田が率直に告げた。助けてくれ、とT艦隊を頼られても、空母3隻と第三航空艦隊の戦力を加えても、敵と正面から戦えるかどうかわからない。


「正直、航空戦はおまけになると、わしは思っておる」


 武本は答えた。


「なにせ7月はベンガル湾は雨ばかりだからな」


 むしろ、そこに勝機があると、武本は見ているようだった。潜水部隊による水中襲撃、水上艦による中・近距離戦闘。


「――おい、神明」


 武本は、それに気づいた。自身が中佐で、神明が少尉だった頃からの付き合いである。


「貴様、また何か考えておるな」

「前々から考えていたことがあったので、ちょっと試せないかと思ったものが……」

「おっ、また何か新兵器ですか?」


 藤島が、どこか面白がるように言った。魔技研での神明を知っている者特有の反応である。


「悪天候下で、雲の上から誘導爆弾を投下して、目標に命中させるというものだ。能力者頼りではあるのだがな」

「それってあれですか、見えないものに爆弾を当てるってやつ」


 藤島の言葉に、周りがざわついた。現状の誘導兵器も、基本、敵が見えていることで当てているから、見えないものに当てるというのが、いかに異常なことかわかるのだ。


「能力者には見えているんだがな。ともあれ、悪天候で空母が戦力にならない状況の時、それを利用できないかと考えていたものがある」


 神明の発言に、武本は皮肉げな笑みを浮かべた。


「もしそれが使えるんなら、こっちとしても助かるんだがな。……話を戻すと、第七艦隊としては、ベンガル湾を南下する敵艦隊の目的がはっきりしていない以上、無視はできん。これを襲撃したいが、手が足りないからT艦隊に支援をお願いしたい、とそういうことだな」

「なるほど」


 栗田は頷いた。武本は真顔になる。


「で、ここから大事な話だが、敵の目的がいまいちわからん。だから、これは我々を吊り出すための囮の可能性もある」

「つまり、罠かもしれない、と……?」

「そうだ。前に第八艦隊、第九艦隊が紫の艦隊に急襲を受けた件もある」


 第七艦隊単独で、敵に仕掛けなかった理由はそれだった。まだ確認されていない敵が現れた時、反撃できる手段の一つとして、武本はT艦隊に応援を求めたのだ。……内地の連合艦隊は、再編を理由に増援を渋ったのかもしれないが。


「――だからといって、敵を素通りさせるわけにもいかん。すまんが、栗田、神明、力を貸してくれ」


 すっと武本は頭を下げた。年長者にそれをやられてしまえば、年次にこだわる帝国海軍軍人として、嫌とは言えなかった。

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