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第六二六話、欧州か、南米か


 九頭島近海の鉄島に、T艦隊は、補給と整備を兼ねて帰港していた。

 南東方面艦隊の支援が終わり、本来のT計画遂行のため、次の出撃のための準備を整えているのだ。


 T艦隊参謀長の神明少将は、作戦の進捗と、南東方面艦隊のお号作戦への加勢の件を連合艦隊司令部ならびに軍令部に赴いて報告した。

 その報告会の後、神明は鉄島に戻り、その基地司令部で、戦況分析と今後の行動についてT艦隊司令部で話し合いが行った。


「――現状、有力な候補は二つ。一つ、大西洋を渡り、欧州やアフリカの連絡網の開拓。もう一つは南米の封鎖、となります」


 神明は、T艦隊司令長官、栗田 健男中将と司令部参謀たちに告げた。


「前者は軍令部、特に第三部からの意向が強く働いています。いわゆる、異世界帝国の支配領域についての情報が、我が国にはほとんど入ってきていません」


 我々は、異世界人について、ほとんどわかっていない。――軍令部は、それを特にきにかけていた。軍令部総長、永野元帥も、戦争の終着点を見いだすためにも、敵情を知らねばならないと仰っている。


「後者は、軍令部第一部の他、連合艦隊からも希望があったとのことです」

「連合艦隊からですか?」


 首席参謀の田之上 義雄大佐が首をかしげる。すると航空参謀の藤島 正少佐がニヤリとした。


「大方、南米作戦派遣艦隊である古賀長官の艦隊を、内地に引き揚げさせたいんじゃないですか?」


 軍令部のアメリカ支援策で、艦隊を派遣している連合艦隊である。できれば早々に撤収させたいというのが、本音なのだろう。

 栗田が自身の顎をさすりながら言った。


「連合艦隊は、我々に何をさせたいのか」

「いわゆる米軍による南米攻略の完遂のため、南米の有力な軍港の一時的破壊ないし封鎖でしょう」


 神明は答えた。T艦隊は、敵潜水艦隊のカリブ海進出、通商破壊を困難なものとするため、その後方拠点を叩いた。

 パラマリボ、フォルタレザ、レシフェを相次いで攻撃したから、そのままブラジルを南下し、サルバドル、リオデジャネイロ、そしてウルグアイまで行ってモンテビデオやブエノスアイレスをも叩いてほしい、と言うことなのだろう。


「連合艦隊としては、南東方面艦隊が、オーストラリア封鎖でやった残骸爆弾をひどく気に入ったようで、あれでやれないかと打診がきています」


 回収した敵輸送艦の残骸を港湾施設にばらまくことで、港の使用を困難とし、復旧にかなりの時間を要する策。

 転移爆撃装置を装備した十機前後の彩雲改二がもたらした大戦果。その成功を連合艦隊司令部は味を占めたというところである。


「こちらとしては、南米南部への転移中継ブイの散布作業もありますから、そのついでに南米の主要港の封鎖を行うのも、吝かではない、と考えます」

「本来やらねばならない任務のついでにやれるというのなら……まあ、吝かではないな」


 栗田も認めた。わざわざ艦で、港に近づかなくても、遮蔽装置付きの偵察機で出来てしまうのだから、艦隊が被る被害は少ない。


「しかし、彩雲だけでやれるなら、艦隊は大西洋、航空隊は南米と同時進行も可能ではないだろうか?」

「可能ではあります」


 神明は首肯した。


「南米封鎖に、艦隊が必要な事態が起きたとしても、転移ブイで移動できますから」

「同時にやりゃあ、時短になる、ということですな」


 藤島のニヤリとしていた顔が、真顔になる。


「何か、気になることでもあるんですか、参謀長?」


 藤島は神明が魔技研の戦闘部隊代表のような時から、彼を知っている。開戦時のトラック沖海戦の際、第九艦隊の空母航空隊に所属していた藤島である。

 九七式艦上攻撃機に乗り、敵艦隊に誘導弾をぶつけた以前から、神明とは顔見知りである。だから彼の微妙な言い回しに反応したのだった。


「気になるといえば、カリブ海を荒らし回った敵潜水艦隊の行方だ」


 神明は答えた。

 日本艦隊に追われ、バミューダの拠点を失った異世界帝国潜水艦隊の残存艦は、南米方面へ撤退しているのが確認されている。

 T艦隊は、それを先んじて補給拠点になる場所を攻撃したが、肝心の残党はまだ残っていると思われた。


「白城少佐、『呂403』は何か報告してきているか?」


 神明が問うと、情報参謀の白城 直通少佐は背筋を伸ばした。


「はっ、敵潜水艦隊主力と思われる潜水艦部隊を発見、現在追跡中です。今のところは、特に行き先について、報告はありません」

「連中も、立ち寄る港が爆撃されて使えないことくらいは知っていると思われる。問題は、どこに立ち寄って補給をするか、だ」

「まだ敵は南米なのか、白城少佐」


 田之上首席参謀が尋ねた。


「はい。かなり沿岸に近いところを航行しているようで、今頃は、ブラジルのアマゾン川の出口辺りかと」

「アマゾン川!」


 藤島が笑った。


「まさか連中、川を登っていったりしないよなぁ!」


 わはは、と藤島が豪快に笑えば、参謀たちも苦笑する。

 南米ブラジルを中心に複数国の間に流れる世界最大の流域面積を誇るのがアマゾン川である。多くの支流を持つがそれらも大半が巨大なものであり、それらをまとめた名称としてアマゾン川と言われている。その流域面積でいえば、コンゴ川、ミシシッピ川に2倍近い差をつけているとされる。

 白城は真顔になる。


「でも、外洋航行できる船ですら入れる巨大川ですからね。もしかしたら、敵がアマゾンの奥地に秘密基地なんか作っているかもしれません」

「冒険小説の読み過ぎじゃないか、白城」


 少し場が和んだところで、神明は話を続けようする。

 が、それより先に、来客があった。


「邪魔するぞ」


 第七艦隊司令長官、武本 権三郎中将が、鉄島司令部に現れた。現役最年長中将の来訪に、栗田や参謀たちが姿勢を正した。


「そのままでいい。会議中、すまんな」


 セイロン島にいて、インド洋を預かっている提督は、ゆったりとした調子で言った。


「次の攻撃目標について話し合っていると聞いたんだがな、すまんが、こっちの話も聞いてもらえないだろうか」

「何かあったのですか?」


 栗田が片方の眉をひそめながら確認すれば、武本は頷いた。


「例のベンガル湾の奥に居座っていた敵さんが、動き出そうとしていてな。わしの第七艦隊だけでは、少々心許ない。単刀直入に言う。助けてくれ」


 ぶっちゃけ過ぎである。

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