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第六二五話、稲妻師団、侵攻す


 オーストラリア無力化作戦、お号作戦は、進捗は順調だった。

 日本海軍は、大陸中央のアリススプリングスの大アヴラタワーを潰し、各軍港を攻撃し使用不能に追いやった。

 そこからは、特殊戦闘団である海軍『稲妻師団』の出番である。


 アヴラタワーの範囲が制限され、スカスカとなったオーストラリア大陸。異世界人らが移動にも困る中、拠点間の空白地帯を、稲妻師団に所属する第1029海軍航空隊の虚空汎用輸送機が飛ぶ。

 遮蔽装置によって身を隠して飛行する輸送機は、目標地点の近くまで来ると垂直離着陸機能を活かして、着陸。カーゴブロックに乗せてきた戦闘員を降ろした。


 輸送機ではあるが、滑走路のない戦地での戦闘員の展開、収容を目的に作られた虚空である。その隠密行動力と相まって、稲妻師団の陸戦要員を、無事に敵地にまで運ぶのであった。


 後部昇降口より降りた特殊歩兵分隊は、周囲を警戒すると一人が収納鞄を開き、陸上設置型の転移中継装置を出した。

 これを作動させると、数分と経たず、四式装機兵が3台現れた。異世界帝国陸軍の使用する歩兵用装甲服、その日本海軍版である。


『ここからタワーまで歩きだぞ』


 四式装機兵小隊は、防御シールドに守られたアヴラタワーを破壊するため、行軍を開始する。

 オーストラリア大陸の各拠点にあるアヴラタワーを叩けば、占領せずとも異世界人たちの命運は時間の問題となる。


 大規模戦力を上陸させることができない日本軍としては、少ない戦力で敵を壊滅させるアヴラタワー破壊が、最善の手だった。

 町外れや基地近くに建てられたアヴラタワーは、その都市周辺を異世界人にとっての安全地帯とする。

 そこに、稲妻師団の攻撃部隊は地上から接近する。


 実のところ、彼らの警備態勢はザルだ。対空監視はレーダーも活用し、厳重ではあるが、こと地上に関しては、最前線でもなければ手薄もいいところだ。

 理由は簡単だ。

 敵がいないからだ。


 異世界帝国は後方拠点ほど、最低限の設備を補修はするものの、設備を強化することは稀である。

 特に地上に関しては、占領した土地の人間は捕虜として移送されるため、異世界人とそれ関係のものしか、現地にはいない。


 つまり、現地人の面倒など一切必要なく、スパイもいなければ、野生の生物を除けば敵対存在もいなかったのである。

 そうなると警備が最低限になるのも無理もない話だった。


 とはいえ、まったくの無防備ということもなく、数は少ないが要所には監視台が置かれ、地上にはゴーレム兵器が哨兵として立っていたりしていた。


『緊張感がないな』


 ゴーレムを発見し、それを迂回する稲妻師団歩兵。戦闘となれば、歩兵にとって手強いゴーレムだが、それ以外のことは大したことがない自動兵器である。

 緩やかな警戒網を抜けて、アヴラタワーに接近する四式装機兵小隊。


『障壁範囲内に侵入』

『星野、噴進砲』


 小隊長は、部下に指示を出す。12.7センチ噴進砲――ロケットランチャーを携帯していた装機兵が、アヴラタワーへその砲口を向けた。


『金城』

『……誘導装置、よし』


 僚機が携帯式の魔力誘導装置を、アヴラタワーに向ける。装置の大きさから、噴進砲に取り付けられなかったことから別装備の扱いとなっている。


『照準よし』

『よし、撃て!』


 星野機の噴進砲からロケット弾が放たれる。金城機は照準をつけたまま、ロケット弾をアヴラタワーへと誘導する。

 そして着弾。次の瞬間、一式障壁弾の弾頭が取り付けられたロケット弾は、光の膜を展開し、爆発と共にタワーを横にすっぱりと両断した。

 タワーの上層が、衝撃で傾き、両断されたことで、切り倒された大木の如く、崩れ落ちた。


『ようし、破壊成功! 撤収!」


 小隊長機は、12.7ミリ機関銃――米ブローニングM2重機関銃の装機兵用機関銃を構え、敵に備えつつ、部下に後退を命じる。

 警報が響き渡る。その緊急を表す警報はしかし、敵襲を示すそれと共に、生命維持に問題ありを知らせるものも混じっていた。


 それはそうだ。拠点周囲を覆っていたアヴラタワーが機能停止したならば、制限時間はあるが専用のスーツを切るか、安全の確保されたセーフティーエリアへ駆け込むしかない。

 つまるところ、非常時に備えた警戒チーム以外は、反撃どころではなく、異世界人は混乱に陥った。


『まったく、後方だからといって、気を抜き過ぎなんだ』


 この状況でもまともに動くゴーレムを、ブローニング機関銃で蜂の巣に、小隊長の操る装機兵は撤退口を作る。

 警備は手薄。襲撃を許した後のこの体たらく。


『最前線と後方の温度差に風邪を引きそうですな』


 金城が、誘導装置から12.7ミリ機関銃に持ちかえ、敵を掃射する。敵兵の一団と遭遇したのだ。しかしよくよく見れば、警備の兵士ではなく、整備兵の一団だったように思える。

 どのみち、邪魔をするなら排除するしかないのだが。


 数百、数千も兵がいながら、敵にその能力を発揮させることなく、装機兵小隊は、撤退するのであった。



  ・  ・  ・



 稲妻師団の装機兵部隊は、オーストラリア大陸の各異世界人の拠点を奇襲し、アヴラタワーを叩いていった。

 タウンズビル、ロックハンプトン、ブリスベン――襲われた拠点から、タワーの喪失と救援要請、日本軍の襲撃が発信されたものの、拠点間が広いオーストラリアでは、そう簡単にいかない。


 また転移中継網により、さほど間を置かずに攻撃が各地で行われたことも、よりオーストラリア駐屯軍を混乱させた。

 パース、アデレード、そしてメルボルン、シドニー、タスマニア島ホバートなどなど。


 電撃的な攻撃速度は、まさに稲妻師団の名の違わぬ、活躍と言える。

 封鎖され、外部からの支援も救援も受けられる状態ではない異世界帝国オーストラリア駐屯軍は、滅びの道を転がり落ちていくのであった。

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