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第五九四話、ノーフォーク海軍基地へ


「第八十一戦隊が、やられた……だと?」


 古賀 峯一大将は、その報告に一瞬言葉を失った。

 日本海軍、カリブ海・大西洋警戒部隊は、小アンティル諸島に押し寄せた異世界帝国の潜水艦隊と交戦。200を超える敵潜水艦のうち150隻近くを撃沈し、残りを撃退した。


 激闘であった。

 マ式ソナーによって、敵潜水艦を多数探知し、対戦魚雷で反撃したものの、敵もまた多数の魚雷を放ち、古賀艦隊を攻撃してきた。


 対魚雷防御の一式障壁弾がなければ、艦隊は大きなダメージを受けていたに違いない。それでなくても、障壁弾の切れ目や隙間を運良く抜けてきた魚雷に当たり、駆逐艦『山月』『春雲』が大破、戦艦『比叡』大破、『霧島』中破、『榛名』『甲斐』が被雷した。


 特に被害が大きかったのは、第七戦隊の金剛型だろうか。最初に被雷したのは『榛名』で、これは防御の隙間をたまたま抜けてきた一発に当たるという不運だった。浸水により速度低下、隊列から離れたが、七戦隊は継続して潜水艦狩りにあった。


 かつては潜水艦退治は駆逐艦の仕事であったが、日本海軍の主要艦艇には、敵潜水型駆逐艦の襲撃に備えて、戦艦ですら対潜短魚雷を装備している。故に、対潜作戦にもかかわらず、戦艦、巡洋艦が前線に投入された。


 何せ百を超える数の潜水艦との交戦も想定されていたから、カリブ海・大西洋警戒部隊の駆逐艦だけでは、魚雷切れによる有効な反撃がとれなくなる可能性もあったのだ。

 そしてその予想は当たり、古賀艦隊は200隻もの敵潜と戦うことになってしまった。結果、攻撃できるからと戦艦も対潜狩りに動いたのだが、味方を盾に忍び寄った敵潜水艦の雷撃が、短魚雷投下中の『比叡』『霧島』に直撃した。


 改装を重ねてきたとはいえ、大正生まれの老朽艦にはその被害は大きく、戦線離脱を強いられた。

 古賀艦隊でも、戦艦が離脱するような被害が出たが、八十一戦隊もまた敵潜にやられたという。


「撃沈されたのか?」

「潜水艦は全滅です」


 原参謀長は答えた。


「戦艦『諏方』大破、『石動』『国見』も損傷し、転移離脱したとのこと。敵は新兵器を投入してきたようで、さらに使用する魚雷は防御障壁を貫通したそうです」

「障壁を貫通……!」


 古賀と参謀たちは息を呑んだ。

 日本軍には転移弾や対障壁弾などがあるが、異世界帝国も防御障壁を破る武器を使ってきたということだ。これは日本軍にとっても衝撃だった。


「長官、敵のことは気になりますが、我が艦隊も、対潜魚雷がほぼ枯渇しております」


 原は告げた。


「海域も近いですから、留まっておりますと被害が拡大するだけと考えます。補給のためにも、帰還すべきです」

「……うむ、そうだな」


 すでに金剛型戦艦が4隻中、3隻が損傷している。対潜戦闘で、戦艦にこれ以上被害が出るのは本意ではない。

 魚雷切れ対策のための苦肉の策で参加させたが、本来なら、潜水艦しかいない場に戦艦を連れ回すべきではないのだ。


「帰還の際の援護は、空母航空隊に――」

「いや、転移で後方に下がる。その方が時間と燃料の節約になるだろう」


 のんびり水上航行をしていれば、敵潜水艦の追尾や待ち伏せもあるかもしれない。いくらマ式ソナーがあって水中索敵能力が高いとはいえ、積極的な反撃ができない時点で、守りに神経を使うのはよろしくなかった。


 かくて、古賀は決断した。

 そしてこの決断が、結果として敵の追撃を振り切り、損害なく後方へ辿り着くことに繋がるのであった。



  ・  ・  ・



 神明少将が率いる転移ゲート輸送部隊は、全艦無事に、アメリカはバージニア州にあるノーフォーク海軍基地に到着した。

 この基地は1917年に設立し、戦後は人員削減され、小規模な活動のみとなっていた。

 しかし、第二次世界大戦が始まると大規模な増員と共に大増築し、いくつもの司令部が建てられ、基地機能が拡充された。何とも馬鹿でかい施設である。


 神明部隊がアメリカ東海岸に近づいた頃から、多数の対潜哨戒機が盛んに飛び、少数ながら護衛艦が輸送部隊の護衛に同行し、敵を近づけさせなかった。


 何とも熱い歓迎だと、神明は思った。護衛につく駆逐戦隊や、哨戒機からの通信に、わざわざ『日本の友人へ』や『太平洋の戦友』などとつけてくるものだから、通信士はもちろん、それを聞かされる艦橋の乗員たちも、頬が緩んでしまっていた。

『龍驤』の足鹿艦長などは――


「何だか英雄にでもなったのような気分で、こそばゆいですな」

「バックヤード作戦で彼らを助けたのだ。その事で、酒を奢りたいという連中がいるのだろう」


 神明は適当なことを言った。


 ただ転移ゲートを運んだだけで、この歓待は、おそらくそうなのだろう。上層部はともかく、末端の兵たちに、日本海軍が運んできたものが、転移ゲートと知っている者は多くはないだろう。


 知っているとしても、せいぜい危険を押して重要な『何か』を運んできた、程度と思われる。

 だがそれでも、大西洋のアメリカ海軍は、バックヤード作戦で大西洋艦隊と、上陸部隊の危機を救ったのが日本海軍であることを知っている。

 黄色人種だと馬鹿にしている白人もいるだろうが、助けられたことを恩義に思っている者もまたいるだろう。


 転移ゲート輸送部隊はノーフォーク海軍基地に入港。大型艦艇は軒並みドック入りや工作艦による修理を受けており、駆逐艦などの小型艦が目につく。新型らしい艦とすれ違いつつ、さっそく『九頭竜丸』が運んできたゲート発生機の引き渡しが行われた。


 魔技研の技術者が立ち会いのもと、装置についての説明が行われる中、輸送部隊代表として神明と足鹿大佐が、ノーフォーク海軍基地に招待された。

 広大な軍港と基地施設、各司令部に圧倒されることしばし、神明と足鹿はロイヤル・E・インガソル大西洋艦隊司令長官と会談することになった。


「何故!?」


 足鹿は予想外の事態に激しく困惑した。彼らのオフィスで、痩身の大西洋艦隊司令長官は笑みを浮かべる。


「よく来てくれた。日本海軍のこれまでの奮戦と活躍は耳にしている。カリブ海では君たち日本人に助けられた。大西洋艦隊将兵を代表して感謝の意を表明したい」


 インガソルは、神明と足鹿に席をすすめた。


「無事に荷物がノーフォークまで辿り着けて安堵している。残念なことに、今は合衆国の裏庭にさえ、多数の敵潜水艦が跋扈している。諸君らにも苦労をかけた」

「いえ、道中、貴国の支援あればこそです。我々も感謝しております」


 神明は応えると、インガソルは頷いた。


「ちなみに今回の積み荷については……知っているね?」

「はい、閣下」

「日米の今後を占う上で重要な積み荷であった。その指揮官を任されたのだから、君は話せるのだろうね、ミスター?」


 インガソルは話をしよう、と言った。これに対して、神明は顔にこそ出さないが面倒なことになったと悟った。

 聞かれると割と話してしまう性質なので、余計なことを言わなければよいが、と思う。大西洋艦隊のボスが出てきた時点で、嫌な予感はしていた。

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