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第五九二話、潜水艦隊、侵入


 転移ゲート輸送部隊こと、神明部隊がノーフォークを目指している頃、小アンティル諸島で、敵潜水艦掃討作戦を行っていた古賀 峯一大将指揮するカリブ海・大西洋警戒部隊に急報が入った。


「なに、全滅!?」


 古賀が驚きを隠せない中、高田 利種首席参謀は頷いた。


「はい、現在、第十四潜水戦隊が、未知の敵潜水艦隊と交戦。すでに第六十三潜水隊は全滅し、第六十四潜水隊も窮地に陥っているようです」


 呂500型潜水艦は、いわゆるドイツのUボートを異世界帝国から回収し、マ式機関への換装、大幅な無人化を図った中型潜水艦である。

 それらで構成されている第十四潜水戦隊は、二個潜水隊、14隻の呂号潜水艦があるが、すでに一隊7隻がやられ、残る一隊も半減しているという。


「第六艦隊から、第八十一戦隊を含む増援を送ったとのことですが……到着まで今しばらくかかるかと」

「ううむ……」


 古賀は、原 鼎三(ていぞう)参謀長を見た。


「未知の潜水艦隊……」

「これまでの鹵獲品ではなく、異世界帝国の新型潜水艦でしょうか」


 マ式潜水艦となった呂号潜の水中速力、機動性は、地球各国の潜水艦を圧倒する性能を持つ。

 もちろん、これまでの戦いでも撃沈された呂号潜もあって、決して無敵ではない。だが一度に7隻、いやそれ以上が失われるのは、とても珍しいことであった。


「奴らの本命、主力か」


 唸る古賀だが、新たな報告が、旗艦『出雲』にもたらされる。


「長官、グレナディーン諸島の警戒網に、敵と思われる潜水艦が多数捕捉されました。その数、軽く五十を超えており、もしかしますと――」

「敵の主力が再度侵攻してきたというのか……!」


 300以上の潜水艦で攻め込み、米軍の対潜部隊を壊滅させた敵。東海岸の船舶を破壊していった連中が、大挙して押し寄せてきたかもしれない。


「しかし、想定より早い……」

「ですが、カリブ海に本格的に入り込まれ、そこで分散されると手の打ちようがなくなってしまいます」


 高田は指摘した。


「把握できているうちに、できるだけ叩いておくべきと考えます」

「……そうだな。では、我が艦隊は、グレナディーン諸島に急行。敵潜水艦隊を撃滅する!」


 命令は下された。

 第六艦隊が他方で動いているため、水上艦隊中心の古賀艦隊が現場へ駆けつける。

 専門の対潜部隊ではないが、戦艦、巡洋艦を含め、駆逐艦も対潜短魚雷発射管を装備しているので、対潜戦闘は可能だ。


 しかし、古賀もまた一抹の不安を拭えずにいた。果たして、現在の艦隊だけで対応できる数であるのかどうか。



  ・  ・  ・



 ムンドゥス帝国、第一潜水艦隊は、カリブ海に侵入を果たした。グレナダ島沖で、遭遇した地球側潜水艦部隊と交戦し、これを撃滅したのだ。

 艦隊司令長官ズィーア・ピスティス大将は大柄な男であり、そりあがった頭、がっちり鍛えられた体の持ち主である。


 手狭な印象がある潜水艦ではあるが、彼の座乗する新鋭潜水艦『ヴィスィア・ネラ』は200メートル級の大型艦だった。


「地球側の潜水艦は、大したことがないと聞いていたが、中々手強いヤツもいたな」


 最近、地球に着任したピスティス大将である。彼はムンドゥス帝国の典型的武人型の将であり、潜水艦隊司令部のデスクよりも前線を好んだ。

 もっとも、彼が前線を希望したのは、自分が設計にかかわった新型潜水艦の性能を直に感じ、暴れ回りたいと考えてのことであったが。


「どうやら地球人も、我らの魔力動力を使った潜水艦を使っているようだ。これまで回収してきたものとは格が違う」

「我々の技術ですから」


 参謀長のコミス中将が、したり顔で言った。


「連中もムンドゥスの技術を真似るのが精一杯ということでしょう」

「だろうな。もし奴らの技術が、帝国を凌駕していれば、我らは生きてはいまい」


 遭遇した敵潜水艦は、地球においてドイツという国の潜水艦に似ていた。しかしその中身は大きく変わっていて、水中速度が想定の倍以上を発揮し、高速の誘導魚雷を武器に、対潜戦闘を挑んできた。


「だが、いくら技術があろうとも、思考までは我々には及んでおらん」


 速度もあり、武器も優れていたが、潜水艦同士の戦い、その駆け引きを理解していない。どうにも杓子定規というのか、型通りの動きしかしていなかった。


 歴戦のサブマリナーであるピラティス大将に言わせれば、実に手応えのない相手であった。……彼は知らないが、そう思うのも無理もない。戦った日本潜水艦――第十四潜水戦隊の呂号潜はコア運用の自動艦だったのだ。

 血の通っていない自動人形の相手は、ピラティスにとっては退屈なものであった。


「やはりこの世界の人間は、我らムンドゥス帝国人に遠く及ばぬ下等種族でありますな」


 コミス参謀長は、バッサリと切り捨てた。


「このような下等種族相手に数年もかかってなお制圧できないとは、地球侵攻軍は随分と頼りない者しかおりませんな」

「レポートは読んだ。日本軍というのが、大層強いらしい。地球侵攻軍は、その日本とアメリカ相手に手こずっているようだ」


 ピラティスは豪奢な司令官席に深々ともたれた。誘導魚雷、防御シールド、さらに転移技術まで持っているらしい。にわかには信じられないところだが、頭ごなしに無視することはしない。

 それは、これまで地球侵攻軍が払ってきた損害の大きさを見れば、わかるところであった。


「別動隊は、カリブ海に入れたのかな?」


 ピスティスが確認すれば、コミス参謀長は参謀たちに確認する。


「現在、日本艦隊と交戦している模様です」

「ほう、噂の日本軍か」


 潜水艦隊司令長官は、ニヤリとした。


「250ほどの潜水艦で突破できるかな……」

「所詮は囮でありますから」


 コミス参謀長は、ずる賢そうな笑みを浮かべる。


「仮に日本艦隊が勝っても、弾切れでありましょう。そこを我らが仕掛ければ、容易にトドメとなるでしょう」

「うむ。……ではそちらに――」

『索敵機より通信! 戦艦3隻を含む水上艦艇がグレナダ島へ急行中とのこと!』


 その報告に、ピスティスは首を傾げた。


「どうやら潜水艦部隊の救援を聞いて来た増援のようだな。……まずは、この艦隊を排除しよう」


 第一潜水艦隊は、新たに現れた小部隊――戦艦『諏方』率いる日本艦隊を迎え撃つべく行動に移るのだった。

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