第五八五話、転移ゲートの活用と護衛隊
アメリカ東海岸での異世界帝国潜水艦隊の猛攻。米対潜部隊が壊滅したという報は、日本にも届いていた。
海軍は、護衛隊群から第三護衛隊をカリブ海に派遣したが、現地の古賀大将からは、さらなる増援を求められた。
そんな中、神明少将は連合艦隊司令部にいた。アメリカに提供するゲート型転移装置の移送について報告するためだ。
世界の海に転移連絡網を構築するT計画、その発案者であり、その計画を実施するT作戦の中心メンバーとして活動していたが、他国への提供する転移装置についても、魔技研繋がりで関わることになったのだ。
「アメリカに提供する転移ゲートですが、そちらに回す分は準備が整いました」
「ご苦労でした」
草鹿 龍之介連合艦隊参謀長は応じた。
「転移ゲートというのが正式名称なのか?」
「いえ、仮の名前ですが、おそらく向こうでの通称が『ゲート』と呼ばれるでしょうから、わかりやすいように」
まさかアメリカ人が『門』とは言わないだろうから、ゲートと言えば、お互いに通じるようにという現場配慮というものである。
「今回の転移ゲートは、日本でも使われるのだったな?」
「ええ、行き先は固定ですが、転移装置を積まなくても転移できますから」
現在、日本海軍で使用されている転移装置は、転移する方も専用の装置を搭載する必要がある。
複数ある転移地点を任意に選択できる自由度がメリットであり、今後も海軍の主な軍艦や、航空機にも積まれるだろう。
しかし、今回アメリカに提供する転移ゲートは、陸軍の使うポータルや、異世界帝国の大ゲートと同様、固定の場所にのみ行き来できるという代物である。
場所が固定であるのがネックではあるが、通過するだけで目的地に転移できるため、専用の装置がなくても、利用できるのがメリットである。
「今のところ、転移といえば軍艦中心しかできなかったのだが、転移ゲートがあれば、民間徴用の船などでも、使える」
転移装置は、民間には出していないため、東南アジアや太平洋中部、南太平洋への補給については、いまだ輸送船が用いられている。
転移装置の量産が軍中心で、前線へ行く可能性の高い軍の輸送船ならともかく、後方での輸送に用いる船までには、転移装置が回す余裕がないという事情もある。
だからこれまで通り、海軍は、鹵獲改修した駆逐艦を改装した海防艦を輸送船の護衛につけて、内地と外地を行き来している。
しかしこの転移ゲートを、通商ルートの拠点となる地と繋げれば、輸送スピードの向上と、護衛戦力についても余裕ができることになる。
「神明、君は聞いているか? 南米派遣艦隊の古賀さんから、対潜部隊の増援要請がきたという話だ」
「確か、第三護衛隊を送った、という話でしたか?」
神明が確認すれば、草鹿は頷いた。
「そうだ。しかしさらに増援が欲しいらしい。米軍の現地護衛戦力が大きく落ち込んでいるためだ」
「ですが、内地から護衛隊を引き抜くのは難しいのでは?」
「そうなんだ」
草鹿は腕を組み、わずかに顔をしかめた。
「今回の第三護衛隊も、元はインド洋方面の担当だ。セイロン島の第七艦隊――第九水雷戦隊に代わりを引き受けてもらっているからこそ引き抜けたが、他は難しい」
第一護衛隊は、東南アジア。第二護衛隊は、トラックほか中部太平洋と南太平洋を担当している。
「現状でも、配備する数を増やしたいという話があって、目下、鹵獲駆逐艦の海防艦化が進められている。そんな状態なので、引き抜くのは難しい。……何せ、第二護衛隊については、第六水雷戦隊も協力している有様だからね」
旧式の神風型や睦月型駆逐艦を中心とする六水戦は、魔技研の再生で新品同様に生まれ変わっているが、その装備は対潜・対空型となっていて、ほぼ海防艦に片足を突っ込んでいる性能であったりする。
「転移ゲートの配備は、アメリカよりもこちらを優先させたいところではある。せめて内地からトラックやフィリピンとゲートで行き来できるだけで、その区間の護衛につくはずだった艦艇を、幾分か引き抜くこともできるかもしれない」
草鹿の言葉に、神明は片方の眉をピクリと動かした。
「配備自体はほぼ同時になりましたが、アメリカが切羽詰まっているのも仕方のないところではあります」
「かの国からの弾薬、物資を得られなければ、こちらも再編にも遅れが出る」
草鹿は言った。
「仕方がないな、こればかりは」
そういえば、と、連合艦隊参謀長は首をかしげた。
「この転移ゲートは、異世界帝国のゲート技術が含まれているのか?」
「いいえ、魔技研のオリジナルです」
神明はきっぱりと告げた。
「シドニーで破壊したゲートは、回収されておらず、ベンガル湾のゲートは、まだ周りに敵艦隊がいて、近づけませんから」
ただし、大きさこそ違えど、ほぼ同種の効果を発揮できる転移ゲート発生装置を完成させたと魔技研は自負している。
「そういえば、カルカッタの敵はまだ粘っているのですか?」
「第七艦隊やインド方面軍からの報告では、逃げるでもなく海上に留まったままなのだそうだ」
草鹿がまたも難しい表情を浮かべた。
「あれも何とかしたいものだが、現地の第七艦隊にその力はないし、まずは弾を補充しないことには、戦にもならない」
幸いなのは、カルカッタで頑張っている異世界帝国の小型空母、駆逐艦艦隊は、ほぼ沈黙しているということか。近づけば撃ってくるが、それ以外は航空隊を飛ばすことなく、温存姿勢を貫いている。
「陸軍が大陸反撃に注力しているから、手出ししていないが、もし余裕ができれば、彼らが叩いてしまうかもしれないな」
ただ、そこに敵がいるというのは目障りではある。敵が艦隊をカルカッタから撤退させないのは、日本軍の注意を引くための、艦隊保全主義の一つなのかもしれない。
「話をカリブ海に戻すが、古賀さんは、敵潜水艦隊に対して掃討を計画しているらしい。守りを固めたいところだが、こちらから海防艦などの増援が難しいから、仕掛けられる前に片付けてしまおうというところなのだが……」
草鹿は、じっと神明を見た。
「第六艦隊の三輪中将は、敵潜水艦隊は補給に下がっているが、先日まで確認されていた以上の潜水艦が使って、仕掛けてくると考えているようだ。……君は、どう思う」
「敵が何故、大量の潜水艦をあの海域へ投入したかを考えれば、三輪長官の判断は妥当だと思います」
敵は、アメリカの南米侵攻作戦を海から妨害したいのだ。対潜部隊を片付けて、それで終わりのはずがない。
「防備が弱いうちに、さらなる数の潜水艦を侵入させて、通商破壊を仕掛ける……。そして現状、妨害要素である日本艦隊をどうにかしようと考えれば、さらに100や200の潜水艦を投入してくる可能性は高いかと」
「そうなると、総勢400ないし500の潜水艦の集中運用というわけか……! にわかには信じがたい規模になるが」
草鹿は唸ったが、神明は淡々と告げた。
「もう敵は300近く潜水艦を投入していますからね。護衛部隊を排除して、補給線を徹底的に破壊しようとしたら、それくらいはしてくるかもしれません」
艦隊との交戦で、確認されている300隻近い敵潜は、魚雷をかなり消耗しているだろう。今頃、それらは補給に戻っているはずだが、往復で日にちの消費を抑えようというなら――
「案外近くに敵の補給大船団か……あるいは海氷飛行場のような特設基地があるかもしれませんね」




