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第五八二話、潜水艦隊、迫る


 ムンドゥス帝国の大艦隊は、その大半が沈められ、戦力の補充と再編成が進められている。

 紫星艦隊などの遊撃艦隊を除けば、地球で鹵獲した艦艇で構成された現地艦隊が存在する程度だ。


 しかし、その中にあってそれなりの規模を有しているのが、潜水艦隊である。自分たちで持ち込んだ分もあるが、地球勢力――イギリスの他、特にドイツのUボートの数が凄まじく、これらを鹵獲、取り込んだことで、馬鹿にできない戦力となっていた。

 アメリカ軍の南米侵攻、それを阻止するべく増強カリブ海艦隊が動いたが、返り討ちにあった。


 だがムンドゥス帝国としては、この事態を静観しているわけにもいかず、潜水艦隊を派遣したのである。

 その数、およそ500隻。一つの海域に、しかも大量に投入する分としては、いまだかつてないほどの大規模と言えよう。魚群のごとく、ひしめく潜水艦群は、大西洋からカリブ海へ乗り込もうとしていた。


 それを、アメリカ海軍のコンソリテーテッドPBYカタリナ飛行艇が哨戒中に発見。南米東沿岸に沿うように大西洋を移動する魚群の如き、艦隊の存在を通報した。

 大西洋艦隊司令部はもちろん、彼らから888(トリプルエイト)艦隊と言われている、日本海軍のカリブ海・大西洋警備艦隊にも伝えられた。


 総旗艦『出雲』の作戦室にて、古賀 峯一大将は参謀たちと話し合う。


「敵は、潜水艦ばかりで100隻以上だという。それがまるで水上艦の艦隊のように一塊となってカリブ海方面を目指しているそうだ」


 第一報の時点で、すでに参謀たちは怪訝さを隠さなかった。参謀長の原 鼎三(ていぞう)少将は目を丸くした。


「にわかには信じがたい話です。隠密を以て行動する潜水艦が、堂々と隊列を組んで行動など」


 観艦式でもあるまいに、何故、潜水艦が雁首揃えているのか。


「行動が露骨過ぎます。自ら艦種を明かして、迎撃側を引き寄せようとしているようです」


 手の内を明かしている。当然、カリブ海に敵潜水艦の侵入を米軍はよしとしないから、潜水艦キラーである対潜装備の護衛艦を大挙送り込むことになるだろう。


「陽動か」


 古賀が呟けば、高田 利種首席参謀は口を開いた。


「そうとしか考えられません。100隻以上の潜水艦隊で、米軍の目を引きつけている間に、小アンティル諸島の島々の間をぬって、本命を忍び込ませる策に思えます」

「しかし解せない」


 原参謀長は腕を組んだ。


「囮ならば、別に潜水艦でなくてもよいはずだ。それに100隻以上の潜水艦を陽動とするなら、さらに別に潜水艦を複数投入しているということになる。いったい何隻の潜水艦を集めたのだ?」

「敵は撃沈した地球側勢力の鹵獲艦を使っていますから、それらも集めれば、ない話ではないでしょう。英国や独逸は、三桁の潜水艦を保有していますし、他の欧州のフネ、アメリカの潜水艦なども集めれば、それくらいのことは……」


 高田の言葉に頷きながら、古賀は情報参謀を見た。


「米軍は何か言ってきたか?」

「いえ、発見された潜水艦群に関しては、大西洋艦隊の対潜部隊で対応するとのことで、日本艦隊には引き続き、カリブ海の警戒を頼みたいとのことです」

「万が一、彼らの対潜迎撃が失敗した場合は、我々が対処することになりそうだな」

「こちらも対潜部隊の増援を、内地に要請しますか?」


 高田は進言した。


「米軍が対処する部隊が囮でありましたら、別のルートから敵潜水艦が複数入り込む可能性はかなり高いと思われます。それらとの交戦確率もかなり高いと予想します」

「ふむ……」


 今、古賀の手元にあるカリブ海・大西洋警備艦隊は、水中対応の駆逐艦は7隻。残る16隻は防空艦寄りで、他の艦も対処はできるが、数で攻められると途端に怪しくなる。


 そもそも、潜水艦による通商破壊とそれを阻止する護衛部隊の戦いは、一日二日でどうこうするものではなく、長いスパンで見るべきであった。

 つまり、こちらも通商保護用の対潜部隊を正規に手配しておくべきなのだ。


「内地に、そのように要請を出す」


 古賀は決断した。


「が、増援の対潜部隊が到着するまでは、我々のみで対処せねばならない。潜水艦狩りに第六艦隊からも潜水戦隊をこちらに送ってもらおう」


 誘導魚雷を装備する我が潜水艦部隊は、海中の敵潜水艦に対して攻撃が可能だ。現状、異世界帝国軍を除いて、地球勢力で唯一、潜水艦対潜水艦ができるのが日本海軍である。

 そして南米派遣艦隊には、第六艦隊があって、敵の進撃があればそれを迎え撃つ態勢が整っていた。



  ・  ・  ・



 大西洋艦隊は、100隻規模の異世界帝国潜水艦隊を早期に迎撃するべく、ハンターキラー・グループを動かした。


 一時は敵大西洋艦隊によって、多くを沈められ、その戦力が枯渇しかけた。だが、イギリスなど欧州の連合国がカナダへ撤退して以降、大西洋に乗り出す機会が減ったことで、米護衛艦隊は、その数をかなり回復させることができた。


 米大西洋艦隊司令長官のインガソル大将は、ボーグ級護衛空母12隻、エヴァーツ級護衛駆逐艦60の迎撃部隊を派遣した。


 ボーグ級は基準排水量7800トン、全長151メートルの小型空母であり、建造中のC3型貨物船の船体を利用して作られた。

 機関出力8500馬力で、最大速力18.5ノット。艦載機最大24機と小兵であるが、元々が船団護衛、対潜警戒用であり、当時、ドイツのUボートに悩まされたイギリスに複数隻が貸与された。


 そのイギリスも本国からカナダへ移動したため、大量に作られたボーグ級は、自国アメリカ海軍で使用され、今こうしてまとまった数を運用できるのだった。

 敵正規空母が1隻でも敵にあれば、苦戦を強いられる程度の戦力でしかないが、相手が潜水艦であれば、話は変わる。


 そして今、カリブ海は、南米作戦を遂行する陸軍のため、輸送船が引っ切りなしに行きかう場である。ここを敵の潜水艦に脅かされるわけにはいかない。

 故に、大西洋艦隊対潜部隊の士気は高かったが、不安もあった。


 あからさまに姿を現しているが、やはり敵潜水艦の数の多さは、不気味であった。何かとっておきの秘策や奇策があるのではないか、という緊張感。対潜作戦において異例の多数対多数の戦いになる予感など、従来とは勝手が違う戦いになりそうではあった。


 所在のわかった潜水艦など怖くはない――そう思いたいが、それが通用するのか、甚だ疑問だった。

 何より気がかりだったのは、この見えている潜水艦隊は囮で、その隙にカリブ海に、別の潜水艦を多数潜り込ませてくるのではないか、という日本側と同じ予想であった。


 もっとも、大西洋艦隊司令部も懸念しており、カタリナ飛行艇などの警戒部隊を、広く小アンティル諸島の島々に派遣し、島と島の間を抜けてくる敵潜水艦はないか目を光らせていた。

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