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第五七九話、発覚した技術


 バックヤード作戦は成功に終わった。

 米陸軍ならびに海兵隊は、コロンビア、ベネズエラを進撃し、異世界帝国陸軍を破った。

 またパナマも奪回。……しかし、パナマ運河が敵の破壊工作によって、占領前に被害を受けてしまい、その修復が済むまで、太平洋とカリブ海は繋がらない。


 日本では、大本営陸海軍が、南米派遣の日本艦隊がアメリカ軍と共闘し、大戦果を上げたと報道。さらに大陸でも、中国から異世界帝国陸軍を撃退し、なお大反撃は続くと発表された。


 海の古賀大将、陸の山下大将。両雄の奮闘を褒め称えた。

 そんな戦勝ムードが漂う中、海軍省のとある一室では、深刻な雰囲気が漂っていた。


「――まあ、何となく予感はあったのですが」


 海軍大臣、嶋田 繁太郎大将が言えば、軍令部総長、永野 修身元帥は小さく嘆息し、連合艦隊司令長官、山本 五十六大将は唇をひん曲げた。


「アメリカ側からは継続して、カリブ海に有力な艦隊を派遣してほしいと要請がありました」


 米大西洋艦隊は、バックヤード作戦を巡るカリブ海の戦いで、主力の戦艦、空母のことごとくをドック入りさせないといけないほどの被害を受けた。

 駆けつけた日本艦隊のおかげで、作戦は成功で終わったものの、問題はあった。


「パナマ運河が使用できないことで、アメリカは太平洋艦隊の艦艇を早急に大西洋に送ることができません。大西洋艦隊がほぼドック入りが必要な痛手を受けている今、アメリカの裏庭は、非常に危険な状況にあると言えます」


 一応、アメリカは北米大陸の北を行く『北西航路』と呼ばれるルートはある。大航海時代に多くの冒険家が航路を発見しようと挑戦し、そのことごとくを阻んできた氷結した道である。


 海路での北西航路の初成功が1906年のこと。しかし、閉ざされた航路であり、未開拓の場所も多く、今次大戦では、パナマ運河が異世界帝国に制圧されたため、アメリカ海軍が無茶とも言える北西航路を使い、大西洋から太平洋に艦隊を送った。だが、そのための支援やコストなど、非常に割に合わないため、そう頻繁に行えるものではなかった。

 故に、パナマ運河も使わず移動できる日本海軍に、艦隊派遣要請がきたのだろう。


「南米派遣艦隊は、あくまでバックヤード作戦の支援であり、その後は艦隊を引き揚げる予定でした」


 嶋田が、確認するように永野を見つめる。その永野は、視線を山本に投げた。


「軍令部としては、日米の友好は、今後の戦局にも影響すると考える。極力、要請に応えたいところではあるが、連合艦隊はどう考えているのか?」

「連合艦隊としては、連戦による消耗の回復、再編成の只中にあり、内地より離れた地に、まとまった戦力を送ることは、不可能ではないが難しいと考えます」

「不可能ではないが、難しい」


 嶋田が首をひねった。山本は鼻息荒く告げる。


「内地をガラ空きにするわけにもいかない。南西方面、インド洋にも即応して動かねばならない状況で、カリブ海や大西洋ときたものだ。フネを1隻2隻送るのならともかく、艦隊ともなれば、簡単ではないよ」

「なるほど」


 嶋田は頷いた。


「艦隊云々は、さらに詳細を検討してもらうとして、重大な懸念がある」


 海軍大臣の言葉に、山本は身構えた。永野は目を瞑り、耳をすましている。


「米国に、日本が転移技術を有していることが露見してしまった」

「……」

「これまでは噂程度で済んでいたが、今回、太平洋艦隊司令部からの要請を受けて、南米派遣艦隊の古賀司令長官が了承、実際に転移をしてしまった。今後、米国から転移技術について、強く求められるのは確実である」


 嶋田の指摘はもっともである。事実、今、米国が欲しい技術はパナマ運河を使わずに、艦隊を太平洋からカリブ海、または大西洋に行き来できることだろう。


 南米は異世界帝国が支配しており、北西航路はリスクと手間がかかり過ぎる。パナマ運河の復旧も、一日二日でどうにかなるものでもない。

 が、日本としては、軍事同盟的な関係があっても、他国に転移技術を提供したくないというのが本音である。転移技術は、移動はもちろん、大胆な奇襲などに活用でき、輸送の面をとってみても画期的なものだ。敵に同じ技術が利用されないように注意を払っている現状、同盟国に対しても独占しておきたい。


 いざ、その同盟国が何かあって『敵』となった場合、転移を活用されてはたまらないのだ。


「かといって、わが国が転移技術の開示を拒めば、米国はあらゆる手段を講じて、技術を得ようとすると思われます」


 諜報員を使って、情報を盗み出すなどを平然とやってくることは、想像に難くない。


「その場合、陸軍の魔研、海軍の魔技研の他の魔法技術も含めて、かの国から狙われることになる……。それは非常によろしくない状況と言えます」

「それについては同意する」


 山本は首肯した。同盟国といえ、自分たちが必要としているものの提供や開示を渋れば、強硬手段に出るのも自然なことだ。世界は綺麗事ではできていないのだ。

 外交交渉で、何かの技術と交換するとなったとしても、それで転移技術と交換するだろうか、と考えれば、まずノーと答えるだろう。そうなれば力尽くで、という行為も予想できてしまう。


「実は――」


 永野が、うっすらと目を開けた。


「魔技研と相談したのだが、アメリカに転移技術の一部を渡してもよいと考えている」

「何ですと!?」


 嶋田が声をあげ、山本も目を剥いた。


「総長、本気ですか?」

「……まあ、あくまで一部の技術について、だがね。陸軍がポータルという転移技術を用いているのは知っているだろう?」

「あまり詳しくは――」


 なにぶん陸軍のやることについて、海軍にも秘密な部分も多く、ポータルについてもよくわからない。


「では、異世界帝国が使っている転移ゲート、あれと思ってくれればいい。ゲートとゲートの間のみ行き来できる転移技術だ。あれを海軍でもできるようにしたのだが、その転移装置なら、早急に提供することも可能だ。アメリカさんは、要するにパナマ運河の代わりとなるものがすぐに欲しいのだから、それを提供する」


 つまり、太平洋からカリブ海へ行き来『のみ』できる転移装置を渡すということだ。


「我々が使っている転移とは、明らかに違うことは彼らもわかるだろう。が、こちらが善意でパナマ運河の代替手段を提供しているのだ。それ以上の技術については、お得意ののらりくらりと躱して、ほとぼりをさますのも手だと思うよ」

「こちらが、彼らの一番欲しい転移手段を提供したなら、彼らも事を荒立てる強硬手段はとりづらくなりますね」


 山本が言えば、嶋田は腕を組んで考える。


「こちらの機嫌を損ねれば、その代替手段を取り上げる、となれば政治面でも駆け引きの材料となりましょう。妙案です」


 しかし、と嶋田はそこで眉をひそめた。


「そのゲート技術から、こちらが使っている技術の手掛かりが流出するということはありませんか?」

「かもしれない。だが、魔技研の言うところ、たとえ解析されても、模倣ができない部品があるらしい。いわゆる魔法技術の方だ。あちらにそれを解ける魔術師がいれば、話は別だが……その答えに行き着けるかどうかも怪しいがね」


 永野は悪戯っ子のような笑みを浮かべた。

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