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第五七三話、光の矢


 多数の敵機の来襲に、アメリカ海軍大西洋艦隊――第6艦隊は奮戦した。


 F6Fヘルキャット戦闘機は、多数のヴォンヴィクス、エントマ戦闘機と空中戦を演じ、艦隊の対艦・対空両用の高角砲、大口径機関砲と連射力に優れた機銃の弾幕は、向かってくるミガ攻撃機を多数、撃墜した。


 しかし、数の差は非情である。

 第6艦隊には、エセックス級空母3、インディペンデンス級軽空母2の5隻があったが、異世界帝国の第一次攻撃隊が去った時、無傷の空母は1隻もなかった。


『バンカーヒル』『フランクリン』が吹き上げる黒煙は凄まじく、内部に突っ込んだ爆弾にガソリンが誘爆し、格納庫を含めて大火災に見舞われていた。特に『フランクリン』では機関室にも被害が及び、艦内は地獄絵図と化していた。

『ホーネット』もまたロケット弾ほか爆撃によって、飛行甲板を叩かれ、魚雷も食らったが、浮いている分にはマシな方であった。


 軽空母『バターン』は、艦体左右にそれぞれ魚雷を受け、飛行甲板も破壊された。『サン・ジャシント』に至っては、魚雷を受けた上に、撃墜した敵機が甲板を突き破り、格納庫で燃え上がった結果、火山もかくやの炎に包まれつつ沈みつつあった。


 艦隊司令長官であるアーサー・S・カーペンダー中将は、終始、沈痛な表情だった。


「我が艦隊は、航空戦力を失った」


 それはつまり、敵艦隊が第二次攻撃隊を放ってきた場合、エアカバーを期待できないことを意味する。

 陸軍の支援航空隊も、上陸部隊支援の護衛空母群も、南米上陸にかかりっきりであり、第6艦隊に戦闘機を送る余裕はおそらくない。


「次に攻撃を受ければ、艦隊は半壊する」


 空母に攻撃が集中した分、戦艦や巡洋艦の被害は軽微で済んだ。しかし、対空砲火に頼るしかない第6艦隊としては、次の敵襲で戦艦も無事には済まないだろう。


「あるいは、航空戦力を失った我が艦隊を無視して、船団を攻撃してくるかもしれません」

「では、我々は、せめて敵の注意を引き続ける必要があるわけか」


 カーペンダーは苦い顔になる。


「危険が大きすぎるとわかっていて、しかし実行せねばならんとは」


 部下に死を命じなければならない。空母のない艦隊が敵艦隊に向かえば、大半の艦は沈み、その乗組員も助からないだろう。


 それでもやらねばならない。命令しなければならないのが前線の司令長官の辛いところである。

 バックヤード作戦の成功のため、彼らは覚悟を決めねばならなかった。



  ・  ・  ・



 ムンドゥス帝国カリブ海増強艦隊は、第二次攻撃隊の準備を進めていた。

 司令長官モリンスィ中将のもとには、米第6艦隊の空母すべてを大破、損傷させたという第一報が届いていた。


「ようし、次の攻撃でアメリカ艦隊にトドメを刺すのだ。主力艦隊を失えば、船団とその護衛戦力など蹴散らしてみせるわ!」


 高笑いを響かせ、勝利を確信しているモリンスィである。唯一の気がかりは、米陸軍の重爆撃機が大挙飛来することであるが、高高度からの爆撃では、海上の艦艇に当てるのは至難の業。


 最近開発の進んでいるらしい誘導兵器を用いてこようとも、防御シールドを展開しておけば、乗り切れる。

 モリンスィの自信は揺るがない。


『第二次攻撃隊、発艦準備、整いました!』

「攻撃隊、発艦!」


 アメリカ大西洋艦隊の息の根を止める攻撃隊が、空母から飛び立つ。まさにその瞬間だった。


『ひ、光がっ!? 空母に――!!』

「なに!?」


 見張り員の絶叫に、モリンスィが振り返った時、空から光線が差し込み、それが空母に突き刺さった。


 その光は、アルクトス級高速空母の飛行甲板を艦載機もろとも切り裂き、そして腹が裂けるように爆発した。ヴォンヴィクスやミガを誘爆させつつ、あっという間に複数の空母が紅蓮の火球に飲み込まれる。


 5隻の空母が、艦載機と飛行甲板を吹き飛ばされ、爆沈した。目撃したモリンスィが声を発する前に、さらに複数の空母に光線が降り注ぎ、あるものは飛行甲板を斜めに溶かされ爆発。またあるものは、先端を艦体中央から裂かれて爆発し、艦首と艦尾を海面から持ち上げさせながら沈む。


「光線砲ではないのか!?」


 モリンスィはヒステリックに叫んだ。それで視界の中の空母が助かるわけではないが、なお声を荒らげる。


「南米制圧軍の陸軍重爆隊か! 何を血迷っておる!」


 アメリカ軍に光線兵器はない。あるなら友軍――特に可能性が高いのはパライナ重爆撃機に光線砲を搭載した高高度襲撃型。

 それが遥か上空から、必殺の光線砲を放ってきたに違いない。……まさか、日本軍がいるなどと、モリンスィは微塵も考えなかった。



  ・  ・  ・



 そう、その攻撃は、日本海軍の特海氷空母から飛び立った第七九二海軍航空隊の火山重爆撃機隊の仕業だった。


 鹵獲したパライナ重爆撃機――火山重爆を太平洋側から飛ばし、その長大な航続距離を以て、カリブ海の東、ベネズエラ北方近くまできたのだ。


 七九二航空隊は、火山重爆撃機の初期型で構成されており、順次配備が進められている改修型と異なり、遮蔽装置を搭載している。レーダーにも目視でも捉えられない、見えない攻撃隊は、異世界帝国軍の索敵にかかることなく、目標を捕捉したのである。


 七九二航空隊指揮官である羽柴 片吉中佐は、海に浮かぶ棒にしか見えないほど小さい、しかし空母が真っ赤になって光り、そして沈んでいくのを見やり、ニヤリとする。


 ――もっと近くで見たら、派手なんだろうな。何とも地味な花火だ。


 今頃、異世界人たちは、空母が突然爆発して大慌てだろう。光線を辿り、空を見上げて出所を探しているかもしれない。

 しかし遮蔽装置で隠れた火山重爆撃機を、彼らの目が捉えることはできない。


 ――遮蔽装置様々だ。できれば、爆撃機には全部、遮蔽装置をつけて欲しいところだが……。


 七九二航空隊の機体はともかく、他の隊に配備される火山重爆は、遮蔽装置が積まれない予定という。


 遮蔽装置の生産、その優先順位というものが、偵察機、奇襲攻撃隊が優先されており、最近配備の始まった重爆撃機カテゴリーはまだ数が少ないせいだ。

 しかし、白鯨号の例もあり、遮蔽装置装備の七九二航空隊の火山重爆は、今後も色々酷使されそうな予感はある。


「第二射、撃ちます!」

「おう!」


 射撃照準手が、光線砲の二発目を発射する。異世界帝国からの鹵獲品に手を加えたものとはいえ、一度の出撃で使えるのは二発が限界であった。

 せっかく奇襲しているのだから、やれるうちにやる。特に敵空母は存在するだけで害悪だからだ。


 火山重爆撃機、光線砲搭載機9機が、遥か下の、異世界帝国空母に光の矢を撃ち込んだ。

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