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第五七〇話、カリブ海艦隊の襲来


 アメリカ海軍大西洋艦隊は、そのほとんどが開戦後に建造された新造艦となっていた。

 一時は、太平洋艦隊のハワイ攻略のためにその戦力を引き抜かれた大西洋艦隊だったが、戦艦は戻ってきたし、就役したての新型もまた多い。


 バックヤード作戦における支援と、妨害に現れるだろう異世界帝国艦隊を排除するのが、大西洋艦隊の任務である。



●アメリカ海軍大西洋艦隊

 第六艦隊:司令長官、アーサー・S・カーペンダー中将


 戦艦:「アイオワ」「ウィスコンシン」「マサチューセッツ」「アラバマ」

 空母:「バンカーヒル」「ホーネットⅡ」「フランクリン」

   :「バターン」「サン・ジャシント」

 重巡:「クインシー」「ヴィンセンス」

 軽巡:「コロンビア」「サンタフェ」「バーミングハム」「モービル」

   :「ビロクシ」「ヒューストン」「マイアミ」

   :「オークランド」「リノ」

 駆逐艦×108


 護衛空母×9

 護衛駆逐艦×128



 新鋭戦艦であるアイオワ級2隻。堅艦のサウスダコタ級が2隻の戦艦は4隻。

 空母はエセックス級空母3隻に、インディペンデンス級が2隻の5隻編成。


 重巡洋艦は、新鋭のボルチモア級『クインシー』と、歴戦のアストリア級『ヴィンセンス』。

 軽巡洋艦は、主力量産型巡洋艦ともいうべきクリーブランド級7隻と、アトランタ級の中期型ともいうべきオークランド級が2隻。いずれも開戦後に建造された艦だ。


 これにフレッチャー級を含めた駆逐艦が108隻。護衛駆逐艦は上陸部隊の護衛に回っているため、実質、迎撃戦力としては数えられない。


 以上の大西洋艦隊第6艦隊は、基地航空隊と協力して、敵艦隊を撃滅するのを役目としていたが、その想定規模は、カリブ海艦隊であった。

 だからその倍の数の敵艦隊が現れた時、第6艦隊司令長官、アーサー・カーペンター中将は、思わず天を仰いだのだった。


「インガソル大将も、この数は想定外であっただろう」


 大西洋艦隊司令長官ロイヤル・E・インガソル大将も、事前の偵察、敵暗号解読などの情報を精査し、敵の大規模な増援は確認できなかったに違いない。

 しかし現実問題として、大西洋艦隊はこれに対処しなくてはならない。戦艦20、空母20を誇る異世界帝国艦隊に。


「大西洋艦隊司令部に打電。第6艦隊は敵艦隊の迎撃に向かう。可能な限りの支援を要請する、と」


 重爆撃機や潜水艦部隊など、集められるだけの戦力をぶつけて何とかするしかない。ここで第6艦隊がやれれば、バックヤード作戦は失敗に終わってしまうだろう。


「支援でどうにかなるものでしょうか」

「言うなよ、参謀長。万が一の奇跡というものがあるかもしれない」


 およそ司令長官の言う言葉ではない、とカーペンターは自嘲する。


「我々は、もはや引くに引けないのだ」



  ・  ・  ・



 日本海軍南米派遣艦隊司令長官、古賀 峯一大将は困惑していた。

 パナマを攻略中の米第3艦隊の司令長官であるレイモンド・スプルーアンス大将が、水上機であるOS2N-1キングフィッシャーに乗って、日本艦隊まで飛んできたのである。


 参謀を寄越すでもなく、司令長官自らがやってくるなど、常識外れにもほどがあった。古賀ら南米派遣艦隊司令部は、もしや太平洋艦隊は返り討ちにあってしまったのではないかと疑ってしまった。


 航空戦艦『出雲』の近くに着水したキングフィッシャーをクレーンで回収。スプルーアンス大将は『出雲』に乗艦した。


「驚かせて申し訳ない、コガ提督。緊急事態につき、日本海軍にお願いがあり、私自ら参った次第」

「驚きましたが、もしやパナマ攻略で何か……?」

「いえ、そちらは順調です。それも日本海軍の支援あればこそであり、太平洋艦隊司令長官ニミッツ大将に代わり、厚く御礼申し上げます」


 終始落ち着いた印象のスプルーアンスである。


「バックヤード作戦は太平洋側は順調に推移していますが、大西洋側で問題が発生しました」

「と、言いますと?」

「敵の艦隊が妨害に現れたのです。もちろん、我が大西洋艦隊はこれを迎え撃ちますが、問題はこちらが想定していた以上の敵が現れてしまったことです」


 トリプル10・フリート――カリブ海艦隊との交戦を想定した戦力では、明らかに不足。明らかに劣勢であった。


「このままでは、バックヤード作戦は失敗に終わる可能性が出てきました。せっかく日本海軍に参加していただいた此度の作戦が、無駄になってしまうかもしれないのです」

「無駄……」


 少ない弾薬備蓄、生産したすぐに詰め込んでようやく間に合わせた今回の派遣艦隊である。内地の艦隊には、充分な弾薬が配分されておらず、そこまでして参加したのに、無駄に終わってはたまらない。


「あまり時間もありませんので、単刀直入に申し上げます、コガ提督。日本海軍は、テレポーテーション――艦隊よる瞬間移動が可能ですね?」

「……」


 スプルーアンスの言葉に、古賀は口元を引き結んだ。原 鼎三(ていぞう)参謀長ほか、参謀たちの表情にも緊張が走る。


 転移技術は、軍事的同盟関係にあるアメリカにも明かしていない機密事項だ。現場で軽々しく答えていいものでもない。軍令部はもちろん、連合艦隊からも、その手の情報を明かしてもよいなどと言われていない。


「もちろん貴国の機密であり、正規に国家間で取り決められた情報交換で了解を得た案件なのはわかります」


 スプルーアンスは事務的に続けた。


「我々もその技術を明かせとも譲渡せよとも、この場では申しません。そこで提案です」

「提案……?」

「はい。瞬間移動の技術について、我々も存じ上げないため、的外れなことを言うかもしれませんがご理解いただきたい」


 アメリカ第3艦隊司令長官は、そう前置きした。


「我々、太平洋艦隊を、カリブ海へ瞬間移動で送っていただけないでしょうか? それが不可能であるならば、我々の代わりに日本艦隊の方で移動し、大西洋艦隊の救援をお願いできないでしょうか? ……もちろん、理想を言えば、我が艦隊と貴艦隊で、一緒にパナマを超えて移動することですが」

「……」


 古賀は即答しなかった。じっと押し黙り、しかし熟考に眉間に皺が寄った。如何なる返答が提督の口から出るのか、スプルーアンスばかりではなく、南米派遣艦隊司令部の参謀たちも固唾を呑んで見守った。

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