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第五六九話、Dディの夜に


 戦艦『諏訪』は、遮蔽装置があり、潜水機能を持つ。魔技研の技術をふんだんに用いた突撃戦艦であり、戦隊を組むよりも単独か、少数部隊での突撃、奇襲戦法を得意とする。


 異世界帝国の試作戦艦『アルパガス』を再現したそれは、敵の防御シールドを貫通するエネルギー兵器を主砲に持ち、ひとたび撃たせたなら、大抵の敵艦をスクラップに変える。

 そして今回、『諏訪』にお供するのが大型巡洋艦『石動』『国見』である。


「目標! 敵重巡洋艦! 一斉射で仕留めよ!」


 第八十一戦隊司令である宮里 秀徳中将は指示を出した。

 戦艦『諏方』とその僚艦は、すでに敵残存艦隊の距離5000の位置に踏み込んでいた。夜間とはいえ、距離は近い。どちらも射程内だ。

 40.6センチ三連装砲が、敵残存重巡洋艦に向けられる。僚艦の『石動』『国見』も艦首の30.5センチ三連装砲を、残る2隻の重巡に指向する。


 この大型巡洋艦2隻は、かつてはフランス海軍の中型高速戦艦『ダンケルク』『ストラスブール』である。

 ドイツによる攻撃でフランスが降伏した後、フランス海軍の主な艦艇はツーロン港で自沈したが、異世界帝国が占領、そして回収したことでその戦力に加えられた。

 鹵獲戦艦として、インド洋に出た後、日本海軍との戦いで撃沈されてしまうのだが、日本軍はこれらフランス艦艇も回収し、改修を加えた。


 オリジナルのダンケルク級は、基準排水量2万6000トンほど。全長215メートル、全幅31メートル。機関出力13万馬力で、速力は31ノットと、高速戦艦であった。


 52口径33センチ四連装砲を艦首に二基八門。艦尾側は13センチ四連装砲副砲を載せるという、変わった兵装配置をしている。

 四連装砲というレアもの――フランス海軍の戦艦では普通になっていたそれを、艦首のみに集めるという、イギリスのネルソン級に近しいが、速度の面などを見ても、遥かに優れた配置ではあった。


 元々、ドイツのポケット戦艦に対抗する意味合いもあって、主砲は33センチと戦艦としては攻撃力は低いが、大和型に匹敵する4万メートル以上の長射程を誇る。

 大型駆逐艦部隊を率いて、逃げる通商破壊艦を高速で追いかけて仕留める艦というコンセプト故、艦首に主砲が偏る変則配置だが、『諏方』のような少数での突入戦をするのなら、悪くない配置である。


 日本海軍が改装する際、戦艦から巡洋艦に艦種が変更となったダンケルク級――石動型大型巡洋艦は、その主砲をルクス三連砲を大型巡洋艦サイズに縮小した対障壁貫通砲に換装されている。


 砲門数が八門から六門に減っているものの、『諏方』と同じくその一発は三発であり、全門の一斉射で18発の30.5センチ光弾が放たれるということになる。そのうちの12発が障壁に阻まれるが、残る6発は間違いなく敵艦に着弾すると武器となる。

 戦艦相手では轟沈とはいかずとも、巡洋艦以下の艦艇ならば一撃で大破、撃沈にもっていける恐るべき巡洋艦キラーなのである。


 そしてそれはすぐに証明された。『諏方』と随伴する『石動』『国見』が、残存するプラクス級重巡洋艦に光弾を発砲すると、3隻の重巡洋艦はあっさりと破壊されてしまうのである。

 戦艦級の一撃に見舞われた1隻は障壁、艦体ときて弾薬庫まで誘爆して、木っ端微塵に吹き飛んだ。


『石動』の攻撃は、敵重巡洋艦の艦体上部を抉り、艦橋やマストなどの構造物を根こそぎ引っこ抜いてしまった。

『国見』の砲撃は、重巡の艦首の主砲二基の装甲を貫き、さらに舷側装甲も撃ち抜き爆散させた。


 あっという間に護衛の重巡洋艦が全滅した。残るはアルクトス級空母3隻のみ。

 しかし距離5500から6000の位置にいて、30ノットを発揮する『諏方』『石動』『国見』から逃れるのはほぼ不可能であった。


 本来なら攻撃を防ぐ防御障壁も、貫通してくる光弾の前では洋上の的に過ぎない。

『諏方』はもちろん、石動型は艦尾に艦隊転移が可能な中継装置を搭載していたが、増援を呼ぶまでもなかった。

 3隻の空母もまた、第八十一戦隊の攻撃を受けて、撃沈された。


 前衛を担い、夜戦を仕掛けた第六艦隊は、見事に敵機動部隊を一つ、葬り去ったのである。



  ・  ・  ・



 日が変わり、6月6日。カリブ海の面する南米ベネズエラに、米陸軍第82、第101空挺師団が空挺降下を実施、異世界帝国軍の戦線深くに飛び込んだ。


 前日までに行われたアメリカ重爆撃機による空爆で、表向きアヴラタワーは破壊されているように見えて、隠蔽されたタワーがあり、異世界帝国軍は、各地で米空挺部隊と交戦となった。

 そして翌朝、米大西洋艦隊に護衛された大上陸船団が、カリブ海を突き進み、美しい砂浜と海岸線に陸軍歩兵を突撃させた。


 重爆撃機隊と、大西洋艦隊空母群による空爆は、海岸付近の敵を叩き、その支援のもとにLCVP――ヒギンズ・ボートの大群がビーチに乗り上げた。

 この上陸用舟艇は、歩兵を一個小隊ほどを運ぶ能力を持つ。兵たちは船首に開いたバウランチから飛び出すと、果敢に砂浜を駆け上がる。


 訓練された新兵と、米本土攻防戦をくぐり抜けたベテラン兵の混成軍は、予備アヴラタワーの不安定な生存エリアと、空爆で半壊した部隊を立て直していた異世界帝国陸軍に攻撃を開始した。


 異世界帝国南米制圧軍司令部が予想した通り、米軍はプエルトラクルス、サンホセデバルカベント、モロンの三カ所に上陸した。プエルトラクルスの異世界帝国第41師団は、米第4歩兵師団、サンホセデバルカベントの42師団は、米第1歩兵師団、モロンの44師団は米第3歩兵師団と激突することになった。


 しかし、異世界帝国軍の各部隊は、先に降下したアメリカ陸軍空挺部隊によって、連絡線を断たれ、それぞれが各個に対応しなくてはならなかった。

 特に予備アヴラタワーのおかげで交戦は可能だが、行動がかなり制限されていたため、臨機応変な対応が求められた。


 そんな本来の力が発揮できない異世界帝国陸軍であったが、米陸軍としても、意外と敵の抵抗を受けたことに少なからず驚きがあった。

 一部では、アヴラタワーを叩ければベネズエラ制圧が一気に進むのではないかと、楽観する向きもあったから、特にである。

 しかし全体で見れば、米陸軍は航空支援もあって優勢に作戦を進めていた。


 だが米海軍にとっては、ここからが正念場であった。

 アメリカ大西洋艦隊は、陸軍の上陸を支援し、護衛を果たしていたが、懸念だった異世界帝国艦隊が発見されたからである。


 米大西洋艦隊の主力、第6艦隊司令長官アーサー・S・カーペンダー中将は、受けた報告に眉をひそめた。


「トリプル10・フリートではない、か」


 異世界帝国カリブ海艦隊――通称、トリプル10・フリート。戦艦10、空母10、巡洋艦10と駆逐艦20から30の艦隊を、彼らはカリブ海に置いていたが、最近の米軍の空爆によって、待避させていた。

 米軍の南米上陸を受けて、これらを敵は差し向け、妨害してくると予想されていたが――


「敵は、カリブ海艦隊を倍増させたようです」


 情報参謀は苦い顔だった。


「確認された敵は戦艦20、空母20、巡洋艦25、駆逐艦およそ70……。すぐにでも太平洋艦隊にパナマ運河を超えて駆けつけてほしいくらいです」

「マイ、ゴッド……」


 敵は、米大西洋艦隊を圧倒する兵力である。ここでこちらが敗れれば、上陸部隊はベネズエラで孤立してしまう。

・石動型大型巡洋艦:『石動』

基準排水量:2万7400トン

全長:215.5メートル

全幅:31.1メートル

出力:マ式16万馬力

速力:34ノット

兵装:50口径30.5センチ三連光弾三連装砲×2 イ型三連装光線砲×4

   40口径12.7センチ連装高角砲×6 20ミリ連装光弾機銃×24

   八連装対艦誘導弾発射管(煙突)×1  対潜短魚雷投下機×2

   艦首魚雷発射管×4 誘導機雷×20 

航空兵装:カタパルト×1 偵察機×3

姉妹艦:『国見』

その他:フランス海軍のダンケルク級戦艦を回収、潜水型大型巡洋艦として日本海軍が改修したもの。主砲の33センチ四連装砲を、対シールド貫通光弾砲に換装。艦首側のみに主砲があり、スペースの都合上、大出力動力を搭載することができた。シールドありの空母、巡洋艦以下に対して最強の攻撃力を有することになる。艦尾側には転移中継装置を装備し、転移中継ポイントとして機能することが可能。潜水などで突撃、敵艦隊の近くで水雷戦隊などを呼び寄せ、襲撃を仕掛けるという戦術が考えられた。

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