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第五六七話、海兵隊、上陸す


 第九航空艦隊の奇襲攻撃隊により、空母を伴う敵艦隊の一つを叩いた。

 南米派遣艦隊、空母部隊を率いる小沢 治三郎中将は、空母2隻の撃沈破、重巡洋艦4隻中破の報告にひとまず満足した。

 が、まだ油断はできない。


「もう一つ、敵の機動部隊がいるはずだ」


 複数の攻撃隊を出してきたことで、空母は見えずともいるのは間違いないと確信する空母部隊司令部である。

 しかし、肝心の敵空母が発見できない。


「敵は潜水型空母か?」


 インド洋での戦いの末期、第九艦隊を空襲した敵航空隊は、潜水航行可能な輸送艦ないし空母から放たれたと報告が入っている。


 もし敵が潜水可能な空母であるならば、ここまで発見できないのも一応の納得ができた。敵の空母がまだ近くにいるのであれば、アメリカ海兵隊の上陸の邪魔になる。だから小沢としても、早急に見つけて対処したいところであるが。


 早朝に出した第一次攻撃隊が帰投し、再出撃に備えて整備と補給を受けている。もう一つの敵空母部隊を見つければ、これを攻撃隊として出すことができる。

 だが、この敵がもし潜水型であった場合、厄介なことになる。海に潜られてしまえば、攻撃手段は、対潜用爆弾になり、通常の対艦誘導弾では届かなくなるのだ。


 だが、その心配は杞憂に終わった。

 敵航空隊の飛行ルートを辿る形で飛行していた彩雲偵察機が、ようやく敵機動部隊を発見したからである。


『敵空母3隻、巡洋艦12、駆逐艦20前後が、スコールを縫って北上しつつあり』


 空は相当雲が多く、また下は雨のようだった。発見位置に小沢は首をかしげる。


「電探でもっと早く発見できたのではないか?」


 この彩雲は、索敵コースの帰りで、敵艦隊の発見を通報した。彩雲が搭載している電探であれば、行きの索敵で発見していたと思われたのだ。

 青木航空参謀が口を開いた。


「もしかしたら機上電探が故障していたのかもしれません。天候も悪いようですから」


 行きもスコールなどで目視が困難、見逃してしまったのかもしれない。


「とりあえず、発見できたのは僥倖(ぎょうこう)だと思うしかないな」


 小沢はそう自分を納得させた。何はともあれ、この敵の対処が先だ。


「懸念はあります」


 青木は言った。


「敵艦がスコールを利用して回避運動をする場合、マ式誘導での誘導弾の命中精度が著しく落ちます」


 基本、目視で敵艦に魔力を照射し誘導するマ式誘導である。大雨による視界不良は、暗視とはまた違い、敵の姿を隠してしまう。


「かといって、やらんわけにもいくまい」


 小沢は攻撃隊の準備をさせる。敵空母3隻を見て、放置はできない。攻撃の際は、もしかしたらスコールを抜けて、絶好の攻撃機会があるかもしれない。

 神明参謀長は告げる。


「敵がスコールを利用して、上陸船団に迫る可能性を考えて、古賀長官に水上部隊もしくは潜水艦隊に待ち伏せを具申してはどうでしょうか?」


 こちらで攻撃できればよし。できないようなら、他部隊に任せる。二段構えである。

 肝心なのは、上陸船団の安全確保である。敵がこちらの空襲を逃れるために、上手くスコールを利用してしまえば、日米軍にとっては誰も得しない。



  ・  ・  ・



 その日の正午、アメリカ海軍第2、第4海兵師団がコロンビアに上陸した。

 LVT――ランディング・ヴィークル・トラック=水陸両用トラクターや、ヒギンズ・ボート――LCVPに乗せられた海兵隊員たちが、M1ガーランドやトンプソン短機関銃などを手に、コロンビア、チョコ県へ足を踏み入れる。


 なお、チョコ県は、コロンビアで唯一、土地が太平洋とカリブ海に面している県であったりする。


「ケッ、なるほどなぁ。こいつは海兵隊向きだ。南国の砂浜なんかじゃねえ。未開のジャングルだ」


 海兵隊員たちは顔をしかめる。曇よりとした空、水気を帯びた大気。大雨を予想させる空模様だった。

 アヴラタワーはすでに破壊されていて、海岸の防御陣地は大半が沈黙していた。また大型のゴーレムが複数配備されていたが、海上の駆逐艦による艦砲射撃により、ほとんど的同然に破壊されていた。


 手薄な守り。しかしそれも当然といえば当然だ。このチョコ県が盛り上がっていたのは、1世紀も前の話であり、パナマ運河の開通でこの地域への関心は薄れ、金とプラチナが枯渇すると、やはり寂れていった。


 当然、そういう場所は、ムンドゥス帝国軍も発展させることなく、あくまで占領しているだけに過ぎない。

 そんな場所だから、防御網も小さい。そもそも、帝国南米制圧軍は、カリブ海側の上陸を予想しており、太平洋側からの上陸はないと考えていた。


 偵察情報や米軍の動きから、太平洋側からの上陸の可能性はあったもの、太平洋側の船団の本命はパナマ侵攻であり、コロンビアやエクアドル方面への敵偵察などは、フェイク――つまり陽動と見ていたのである。

 まさか、本当に上陸してくるとは思っていなかった南米制圧軍は、米海兵隊の上陸への反応は鈍かった。


 大西洋側の米軍が動かずいたことで、さらにコロンビアへの上陸は陽動ではと疑いを深めたのが一つ。

 もう一つは、パナマに実際に米軍が上陸。各飛行場も米航空隊によって攻撃されたことだ。


 つまり、太平洋側の本命が動いたので、そこから視線を逸らさせるためのコロンビアへの陽動攻撃であると考えたのだ。

 ムンドゥス帝国陸軍が本気にしなかった隙に、米海兵隊は橋頭堡を確保し、後続部隊を待ちつつ、内陸への侵攻準備にかかった。


 一方、ムンドゥス帝国海軍は、陸軍と違って、米軍がコロンビアへの上陸を図っていると考え、南米艦隊の増援として送られた空母機動部隊に、敵船団の上陸前撃破を命じた。


 もっとも、海軍としても、米軍はパナマ奪回を優先させているだろうから、このコロンビアへの船団も、実は囮ではないかと疑ってはいた。


 もし有力な護衛戦力がなく、あっさり船団が半壊するようなことがあれば、上陸はないとしてパナマへ針路を向けていた。

 しかし現実には、有力な日本艦隊がいて、放った攻撃隊は撃破された。前衛の南米艦隊第一群を撃滅され、増援の空母のうち2隻を撃沈された。


 コロンビアのアヴラタワーと飛行場が攻撃された件もあり、ムンドゥス帝国海軍は敵のコロンビア上陸は確実と捉えたが、すでに手遅れであった。

 米軍は上陸し、船団撃滅に北上していた艦隊も半減状態にされてしまったのである。


 海軍がコロンビア前で進撃を阻まれている間、アメリカ海軍太平洋艦隊は、パナマ攻略を進めた。

 ハワード・フィールド、デビッド・フィールド、チャメ飛行場、フォート・シャーマンといった飛行場と拠点を空母航空隊が叩き、制空権を確保。第一海兵師団以下上陸軍が、大挙パナマに乗り込んだ。


 先月から繰り返された爆撃によって、弱体化していたパナマ守備隊は、隠していたアヴラタワーを破壊され、さらに行動が制限された。


 OSSが入手していた情報に従い、怒濤の勢いで進撃するアメリカ軍に、パナマのムンドゥス帝国軍は窮地に立たされるのであった。

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