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第五六五話、攻撃と防御


 異世界帝国軍の空母部隊は、二つ存在するのではないか?

 その疑問について、索敵機がまだ敵を発見していなかったが、潜水艦『伊40』からの通報が、間接的に証明する形となった。


『敵航空機、およそ70を確認! 船団に向けて移動中』


 新手、そしてその確認位置は、先に発見された空母部隊から飛び立ったと想像できる方向にあった。


「二つの航空隊の位置関係から、これは確実ですね」


 神明参謀長が告げた時、通信長が駆け込んできた。


「報告します。伊41潜より追加報告。敵航空機の第二群を確認。数はおよそ70」


 伊40に続き、最初に敵航空隊発見の報をもたらした伊41から、再度の通信が入った。この敵の進撃ルートを見るに、発見された空母2隻以外に別の空母がいないと説明がつかない。


「二つの空母部隊か」


 小沢の表情は曇る。


「しかも敵は米上陸船団にさらに攻撃隊を注ぎ込んでいる」


 戦闘機隊を派遣したが、それだけでは数が足りない。すでに敵は3派、約200機の攻撃隊を送り出している。


「こちらも増援を出さんと、上陸前に船団が攻撃されてしまう」


 小沢は、青木航空参謀を見た。


「戦闘機隊を出せ。艦隊の直掩は、海氷空母の制空隊で何とかしよう」

「はい。しかし長官。これ以上、援護に回しますと、攻撃隊につける護衛戦闘機が不足します」


 敵空母部隊へ向かう攻撃隊に随伴できる戦闘機が足りなくなる。小沢の手元の空母部隊は、遮蔽装置のない通常航空機を搭載しているため、姿を消して敵艦隊まで接近することはできない。


 つまり敵のレーダーや監視を躱すのが難しいため、途中で迎撃を受ける。その時、戦闘機が少ないと、敵迎撃機に攻撃機が襲われてしまうのである。


「わかっている。叩きたいのはやまやまだが、すでに敵は攻撃隊を放っている」


 小沢は険しい顔だった。


「この作戦は、米軍の南米上陸作戦が主軸であり、我々はその支援だ。米軍が上陸できれなければ、それで終わりだ」


 だから、本来なら空母を優先して撃破したいが、敵の迎撃を優先しないといけない。


「神明、何か手はあるか?」


 それは、上陸船団を守りつつ、すでに確認済みの敵空母部隊への攻撃についてか――神明は背筋を伸ばした。


「九航艦も、戦闘機隊の予備は多くないでしょうが、遮蔽装置を搭載する奇襲攻撃隊があるので、そちらを敵空母の攻撃に差し向けてはどうでしょうか? 奇襲攻撃隊ならば、最悪戦闘機の援護がなくとも仕掛けられます」

「よし、『大海』『雲海』に打電。九航艦に奇襲攻撃隊による敵空母攻撃を要請」


 小沢の決断により、日本空母は動き出す。空母『赤城』と7隻の空母から、烈風と零戦五三型の残っている戦闘機が全て発艦する。

 艦隊直掩は、海氷空母3隻の『海氷4』『海氷5』『海氷6』の業風戦闘機に任せる。


 そして発見された敵空母2隻に対して、第九航空艦隊から攻撃隊が『大海』『雲海』の転移中継装置を用いて放たれる。

 第四九一海軍航空隊から一式水上戦闘機9機、瑞雲水上爆撃機12機。同七九一空から銀河陸上爆撃機18機。

 合計39機であるが、全機が遮蔽装置を搭載しており、敵に忍び寄ることができる。


 さらに七九二空の火山重爆撃機18機が待機しており、こちらも出撃できるが予備とした。

 時間は流れる。各母艦から放たれた航空隊が、それぞれの空で激突した。



  ・  ・  ・



 まずぶつかったのは、米上陸部隊を目指していた異世界帝国の攻撃隊第一波と、小沢の空母部隊から放たれた迎撃隊だった。

 烈風戦闘機、そして業風戦闘機が、敵航空隊75機にダイブして襲いかかった。それに気づいた異世界帝国もヴォンヴィクス、エントマ戦闘機が機首を上げた。


 しかし、日本機は定番戦術となっている空対空誘導弾による先制攻撃を仕掛けて、十数機を排除し、そのまま巴戦に突入した。

 烈風の高速形態から格闘戦形態に変わる魔力式主翼によって、素早く敵機の後方に回り込み20ミリ光弾機銃を撃ち込む。翼を砕かれ、スピンして落ちていくヴォンヴィクス。


 エントマが高速を活かして離脱しようとするも、熊ん蜂のような業風が重量により増した降下速度で追いすがり、12.7ミリ機銃の雨を浴びせる。

 戦闘機の数は、日本側の方が多かった。相手となる敵戦闘機がいなかった機は、異世界帝国の主力艦攻のミガ攻撃機に襲いかかる。烈風、業風のスピードを前にしては、ミガ攻撃機に逃げ切ることはできなかった。


 第一波が、日本海軍機の迎撃で蹴散らされるのは時間の問題だった。だが第一陣を撃破したとて、迎撃隊の役目は終わらない。被弾、弾切れの機を除けば、次に向かってくる第二波を相手にするからだ。

 一応、後続部隊が送られてくることになっているが、それで残る二波をシャットアウトできるかは別の問題である。余裕があるうちにできるだけ叩いて、次にバトンタッチするというわけだ。


 こうして戦闘機隊が、迎撃に当たっている頃、異世界帝国の前衛――リバダビア級、アルミランテ・ラトーレ級戦艦らを含む艦隊に、日本攻撃隊が到着していた。


『艦隊上空に敵戦闘機なし』


 彩雲偵察機による観測で、攻撃に邪魔な敵機がいないはわかった。


「これでは出番がないな」


 制空隊隊長の石上大尉は、烈風戦闘機を操りながら首を捻った。


「例の小型戦闘機くらい出てくると思ったが、いないんじゃしょうがないな」


 空母がいないから、敵機がいないとも限らない。ここ最近の戦いで、敵は輸送艦に小型戦闘機を積んでいるのが確認されている。

 それに備えて、戦闘機が攻撃隊に含まれていたが、基地航空隊の戦闘機を含めて39機が遊兵となってしまう。こればかりは当たり外れがあるので仕方がない。


 敵戦闘機がいないとなれば、攻撃機隊の出番だ。

 流星艦上攻撃機、そして基地航空隊の一式陸上攻撃機が遠距離から対艦誘導弾を投下する。


 インド洋での戦い以後に急ピッチで生産された誘導弾である。今回の南米派遣艦隊に優先的に回された影響で、内地の第一、第二機動艦隊よりも誘導弾の保有数が多かった。

 かつては南米、アルゼンチン、チリの所属艦艇だった異世界帝国艦隊は、高角砲による遠距離攻撃を開始した。


 しかし、鹵獲艦に対して扱いが雑なところがある異世界帝国は、これら回収した艦をバージョンアップさせるなど、そういった処置はほとんどしていなかった。

 ゆえにその対空能力は、恐ろしいほどお粗末なもので、かつて対空能力の低かった日本海軍と比べても、さらに見るべきところがなく、当たりもしない旧式高角砲を振り向けていた。


 空に浮かぶ破裂する高角砲弾の欠片が飛び散るが、射程内であっても遠い間合いから攻撃が放たれては、どうしようもなかったのである。

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