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第五六四話、敵空母はどこだ?


 南米派遣艦隊、空母部隊指揮官である小沢 治三郎中将は、空母『赤城』の艦橋で、さてどうしたものかと声に出した。


「この空母なしの艦隊……。普通に考えたら前衛だ」


 リバダビア級、アルミランテ・ラトーレ級戦艦を含んだ敵水上打撃部隊を、日本艦隊は発見した。

 南米派遣艦隊司令長官の古賀大将は、これを撃滅せよ、と命令したが、機動部隊司令部としては対応は慎重にならざるを得ない。


 戦艦、巡洋艦部隊を前衛として押し出し、あわよくば攻撃を吸引して、後方にいる空母部隊を守る――この戦術は、日本海軍もやっていて、機動艦隊構想の前衛、後衛そのものであった。

 つまり、この敵艦隊の後方に、空母機動部隊がいるのではないか? 小沢を始め、司令部はそう考えるのである。


「異世界帝国の戦力について想定するのは困難だ」


 小沢が言えば、山野井情報参謀は頷いた。


「米軍の情報でも、敵南米艦隊に空母は確認されておりません」

「しかし、アメリカが南米に侵攻しようとしている情報は、彼らも掴んで対策はとる。ソロモン、インド洋で艦隊を失ったが、それでも南米に艦隊の増援を送り出してくるに違いない」

「問題は、その規模です」


 神明参謀長は告げた。


「我々は、敵艦隊の全てを把握していません。米軍の情報を鵜呑みにし、一気呵成に水上打撃部隊を攻撃したら、空母部隊への対応、攻撃が遅れます。米軍の上陸部隊の援護――敵空母排除が遅れれば、被害も少なくないでしょう」

「敵空母はいないかもしれないし、いるかもしれない」


 小沢は顎に手を当てた。


「いるものとして動くが、問題は、とりあえず叩けと命じられたこの水上打撃部隊に、どれだけの戦力を送るか、だな」


 一撃のもとに壊滅させるなら、全力出撃が望ましい。しかし攻撃隊を送り出した後に、懸念された敵空母部隊が発見された場合、攻撃隊が戻ってきて再準備をしないと手出しができなくなる。

 その間、敵の跳梁(ちょうりょう)を許すことになってしまう。


 では攻撃隊の規模を小さくすればいいわけだが、それでは敵を撃ちもらす可能性が出て、結局、複数回攻撃隊を繰り出すことになるかもしれない。


「我々だけなら、二回でも三回でも構わないのだがな」


 小沢は苦笑した。


「しかし、米軍の援護や、内陸の飛行場から航空機による反撃があった場合の対処も我々はやらねばならない」


 つまり、航空隊のやりくりや手間が、ただでさえ多い。特に米軍支援用に、常時ある程度の戦闘機隊を用意しておかねばならない。


「まあ、そのために海氷空母があるわけですが」


 神明は、特海氷空母の『大海』『雲海』に期待する。ミニ海氷飛行場ともいうべき、新型海氷空母は、基地航空隊である第九航空艦隊を転移させ、戦線投入を可能にしている。


「艦隊からは小規模な攻撃隊を出し、不足分は基地空の陸攻隊に任せましょう」

「よし、それで行こう。……航空参謀!」

「はっ!」


 各空母から攻撃隊の準備が行われる。目標は、敵南米艦隊。発見されているそれに、空母はいないため、他部隊がいなければ先手を取られることはない。


『観測機より報告! 我が艦隊近辺に、敵影なし!』


 遮蔽で敵機が忍び寄っていないか、能力者を載せた彩雲が、南米艦隊周囲を周回している。

 敵の幽霊戦闘機には、第二機動艦隊が痛い目に遭っているから、こちらも用心深くなる。

 早朝のコロンビアの飛行場への攻撃隊に続き、本日、二回目の攻撃隊の発艦作業が進められる。照りつける太陽、しかし雲も多く、また流れていく。


「攻撃隊、発艦始め!」


 整備兵らが帽子を振って見送る中、飛行甲板上のマ式カタパルトによって艦載機が連続射出される。

『赤城』から烈風3、流星12、彩雲2。六航戦は烈風12、流星24。十航戦は烈風6、流星18。第一次攻撃隊より少ないそれは、戦闘機21、攻撃機54、偵察機2の計77機である。

 そして海氷空母『大海』から零戦五三型18機、彩雲2、『雲海』から一式陸上攻撃機48機が飛び立ち、先の77機と合わせて145機の攻撃隊となった。


 さらに攻撃隊とは別に、敵水上打撃部隊の後方に空母部隊がいないか、追加の索敵機が発艦した。

 小沢の司令部は、まだ見ぬ空母部隊の早期発見に努めるのである。


 しかし、最初にもたらされた一報は、索敵機のものではなかった。



  ・  ・  ・



『第四潜水戦隊「伊41」より入電、北上する敵航空機群を捕捉。その数70から80。敵は陸上機にあらず』


 第六艦隊の潜水艦からの通報が、『赤城』に伝わった。

 潜水艦隊は、索敵と、米軍上陸部隊阻止のために航行している敵潜水艦とすでに昨日から戦闘状態にあり、すでに十数隻を撃沈していた。


 そんな警戒と敵潜水艦退治をしていた第四潜水戦隊だが、上空を通過する敵編隊と出くわしたのである。


「やはりいたな、敵空母が」


 小沢は海図台に歩み寄り、艦隊の展開位置と、伊号潜水艦の通報した場所を見やる。


「敵が陸上機でないとなれば、空母艦載機だ。規模から察するに、空母は1、2隻といったところか」


 ちら、と青木航空参謀を見れば、彼は異論なしとばかりに首を縦に振った。


「敵に先手をとられたが、とりあえずこいつらを阻止しなくては米上陸部隊が危ない。待機している戦闘機隊を、ただちに迎撃に出せ」


 米上陸部隊には護衛艦の他、小型の護衛空母がついているが、その艦載機だけでは防ぎきれないだろう。


 基本は対潜哨戒のアベンジャー雷撃機と、軽量化されたワイルドキャットの派生機であるFM-2戦闘機が主力だ。同機では、改良型敵戦闘機相手には苦戦を免れない。


 空母部隊から烈風戦闘機が順次、発進。さらに『雲海』から業風戦闘機40機が追加発進したところで、機動部隊司令部が待望する報告が入った。


『白鷹2より入電。敵機動部隊を発見! 中型空母2、重巡洋艦4、駆逐艦12』


 敵機動部隊――司令部はざわめく。やはり敵空母はいた! 米軍の情報を鵜呑みにせず、これまでの戦闘の勘の通りだった。

 しかし――


「中型空母ということは、リトス級ではなく、アルクトス級か」


 海図台を睨む小沢の表情は優れない。せっかく見つかった敵空母部隊だったが――


「これは、位置が予想より西にいないか?」


 先に発見された敵攻撃隊と方向が異なっている。ズレている、というのは、想定位置と離れすぎている気もする。


「攻撃隊を放った後、針路を変更した……?」


 違和感が拭えない。神明は口を開いた。


「異世界帝国の一個戦隊は5隻編成でしたね。これは、もしかしたら――」

「もう一隊……空母3隻のグループがいるかもしれない、ということか?」


 発見された空母は2隻。定数を満たしていないだけの部隊の可能性もあるが、不可解な位置関係からすると、もう一隊が存在している可能性が上昇した。

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