第五六三話、コロンビア上空航空戦
アメリカ太平洋艦隊がパナマに攻撃を仕掛けた頃、日本海軍南米派遣艦隊の空母群もまた、南米コロンビア西部の飛行場へ向けて、攻撃隊を発艦させた。
もっとも、最初に放たれたのは日本海軍お得意の奇襲攻撃隊である。
特・海氷空母である『大海』『雲海』から、転移中継装置で運び込まれた九九式戦闘爆撃機と二式艦上攻撃機が飛び立つ。
これらは紫電改二や流星改二に機種転換された際の余剰で編成された第六一二海軍航空隊である。
空地分離方式によって編成された特設航空隊であるが、これまで主力を張ってきた主な空母航空隊は、再編と補給、機種転換、訓練などを優先しているため、こうして出番がやってきたのだった。
「先制攻撃に引き続き、攻撃隊本隊の発艦準備にかかれ」
空母『赤城』の艦橋で、小沢中将は命じた。
奇襲攻撃隊は、あくまで敵の急所をつき、その活動を押さえるもの。飛行場や施設の破壊は、他の空母航空隊の仕事だ。
空母『赤城』から烈風戦闘機9、流星艦攻12、彩雲2。六航戦から、烈風36、流星36。十航戦から零戦五三型18、烈風9、流星27が甲板を蹴って出撃した。
合計149機。第二陣は遮蔽装置を装備していないので、極力レーダーによる発見を遅らせるべく低高度で侵入。先行する奇襲攻撃隊が仕掛けたのち、満を持して攻撃を仕掛ける算段である。
なお、第三十一航空戦隊こと海氷空母3隻は、コロンビアのチョコ県に上陸予定の米海兵隊の船団の援護のため、戦闘機隊を準備して待機していた。
「さて、果たして敵さんは出てくるかな?」
小沢は挑むように言った。
「決して油断をしているわけではないが、現状は完全に過剰戦力ではある」
「敵艦隊が現れた時のために、航空隊はとってあります」
神明参謀長は、青木航空参謀に目配せした。
「放った攻撃隊は全体のおよそ三分の一程度ですから、敵艦隊が現れても対応できます」
「もちろんだ。我々は番犬だからな」
小沢は皮肉めいた笑みを浮かべた。
・ ・ ・
奇襲攻撃隊は、コロンビア西部にある異世界帝国軍のオラヤ・エレーラ飛行場に突入した。
コロンビアの実業家の資金で作られたメデジンに作られたこの飛行場は、決して大きいとはいえないが、異世界帝国軍がコロンビアを征服した際、自軍の飛行場として活用されていた。
九九式戦闘爆撃機が先陣を切る。時速650キロの高速で突っ込むと、管制塔、そして格納庫にロケット弾や250キロ爆弾を叩き込む。
二式艦上攻撃機も攻撃を開始、基地用のアヴラタワーに800キロ転移誘導弾を撃ち込んだ。
六一二海軍航空隊の飛行隊長である笹宮少佐は、二式艦上攻撃機から、炎上する粗末な敵飛行場を見下ろす。
「これなら、後続部隊は必要なさそうだな」
太平洋側から敵が来るという認識が薄いのではないか。爆撃機はあまりなく、警戒基地として、戦闘機と偵察機が中心なのかもしれない
「……おっ!」
地面から突然、ヴォンヴィクス戦闘機が湧いて出てきた。どうやら地形に擬装した航空機用掩蔽壕が複数あったようだ。
「全機へ、敵戦闘機、およそ8機出現!」
スクランブル要員はいたようで、敵戦闘機が、日本軍機を撃墜しようと上がってくる。
基地攻撃にあたって、友軍機との衝突を回避するため遮蔽は解除されている。九九式戦爆が、向かってくるヴォンヴィクス戦闘機に挑みかかる。
すでに烈風や紫電改二が配備され、旧式となる九九式戦闘爆撃機だが、改良型のスピードは、それら新型に劣るが零戦系列より優速だ。
相手もまた、短距離離着陸機能を有する改良型ヴォンヴィクスであるが、互いにまだまだ落ち込むほどの性能でもない。
一撃離脱、もしくは空対空誘導弾で仕掛ける九九式に対して、小回りと光弾砲を含めた火力で対抗するヴォンヴィクス戦闘機。
だが数の差は露骨であり、異世界帝国航空隊の抵抗も、あっさりとケリがついた。
後続部隊が、飛行場上空に到達する頃には、制空権はすでに日本軍の手にあった。
・ ・ ・
第一次攻撃隊が、コロンビアのメデジンにあるオラヤ・エレーラ飛行場、そしてさらに190キロほど離れた地点にあるプエルト・ベリオの飛行場を叩いた頃、南米派遣艦隊に、南方へ偵察に出ていた彩雲偵察機から通報が入った。
『赤城6より入電。北上中の敵艦隊を確認。戦艦3、重巡洋艦2、軽巡洋艦1、駆逐艦15』
位置、そして速度などの情報の後、追加がくる。
『敵戦艦は、リバダビア級2隻と『アルミランテ・ラトーレ』の模様』
空母『赤城』艦橋で、報告を受けた小沢中将は、神明参謀長に視線をやった。
「異世界帝国の鹵獲艦隊か」
「そのようです」
リバダビア級は、アルゼンチン海軍が保有する戦艦だった。イギリスのドレッドノート級に刺激され、ブラジルが弩級戦艦をイギリスに発注すると、ライバルであったアルゼンチンもまた弩級戦艦をアメリカに発注した。
基準排水量2万7700トン、全長181メートル、全幅30メートル。機関出力4万馬力22.5ノット。主砲は、30.5センチ連装砲六基十二門。大正生まれの旧式艦であり、超弩級戦艦の前の時代の艦艇である。艦名は『リバダビア』『モレノ』という。
そして『アルミランテ・ラトーレ』は、チリ海軍唯一の戦艦であり、発注の遅れからABC三国唯一の超弩級戦艦として生まれた。
基準排水量2万8000トン、全長201.5メートル。初期は機関出力3万7000馬力だったが、のちの改装で5万5000馬力に強化された。速度はだいたい22ノットで変わらない。
当初はイギリスに2隻発注されたが、その最中に第一次世界大戦が始まり、イギリス海軍に買収、編入されてしまい、1隻は『カナダ』という艦名とされたが、戦後にチリが再購入し、ようやく手に入れた。
なお2番艦はのちに空母に改装された『イーグル』であり、こちらはチリ海軍の手に入らなかったという。
主砲は35.6センチ連装砲を五基十門。ABC三国の軍拡競争で凌ぎを削っていた中、頭一つ優れた攻撃力を有している。
「大きさはほぼ互角だが、戦艦として気をつけるべきは『アルミランテ・ラトーレ』のみか」
要目を確認した小沢は頷いた。弩級戦艦のリバダビア級なら、同じく弩級戦艦改装の大型巡洋艦とほぼ互角で、対抗可能だ。
しかもさらに有利な点は、敵に空母がないことか。
山野井情報参謀がやってきた。
「長官、旗艦『出雲』より命令。発見された敵艦隊を撃滅されたし。なお投入戦力は、航空部隊指揮官に一任する、とのことです」
「ふむ……」
古賀大将は小沢に、敵艦隊の始末を任せると言った。敵が米上陸船団に近づく前に、さっさと叩けということなのだろうが……。
「これは、古賀さんも慎重になっているのかもしれんな」
空母なしの艦隊――それはこちらの攻撃を誘う囮ではないか、と。




