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第五五七話、どこからか戦力を引っ張ってくる能力


 南東方面艦隊参謀長、富岡少将は、オーストラリア大陸攻略の計画があることを、神明に明かした。

 投入戦力は、海軍の奇襲陸戦部隊である『稲妻師団』。それで点在する異世界人の拠点を奇襲し、無力化させていくというものだ。


 しかし、広大な大陸攻略には、通常であればそれなりに多くの物資を消費することになる。これは他方面に作戦や、戦力回復に勤しんでいる日本海軍としては、大きな負担となるものだが、その問題を、かつて神明が発案したT計画――転移連絡網整備を利用することでクリアすると、富岡は言った。


「つまりはそういうことだ。君のT計画を応用すれば、オーストラリア攻略でも、日本にかかる物資消耗も最低限に抑えられる。他方面に戦力も物資も必要な状況でも、負担は軽い」


 内地の負担が最小限であるなら、敵が戦力を立て直す前にオーストラリア大陸を攻略することは、日本側にメリットしかない。異世界人の占領地に、現地住民はほぼいないだろうから、占領した後の統治なども必要なく、あわよくば敵の物資や兵器も鹵獲できるだろう。


「さすがだな、富岡。連合艦隊司令部も、この作戦を承認するんじゃないかな」

「君の賛同を得られて光栄だ。なにぶんT計画の発案者である君が難色を示したら、まず無理だろうからね。――で、実際に投入する戦力なんだが、稲妻師団の他に、少々海上戦力もあったほうがいいだろう」


 富岡は相好を崩した。


「君の、連合艦隊司令部の機嫌を損ねず、使える戦力を分捕る策についてご教授いただけないだろうか。……マリアナの時は、君の無茶に関係各所に頭を下げて回ったんだからね。その時の借りを返してもバチは当たらないと思う」


 1942年、連合艦隊主力がフィリピンを攻略する際、陽動を兼ねたマリアナ諸島襲撃を第九艦隊が実施。その時、神明は連合艦隊付属の軽空母3隻を借り出し、さらに人事に軍令部次長である伊藤 整一中将を担ぎ上げた。


 そのことで、永野軍令部総長と、当時軍令部第一部第一課長だった富岡が、海軍大臣の嶋田大将と海軍省の人事担当部門に頭を下げて回った。

 神明は苦笑する。その時の借りを返せ、というのだ。


「その時は貴様にも世話になった」

「後始末ではあったけどね」


 そこで富岡は持参したオーストラリア大陸の地図を広げた。


「稲妻師団は主に航空機で移動することになる。それだけ土地が広い。異世界人も小規模な村や町まで駐留はしていない。現地住民はいない空っぽの集落も少なくなさそうだ」


 富岡は、オーストラリアの海岸線をぐるりと指でなぞった。


「こちらとしては、海上輸送路の遮断も兼ねて、これら艦隊が利用可能な港も潰しておきたいと考えている。海を封鎖してしまえば、オーストラリアの内陸にいる連中も、補給が途絶えて弱体化する。……オーストラリアの自然は過酷だからね」


 平原が多いが、砂漠や岩地だらけで、水が少ない土地だ。水が少ないということは居住に適さないということでもある。だからオーストラリア大陸は広いが、住める場所は意外と限られているのだ。


「しかし、海軍にオーストラリア大陸を封鎖するほどの余裕はない」


 神明は指摘した。バックヤード作戦に潜水艦部隊である第六艦隊は投入されるし、インド洋でも敵通商ルートの破壊のため、鹵獲した敵潜水艦も相応の数が投入される。

 十数隻規模でオーストラリア戦線に派遣は可能だが、それだけでオーストラリアの各港近海を封鎖するには足りない。


「うむ。なので、できれば攻撃して、港を使えなくしたい」


 富岡は言った。


「もちろん、敵は港湾施設を修復するだろうが、前線はともかく後方まで手をかけることをしてこなかった異世界人だ。全部を修理せず、戦略上、必要な港だけ直す」

「敵は世界規模だ。全部に手を回している余力はない」

「そういうことだ。こちらはオーストラリアで活動する敵を撃破できればいい。占領の必要もなければ、現地民のことも気にしなくていい。一撃離脱で潰していくだけで済む」

「そうとなれば、稲妻師団の活動以外に、空母機動部隊が欲しいだろうな」

「しかし、第一機動艦隊も第二機動艦隊も再編中で、しばらくは補修と訓練の時間に充てたいところだろう。……第一機動艦隊参謀長殿?」


 富岡は首を横に振った。連合艦隊司令部も、南東方面艦隊が機動艦隊を使いたいと求めても、難色を示すだろう。


「機動艦隊の定数外の空母で機動部隊を編成する手だが、それはバックヤード作戦に投入されるだろう?」

「そうだな。……そうなると、海氷飛行場である『日高見』を転移で移動させ、空母機動部隊代わりに使うか」

「うん? 日高見はバックヤード作戦には投入しないのか?」

「アメリカさんの目があるから、味方とはいえあれを見られるのは避けたい、ということになった」


 だから海氷飛行場は、バックヤード作戦には参加しない。南東方面艦隊で使える可能性が大で、それをオーストラリア攻略作戦で使えれば助かるだろう。


「とはいえ、日高見は自力航行できない。移動は転移頼りだからな。転移艦が必要か」

「その転移艦は、南米派遣艦隊に集中運用されるだろう? 借りられるか?」


 全てではないが、11隻の転移巡洋艦が南米に送られる予定である。他の部隊との兼ね合いで、新造艦を除けば余裕はない。


「伊401、伊402がそろそろ艦隊配備が近いんじゃなかったか?」


 神明は、伊400型潜水艦を思い出し、そしてもう一つ思い出した。


「そういえばあるぞ、転移中継装置を搭載しているフネが何隻か」

「本当かい、神明?」

「特設潜水母艦が、艦隊用の転移中継装置を積んでいたはずだ」


 潜水艦の補給を担当するのが潜水母艦である。

 開戦前、日本海軍では「大鯨」「迅鯨」「長鯨」があったが、「大鯨」は「龍鳳」に改装され、残るは旧式の母艦しかなかった。


 故に、不足を補うため民間から徴用した商船を改装した特設潜水母艦が作られた。それが「平安丸」「日枝丸」「靖国丸」「名古屋丸」「さんとす丸」「りおでじゃねろ丸」「筑紫丸」の7隻である。


 潜水艦部隊と関わりが深いものの、開戦時に内地にいたり、改装したりで難を逃れ、その後の日本海軍の対潜能力の向上から撃沈されることなく存在している。

 これらは転移中継装置を搭載され、マ式機関のない従来型潜水艦部隊が、作戦中に敵駆逐艦に追い詰められた時、緊急離脱で難を逃れた場面も少なくなかった。

 それがなければ、マ式潜水艦の数が揃う前に、日本潜水艦部隊は壊滅していたかもしれない。言わば陰の功労者である。


 鹵獲輸送艦を改造した『いくら型』潜水母艦が複数艦配備されたことで、従来の特設潜水母艦群は、主に内地や北方で活動していた。


「最前線任務ではないし、最近は運搬艦の真似事をしているとも言うから、南東方面艦隊で借りられるんじゃないか?」


 もちろん、前線で使うとなれば、遮蔽装置を載せるなり工夫が必要ではあるが。神明の意見に、富岡は皮肉げに口元を緩めた。


「本当、よくそういう重箱の隅をつつくようなフネを出してくるな」

「転移中継装置を載せたから、覚えていただけだ。T計画のこともあって、転移中継装置の増産と配備については、頭に入っている」

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