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第五五六話、南東方面艦隊からの使者


 連合艦隊は、南米派遣艦隊の選定を終えて、その準備にかかっていた。

 初期案では、主力を外れた艦の寄せ集め感の強かった第五艦隊に、海氷空母を加えることで、一応の空母機動部隊らしくする、というものであった。


 が、さすがに米軍の一大作戦に送る戦力として、日本の支援具合、その本気度を疑われるという意見が出て、より増強が決定された。


 その戦力は、第五艦隊に加え、ソロモン、インド洋海戦には間に合わず演習艦隊、兼、囮艦隊に配属されていた新艦艇を加えて、嵩増しした。半月ほどの演習で、多少の練度向上は認められるものの、どこまでやれるかについては少々不安があるものである。この辺りは、航空戦が主体になるということで、実戦経験のある部隊の働きでカバーするしかなかった。


 不安といえば、旗艦である『出雲』も、東南アジアでの囮艦隊時に空襲で損傷。それを修理してそのままの出撃となっているので、航行はともかく、戦闘に出ることは想定されていない。

 それでも出撃となったのは、アメリカ海軍に対する見栄である。


 異世界帝国の大航空戦艦であるディアドゴス級の改装艦だが、その巨艦ぶりは、見た目だけでも充分な迫力と貫禄があるのだ。

 同じく見栄といえば、第二戦隊の『大和』『信濃』も、日本海軍の本気支援のアピールのために参加している。

『武蔵』が修理で離脱しているが、大和型戦艦2隻の迫力は、米海軍にも大いに刺激になるだろう。


 南米派遣艦隊の指揮官は、古賀 峯一大将。アメリカ海軍との共闘とあって、階級で下に見られないように大将が充てられたのだ。

 前衛艦隊は、第六艦隊の三輪 茂義中将、空母部隊は第一機動艦隊の小沢 治三郎中将が務め、その艦隊布陣も決まった。


 かくて、新旧入り交じった編成となった南米派遣艦隊は、遠征を控えて、わずかな時間を利用してキリギリまで、艦隊運動を行い、調整を行った。

 そんな出撃を控えた5月も末。南米派遣艦隊の航空艦隊参謀長を務める神明少将のもとに、南東方面艦隊参謀長である富岡 定俊(さだとし)少将が訪ねてきた。


「久しぶりだね、神明君。相変わらず――」

「忙しいよ、うん」


 同期を迎え、神明は応えた。


「古賀さんは、航空について経験豊富な小沢さんを指名したからな。その参謀として、私も南米派遣艦隊行きだ」


 大砲屋である古賀大将である。今回の米軍の南米上陸作戦『バックヤード』においては、日本海軍は主に航空隊による戦いが中心となる。

 もちろん、異世界帝国軍が艦隊を差し向けてくれば、艦隊砲撃戦の可能性はあるが、艦隊の練度を考えれば、第六艦隊の潜水艦隊か、空母機動部隊で対応したいのが本音であった。


「そんな忙しそうな君に倣って、我々、南東方面艦隊も働こうと思ってね。ついては、君に一言相談しておこうと思って」


 軽い調子で言う富岡だが、その目は鋭かった。神明は司令部付きの従兵にお茶を頼みつつ、同期を見た。


「何故、私なのだ? 話を通すなら連合艦隊司令部に、じゃないのか?」

「もちろん、連合艦隊司令部に話は持って行く。が、その前に、君にお伺いを立てておかないといけなくてね」

「……」


 最近、海軍の一部上級将校の間には『神明参り』などと言う言葉が流行っている。要するに、神明に相談を持ちかけるだけではあるが、字面の連想で神社にお参りするのようにあやかっているのだろう。海軍は変なところで茶目っ気があるのだ。


「それというのもね、君が考案したT計画を大いに参考にしたからでもあるんだ。つまり、考案者に話を聞くのが一番だし、使うからには、ね。君の許可がいるんじゃないかと思ってさ」

「話を聞こうか」


 神明も表情が引き締まった。T計画――転移連絡網の整備。その範囲を世界中の海に広げ、艦隊や航空機の移動の時間と労力、コストを極限まで減らすそれは、資源に乏しく、石油を外地に頼っている日本海軍にとって、必要な部分しか注力できずとも継戦できるだけの能力を持たせる策である。

 富岡は、神明の発案であるT計画を知り、それで何か作戦を立てたらしい。


「少し前置きが長くなるが、まずは聞いてくれ。現在、我々南東方面艦隊は、ラバウルを中心にニューギニア、ソロモンに睨みをきかせている」

「インド洋での戦いで、第八艦隊が実質壊滅した影響で、ほぼ航空部隊のみらしいな」


 神明の眉間にしわが寄る。

 南東方面艦隊には、第八艦隊がついて、南太平洋での敵の動きに対応することになっていた。


 しかしインド洋での連投は、地方配備の艦隊まで動員することになり、結果、引き抜かれたまま、南東方面艦隊は洋上戦力をほぼ欠いた状態となっている。

 せいぜい対潜用の海防艦と哨戒空母がある程度で、もし異世界帝国が、それなりの規模の艦隊を送り出してきた場合、基地航空艦隊のみで対応しなくてはならなかった。


「幸い、ソロモン作戦で、敵の大規模艦隊はオーストラリア方面にもいない。インド洋の敵も動いたから、そっちは君たち連合艦隊がやってくれた。今のところは、静かなものだよ」

「今のところは」

「そうだ。だから、我々は内地からの補充を待ち、敵の動きがないか警戒し、防備を固めるくらいしかできないわけだが……」


 富岡の目が光った。


「ただ敵が戦力を回復させるのを待っているのも芸がない、と思うわけだ」


 つまり――


「仕掛けるのか? こちらから」

「うむ。我々、南東方面艦隊は、敵の戦力が復活する前に、オーストラリア攻略作戦を実施したいと考えているのだ」


 きっぱりと南東方面艦隊参謀長は告げた。冗談の類いではなく、本気の目を見てとり、神明は考える。

 普通に考えれば、南東方面艦隊で、広大なオーストラリア大陸の攻略、そして占領は不可能である。そもそも兵がいない。


 本気でかの大陸を攻略するなら、陸軍の大規模な攻略部隊が不可欠だ。しかし陸軍は大陸大反攻で忙しく、南半球に戦力を送る余力はない。


 では、どうするか? 富岡は、神明発案のT計画を参考にした、と言った。つまり策はあるのだ。それを聞かずして、無理とは言えない。


「連合艦隊司令部でも聞かれるだろうが、投入する戦力は?」


 神明は尋ねた。オーストラリア攻略をどうやるのか。その鍵は、どういう戦いをするか、である。


「稲妻師団を使う。具体的には、む号作戦の時と同じく、敵の生存可能領域を破壊し、その地域の敵を無力化する戦いをやる」


 つまり、敵アヴラタワーを狙い、地球環境で生存できない異世界人のテリトリーを奪い、戦わずして死滅させる戦法である。


「オーストラリア大陸は広大だが、都市圏を除けば、土地が広いだけで何もない。異世界人の拠点も点在している形だから、これを各個撃破する。占領する必要はない」


 ニューギニア島でやったことを、今度はオーストラリア大陸でやろうというのだ。陸戦隊が限られている海軍、大規模戦力を回せない陸軍という状況では、それが限界である。

 だが問題は、兵力だけではない。大陸となれば、『普通』であれば相応の物資を消費することになる。だが、そのことを神明は心配はしていない。何故ならば――


「で、その広いオーストラリア各地への移動、本来なら長大になる補給線……。転移連絡網を大陸でも使おうということだな?」

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