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第五五五話、準備をするアメリカ太平洋艦隊


 アメリカ海軍太平洋艦隊司令部のあるサンディエゴ。

 バックヤード作戦に向けて、太平洋艦隊の艦艇は出撃準備にかかっていた。

 太平洋艦隊司令長官、チェスター・ニミッツ大将は、司令部の窓から港の様子を眺めていた。


「……結局、増援はなかったか」


 寂しそうに呟くニミッツである。

 現在の太平洋艦隊は、今年1月下旬に生起した第三次ハワイ沖海戦での残存艦艇が、その主力を構成している。


 7隻存在した高速戦艦は4隻となり、旧式戦艦3隻を含めて戦艦は7隻。

 正規空母は、ハワイ沖海戦で沈没艦がなかったこともあって、損傷から復帰して6隻が健在。しかし3隻失われたインディペンデンス級軽空母は、2隻の補充があったが、1月に比べると、トータルで減少している。


「仕方ありますまい」


 チャールズ・マクモリス参謀長がやってきた。呟きが聞こえたのかと、ニミッツは気恥ずかしくなる。


「今回は、大西洋艦隊もカリブ海側から進撃しますから。あちらにも戦力は必要です」


 第三次ハワイ沖海戦では、敵の強大な大西洋艦隊の前に退避も兼ねて大西洋戦力を太平洋に回し、それを投入できた。

 が、今回の作戦は、太平洋側、カリブ海側の二方向からの攻撃となるから、艦艇を太平洋ばかりに向けられなかったのだ。


「むしろ、大西洋艦隊に比べれば、数の上ではこちらがマシでさえある」

「わかっているよ」


 ニミッツは苦笑した。

 太平洋艦隊の高速戦艦は、『ニュージャージー』、『インディアナ』『バーモント』『ネブラスカ』の4隻。


 大西洋艦隊の高速戦艦も『アイオワ』『ウィスコンシン』『マサチューセッツ』『アラバマ』の4隻。最新のアイオワ級2隻、サウスダコタ級2隻ととにかく新しい。


 対して空母は、太平洋艦隊が『エセックス』『ヨークタウンⅡ』『イントレピッド』『レキシントンⅡ』『エンタープライズⅡ』『スプリングフィールド』の6隻。

 軽空母は『カウペンス』『ラングレーⅡ』に加え、『カボット』が加入し、正規空母も含めて9隻がある。


 しかし大西洋艦隊となると、エセックス級『バンガーヒル』『ホーネットⅡ』『フランクリン』、インディペンデンス級『バターン』『サン・ジャシント』と、合計で5隻と、太平洋艦隊のおよそ半分しかない。


 とかく、新鋭艦は東海岸の造船所で作られているため、そのまま大西洋艦隊に配備という形がとられている。その結果、思うように太平洋艦隊が増強されない理由の一因となっていた。


「我々の攻撃目標は、パナマと、太平洋側の南米大陸コロンビア沿岸一帯の制空権、制海権の確保――」

「どうあっても、現状で充分とはいえない」


 ニミッツはきっぱりと告げた。

 輸送船とそれを護衛するのはカサブランカ級の護衛空母と護衛駆逐艦群だが、こちらは数はある。

 が、敵飛行場の戦力と殴り合うには心もとなく、敵が艦隊を送り込んできたら、規模によるが、不安は拭えなかった。


「日本海軍の協力が必要だ」

「その日本軍は、太平洋に続き、大西洋、そしてインド洋の敵艦隊を撃滅しました」


 マクモリスは顔をしかめた。


「戦前の予想とはまるで異なる展開であり、かの国がいまだに脱落せず、むしろ異世界人を圧倒しているのは、嬉しい誤算と言えます」


 そうは言いつつも、不安を拭えないという顔をしている参謀長である。

 仮想敵として日本を想定していた頃もあり、一時期、戦争になるかもしれないほど険悪な空気になったこともある。だがもし、異世界帝国が現れず、日本と戦争になっていたら、どうなっていたか。

 建艦能力を超えた恐るべき数の艦艇数。それはアメリカ海軍のそれを軽く凌駕し、正面から太刀打ちできなかったのではないか。


 一方で、海外に資源を頼り、弾薬や装備が不足しているというアンバランスな面もあって、そこをつけば案外どうにかなってしまうのではないかとも思える。


 一言でいえば『異様』だ。日本という国は。

 しかし今は、その異様な国、日本の海軍を頼りにしなければならない状況に、アメリカ海軍はあった。


「とはいえ、彼らは先月末から今月頭まで、南太平洋で戦い、インド洋を制して、大陸での決戦を有利に運んでいます」

「ああ、日本陸軍が、ドイツの電撃戦よろしく破竹の勢いで進撃しているそうだな。アジアから異世界人が消えるのは、素直に喜んでいいと思うよ」


 ニミッツは冗談めかした。


「できれば、こっちでもその力を奮って、南米からも敵を叩き出してくれるのを手伝ってくれると助かるのだがね」

「彼らの戦い方は、大いに参考になります」


 マクモリスは頷いた。


「こちらもブレインたちが、敵を解析していたところを、日本軍が見事にそれが正しいか間違っているかを証明してくれましたから。検証時間の短縮を図り、我々も反撃に移れます」


 南米侵攻作戦――バックヤードが発案、実行されるに至ったのも、日本軍の戦いぶりが参考になっているのだ。


「だが問題もある」


 ニミッツは眉をひそめる。


「日本海軍は、バックヤード作戦に支援を約束してくれた。艦隊を送ると言っているが、どの程度の規模になるか、まだ知らせがきていない。……もうすでに作戦のための兵力移動が始まっているのに」


 どれくらいの戦力を派遣してくれるのかわからなければ、作戦の立てようがない。マクモリスは首を横に振る。


「お気持ちはわかりますが、日本海軍も連戦によるダメージが抜けきっていません。我々も詳細はつかみきれていませんが、損傷艦や沈没艦もかなりのものだとか。それにも関わらず、このタイミングでまだ参加してくれるだけ、彼らは約束を果たそうとしている」

「そうとも、日本人は誠実なのだ。私が彼らに好感を抱くのもそれだ」


 ニミッツは不安げに眉を寄せた。


「だが、送られた艦隊が、こちらの想定より少なかった場合、作戦の成功も危うくなる」


 異世界帝国の複数の艦隊を叩き潰した戦果は見事だが、その戦いがなければ、多くの戦力を送ってきてくれたかもしれない。それこそ、アメリカ軍のハワイ奪回に匹敵する大艦隊があれば……。


「日本海軍は増援規模について正確な返答を控えている。そしていまだにその主力は柱島から動いていない」

「彼ら日本人は、テレポーテーションを用いて、艦を移動させることができます」


 マクモリスはどこか皮肉げに言った。


「だから、作戦決行の2、3日前に突然やってくることも可能なのです。ギリギリまで準備している……そう考えたいですね」

「我々にも欲しいな。テレポーテーション。あればパナマ運河を使わずとも大西洋と太平洋の移動が容易になる」


 両洋艦隊などと言わず、必要な場所、必要な時に戦力を集中できることがいかに重要なことか。


「軍も政府を通じて、日本と交渉しているようですが、あれの技術はトップシークレットに等しい。易々と教えてはくれますまい」

「ケチケチせず、日本にもっと物資を送ってやればよいのに」


 恨めしげにニミッツは言った。


「そういうところだぞ。何でも交渉して、利を得ようとするアメリカ人の悪い癖だ。日本人には誠実に接すれば、誠実で返してくれる。武士道の国なんだ、日本は」


 白人優位、有色人種差別なんてやっているから――とニミッツ苦虫を噛み潰すのだった。

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