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第五五三話、結局、派遣する戦力は――


 連合艦隊の主力は、ソロモン作戦、インド洋作戦で受けた艦艇の修理や補給を進めつつ、再編成を行っていた。

 さすがの異世界帝国も、主な艦隊のほとんどがやられ、現在、その動きも不活発である。異世界人もまた艦隊再編を行っているのだろう。


 新たな編成、乗員の訓練など、今のうちにやることは山ほどあるが、相変わらず、神明少将は本来の職務に集中できずにいた。

 それというのも、軍令部、連合艦隊が共に進めるアメリカ支援のバックヤード作戦に参加する戦力や、その利用について、連合艦隊司令部から意見を求められていたからだ。


 連合艦隊旗艦『敷島』にて、神明は、草鹿 龍之介参謀長、樋端 久利雄航空参謀で顔をつきあわせていた。


「先日の機動艦隊の編成案から漏れた艦は、基本的にバックヤード作戦に投入してもよいと思う」


 草鹿は、ゆったりとした口調で告げた。それはつまり、遊撃隊として編成されている第五艦隊に配備されている艦を、アメリカ支援に使おうということだ。


 インド洋作戦の終盤、援軍としてやってきた第八艦隊と第九艦隊だが、異世界帝国の紫の艦隊――紫星艦隊の強襲を受けて、大きな損害を被った。

 もともと、第八艦隊は南東方面艦隊の所属として南太平洋に睨みをきかせる部隊だったが、司令長官の遠藤中将の戦死を含め、司令部は消滅していた。


 第九艦隊は軍令部の所属であり、主力の再編中である連合艦隊は、そこから漏れた艦を中心に、遊撃艦隊を構成した。


 第五艦隊は、北方警戒部隊であるが、アメリカと友好国である現在、大型艦配備の必要性は薄れていたため、対潜部隊を残し、他の艦隊に水上艦を補充として引き抜かれてしまっていた。

 そして今さら北方警戒部隊もないだろうということで、第五艦隊の名前で新規に艦隊が編成された。

 その守備範囲は、東南アジア、そして南東方面艦隊のある南太平洋に及ぶが、転移中継網を用いることで、迅速な移動が可能である――という触れ込みであった。


 そして現在の第五艦隊の編成は以下の通り。



●第五艦隊


 第七戦隊  :「金剛」「比叡」「榛名」「霧島」

 特殊巡戦隊 :「足尾」「八溝」「静浦」「春日」

 第六航空戦隊:「瑞鷹」「海鷹」「黒鷹」「紅鷹」

 第十航空戦隊:「隼鷹」「龍鳳」「白鷹」


・第五水雷戦隊:「名取」

  第五駆逐隊  :「朝風」「春風」「松風」「旗風」

  第十四駆逐隊 :「楓」「欅」「柿」「樺」

  第三十五駆逐隊:「大風」「西風」「南風」「東風」

  第三十六駆逐隊:「北風」「夏風」「早風」「冬風」

  第四十二駆逐隊:「竹」「梅」「桃」

  第四十三駆逐隊:「桑」「桐」



 その編成は、非常にちぐはぐである。


 主力から外れた金剛型戦艦は、まともな戦力ではあるが、主砲口径が小さく、戦艦相手だと、敵の主力であるオリクト級は厳しい。

 巡洋艦も、旧式装甲巡洋艦改装の特殊巡洋艦4隻があるものの、主砲が光線砲であり、破壊力はあるが弾数の少なさから、継戦能力は低い。

 駆逐艦は、旧式艦と、第一次世界大戦型ドイツ駆逐艦の改装艦が主力であり、防空能力は強化されているが、水上戦闘では誘導魚雷頼みの小兵である。


 唯一まともな空母は、6隻の中型空母と1隻の小型空母があるが、やはり艦載機の搭載数からみるとやや少ないと見るべきか。

 敵が他戦線で動き、第五艦隊に出動が入らない限りは、この艦隊がバックヤード作戦に出撃させるつもりの、連合艦隊司令部である。


「これに海氷空母戦隊をつければ、一応、空母機動部隊として、米国を納得させられると考える」


 草鹿は言った。

 これまでの海氷空母と、現在九頭島で建造中のそれが間に合えば、大型空母がいないとアメリカから何か言われることもないだろう。

 神明は口を開いた。


「連合艦隊として、一機艦、二機艦に割り振りする艦は、極力使わない方針ということですか?」

「そういうことだ。どうしても必要というのであれば、吝かでもないが、極力温存して、次の戦いのための補修や修理を完璧にしておきたい」


 連合艦隊の本音を言えば、主力艦は使いたくない。敵は底が見えない異世界帝国。今でこそ、敵の主な艦隊を軒並み撃破したが、またいつ異世界から増援がやってくるかわかったものではなかった。

 慎重な草鹿としては、次の戦いのための消耗は避けたいと考えていた。


「バックヤード作戦において、我々日本艦隊に期待されているのは、敵飛行場の撃滅と上陸支援。そして上陸船団に敵艦隊が迫った場合、これを撃退することだ」


 複数ある異世界帝国の飛行場を、米軍と共同して攻撃し、制空権を確保する。当然ながら、敵も上陸を阻むべくあらゆる手を尽くしてくるだろう。

 飛行場の航空隊のみならず、艦隊もまた出してくるに違いない。


「敵艦隊が妨害に現れれば、金剛型戦艦だけでは不足です」


 神明はきっぱり告げた。


「他の戦艦戦隊を回すべきではありませんか? 41センチ砲搭載戦艦か、もしくは『諏方』とか」


 記憶違いでなければ、遮蔽戦艦の『諏方』は、第一機動艦隊、第二機動艦隊とは別に運用される予定なので、空いているといえば空いている。

 草鹿は顎に手を当てた。


「それなんだが、バックヤード作戦派遣部隊には、第六艦隊に加えて、転移艦を含めた先導部隊を編成することになっている。君も知っているかもしれないが、第五部魔技研が提出した戦術だが」

「T71ですか」

「……やはり知っていたか」


 その魔技研の転移戦術の研究は、主に神明がやっていたから、知っているも何も、発案者である。

 草鹿は頷いた。


「その先導部隊に『諏方』が使われる予定だ。いわゆる敵艦隊が現れた時の先手必勝、切り込み戦法というやつだ。だから空母艦隊とは別行動になるだろう」


 連合艦隊司令部としても、『諏方』はしっかり活用するつもりだった。

 南米の飛行場を攻撃するに辺り、敵の反撃も熾烈だろう。だから艦隊の転移回避のためにも、転移中継装置を装備した転移艦艇を積極的に運用する。


「しかし……そうだな、先導部隊とその戦術については君の方が詳しそうだから、そっちの編成についても意見をもらいたい。どうだろうか?」


 草鹿は、神明に積極的な攻勢案を求めた。もともと草鹿は、引きつけての防衛戦術などを得意とし、攻勢にあっても慎重な策が目立つ男であった。だからこそ、冷静にありながら、果敢な襲撃戦法を得意とする神明の考えを、この作戦に取り入れようと考えたのだった。


 何より時間がなかった。作戦は6月初旬らしく、本来ならとうに艦隊が動き出していないといけない頃合いである。

 それが許されているのは、転移中継網のおかげであるのだが、上はまた無理難題を押しつけてくるものであった。

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