第五五二話、新・艦隊編成案
ベンガル湾の超大型戦艦『レマルゴス』は、七九二海軍航空隊の火山重爆撃機による光線砲攻撃で、撃沈された。
カルカッタへの艦砲射撃はなくなり、日本陸軍インド方面軍は同地を奪回した。
まだ洋上に異世界帝国の小型空母と駆逐艦を中心とした艦隊があるが、嫌がらせ程度の航空攻撃があった程度で、大規模な反撃はなかった。
それもそのはず、艦隊と輸送船団は、転移ゲートによる補給が断たれて、現存する物資でやりくりしなければならない状況だった。燃料や物資の使用は節約せねばならず、気にせず使いまくれば、航空機による直掩もできなくなる。
ベンガル湾からインド洋に抜けるにも、セイロン島が日本軍の手にあり、味方勢力圏に脱出するまでに襲撃にさらされる可能性は大だった。つまり、彼らは孤立してしまっているのである。
七九二空の攻撃で、超大型戦艦を沈めた結果、九頭島で準備されていた氷塊爆弾は、出番なく終わった。
出来上がった氷塊は、さっそく海氷空母の補充として再加工されることになり、工事が開始された。
氷塊爆弾案を出したことで計画の中心にいた神明少将は、魔技研の頭脳である坂上博士と協議し、後を任せた。神明は、第一機動艦隊参謀長として、職に戻らなければならなかったからだ。
坂上博士とそのチームは、さっそく巨大な氷塊を分割し、航空母艦として艦載機を運用できるように改造を開始した。
艦としての運用は、より改良した自動コアによる自動艦として運用できるようにし、転移倉庫の機能を応用した、補給、人員・物資移動設備を組み込んだ。
さて、神明の方は、第一機動艦隊に戻ったものの、すぐに小沢中将と共に連合艦隊司令部の会議に出席し、以後の連合艦隊における艦隊編成についての話し合いに参加した。
「――異世界帝国海軍は、一個戦隊を5隻で編成しております」
連合艦隊参謀長の草鹿 龍之介中将は、一同に告げた。
「彼らの戦隊編成において、我が方は2から4隻で一個戦隊を編成となっていまして、敵と戦隊同士が激突した場合、1隻分こちらが不足した状態となります」
特にその差が顕著なのは、空母の艦載機の差である。日本海軍では2隻から3隻、そして3隻から4隻に一個航空戦隊の空母が増えていたが、それでもまだ、敵の5隻編成に及ばない。
「率直に申し上げて、ただ空母の数を増やせばいいというものではありません。我が軍では、空母の数がすでに60隻に達しておりますが、大型もあれば小型もあり、その搭載数は非常にばらけております」
草賀が合図すると、樋端航空参謀が黒板に艦種表を張り出した。
甲:艦載機100から120機以上:大鶴型×6
乙:72機から84機:翔鶴型×2、大鳳型×2、飛隼型×1、翠鷹型×2、海龍型×11、加賀型×1、赤城型×1
丙:65機から48機:蒼龍型系×3、瑞鷹型系×5、黒龍型×3、飛鷹型×2
丁:40以下:祥鳳型×2、龍鳳型×1、龍驤型×1、翔竜型×1、龍飛型×7、大鷹型×5
その他:海氷空母など
「……こうやってみると、空母の数も増えたなぁ」
小沢が感嘆深い声で呟いた。戦前の空母保有数と比べれば、まさしく雲泥の差である。鹵獲、改修艦の数も多いが、沈められても復活した艦もあるから、ここまで数が膨れ上がったと言える。
草鹿は口を開いた。
「機動艦隊の主力戦力としては、丁の21隻は除外します。これらは直掩機の運用、あるいは哨戒空母として運用しているので、艦隊航空戦とは別に用いられるためです」
残る甲、乙、丙の空母は39隻。全体のほぼ3分の2というところである。
「この39隻をもって、機動艦隊の主力を担うものとなります。そこで新たな編成案ですが――樋端航空参謀」
「はい」
バトンタッチされた樋端が前に出た。
「連合艦隊としましては、主力を第一、第二、二つの機動艦隊が担うものとし、一個機動艦隊に16隻の空母を配備するものと考えます」
樋端は、資料に目を落とした。
「先ほど、異世界帝国の戦隊編成が5隻単位であると説明がありましたが、これまでの艦隊編成によれば、一個群に10から15隻の空母が確認されております。つまり、空母16隻編成の機動艦隊ならば、数の上では互角に近い戦いが可能ということになります」
そして――
「より規模の大きな敵艦隊に対しては、二個機動艦隊であれば32隻の空母で当たれます。もちろん敵の規模を考えれば、一度に40隻以上の空母を送り出してくる例もありますので、その場合は、こちらも主力外の空母や海氷空母などを加えて、増強する必要があります」
その辺りは臨機応変に。そもそも空母40隻を投入するような大艦隊が相手ならば、連合艦隊もほぼ全力の戦力で当たらねばならないから、そこまで細かく気にするところではない。
「まだ試案ですが、第一機動艦隊は大鶴型6隻を中心に、『大鳳』『飛隼』『赤城』、翔鶴型、翠鷹型……これに『蒼龍』『飛龍』『雲龍』を加えての16隻。第二機動艦隊には、『大龍』『加賀』に海龍型11隻を加えた13隻と、不足している3隻の潜水可能型空母を整備し、16隻としたいと考えております」
つまり、水上型空母と潜水可能型空母で分ける、これまでと同じということだ。神明は、樋端の案を聞いて、頭の中で整理する。
これまでと変わるのは、第一機動艦隊は艦載機総数が増加し、第二機動艦隊は空母が倍近くに増やされることであろう。
そこで小沢が手を挙げた。
「確認だが、主力は甲、乙の空母で主に編成されるようだが、丙の空母はどうなる? 『蒼龍』『飛龍』『雲龍』以外は?」
「これらは地方警戒艦隊に配分するつもりです。もちろん状況に応じて、機動艦隊に合流することもあります」
樋端の話では、第一機動艦隊は空母16隻の他、戦艦13隻。第二機動艦隊には戦艦14隻を配備し、護衛とすると共に、必要ならば分離して、敵艦隊への水上打撃戦を仕掛けるものとするとされた。
ここ最近、前衛の水上打撃部隊と空母機動部隊が分けて運用されることが増えていたため、機動艦隊構想の当初の形に戻したという。
「我々は、転移中継装置装備の艦艇を増強したことにより、艦隊の機動が攻撃、回避共に迅速に行えます。よって、従来の前衛、後衛という使い方に固執することなく、より柔軟に運用することができます」
樋端はそう締めくくった。再び草鹿が前に出て、艦隊の巡洋艦や駆逐艦の配分について、いくつか案を示しつつ、広く意見を求めた。
――要するに、普段の空母の護衛が足りないから、戦艦も空母の守りに付かせようということなんだろう。
神明は、その配分を聞いて思った。ここ最近の連戦で駆逐艦を損耗した結果、普段から前衛後衛に分けると不足するから、共に行動させて、必要になったら分離しましょう、ということだ。
正直、転移で敵の空襲を回避するのなら、防空艦をそこまで増強する必要性ないと思われがちだが、転移で逃げられないとか、退避するまでの時間稼ぎなどを考えれば、きちんとした防空戦闘が行える艦艇の護衛は必要だ。
だから、最初から前衛後衛に分かれると、空母に対して防空艦艇が不足するし、前衛部隊が突撃するにしても駆逐艦が不足するという中途半端感が出るのだ。
機動艦隊として、あるべき姿になったというべきか――神明の中で、そう結論づけるのだった。




