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第五二三話、作戦『雷光』


 第一機動艦隊から飛び立った1201機の攻撃隊は、彩雲偵察機の先導で、異世界帝国艦隊甲艦隊に迫った。

 その甲艦隊の上空を張りついていた別の彩雲偵察機から、通信が入る。


『敵空母より戦闘機が発艦。攻撃隊を迎撃する模様。その数、現在約600』


 つまり、異世界人は、第一機動艦隊への攻撃ではなく、自艦隊の防御を選択したということだ。

 攻撃隊は、敵空母のほぼ全戦闘機の出迎えにさらされることを意味する。


 数からすれば、味方の戦闘機隊が押さえ込んでくれるだろうが、そこを抜けても敵艦隊には、新型の小型戦闘機が数百はいるだろうから、艦攻隊には少々厳しい。

 一航戦『大鶴』艦攻隊隊長、下村 太一郎少佐は通信機を操作する。流星艦攻は、二人乗りなので専属の通信士の席はない。


(おおとり)より、(うぐいす)。鶯どうぞ」


 呼びかけて少し、応答があった。


『こちら鶯。鳳、どうぞ』


 鶯――第二機動艦隊所属、加賀航空隊の内田ハル少佐からである。


「こちら鳳。作戦『雷光』開始せよ。どうぞ」

『――鶯、了解。作戦『雷光』開始する。終わり』


 攻撃隊は、出撃前の作戦計画に従って行動を開始する。

 第一次攻撃隊に同行する第二機動艦隊、第七艦隊の奇襲攻撃隊の機が、それぞれ遮蔽装置を用いて、姿を消していく。

 この攻撃隊には空母10隻、約550機が奇襲攻撃隊だったりする。


「さて、ではこちらもやりますかね」


 下村はさらに部隊に呼びかける。


「鳳より各隊へ、転移を行う。目標は転移巡洋艦『浦賀』」


 攻撃隊、各機に転移離脱装置の調整をする時間を与える。といっても十数秒ほどしか与えない。


『鳳へ、敵戦闘機群、そちらに向かう』

「おー……正面のゴマ粒みたいなのがそれか?」


 どうやら敵の高速戦闘機が、先陣切って突っ込んできたようだ。数が多いから、早めに仕掛けて、その後、反復攻撃を仕掛けようという腹かもしれない。


「残念。そっちとお付き合いする気はないんだわ、これが」


 軽口にも似た独り言の後、下村は通信機に呼びかけた。


「鳳より攻撃隊各機、転移開始!」



  ・  ・  ・



「敵攻撃隊が消えたぁ……?」


 ムンドゥス帝国、アーデイン中将は、その報告に素っ頓狂な声をあげた。

 オーストラリア方面艦隊に迫る日本軍攻撃隊に対して、戦闘機隊を送り込んだ。しかしその日本軍攻撃隊を、迎撃隊は見失ったらしい。


「前衛索敵艦の対空レーダーによれば、敵の半数が消え、その数十秒後に、残る機体も消えたとのことです」

「まさか遮蔽を使ったか……?」


 敵の奇襲攻撃隊が、こちらの目をくらますために遮蔽で隠れたという可能性。

 しかし、これまで奇襲攻撃隊が、姿を隠すところの目撃例はあっただろうか? 母艦自体が確認できず、どこからともなく攻撃隊が現れ、その時はすでに攻撃されている、というのがこれまでのパターンではなかったのか。


「とすると、これは転移か?」


 ではどこへ転移したというのか? 猛烈に嫌な予感が込み上げてくる。そしてその予感は当たるのである。


「長官、船団護衛司令オーモス中将より、緊急電であります! 日本軍攻撃隊、多数が出現! 輸送船団に迫る!」

「なんだと! ……そうか! 転移でそっちへ行ったのか!?」


 情報参謀に報告に、アーデインは顔をしかめた。


「迎撃に向かった戦闘機を全て引き返させ、船団を守らせろ! 急げ!」

「はっ!」


 日本軍は最初から、オーストラリア方面艦隊が引き連れている輸送船団を狙ったのか。確かに船団がやられれば、セイロン島上陸作戦は実施不可能となる。

 だが――


「仮に船団の陸軍がやられたとしても、艦隊によるセイロン島の軍港と施設破壊はさせてもらうだけだが」


 タダでは転ばない二段構え。思考するアーデインに、航空参謀が口を開いた。


「しかし、日本軍は31隻もの大空母部隊を持ちながら、狙いが輸送船団とは……。拍子抜けです」

「ステートス。案外、日本軍は空母は残っているが、機体や弾薬が限界なのかもしれん」


 無理もない話だ。日本軍にとっては、南海艦隊とインド洋艦隊と連戦だっただろう。千機以上の航空機に怯んでしまったが、実際はそれが精一杯だったのかもしれない。


「輸送船団を叩けば、セイロン島を占領されないだろうとふんで、そっちを狙ったのかもな」

「はい」


 ステートス航空参謀は首肯した。しかしアーデインの表情は優れない。セイロン島を制圧できれば理想なのだが、船団がやられれば、二段構えが発動しようとも、最善の結果ではなくなるのだから。

 それに消えた千機が輸送船団に押し寄せれば、まず助からないだろうという予感があった。



  ・  ・  ・



 アーデイン中将の予感は的中する。

 日本軍第一機動艦隊攻撃隊は、転移巡洋艦『浦賀』の転移中継装置を利用して、敵甲艦隊の後衛である輸送船団の近くに転移すると、そのまま一気に攻撃を開始した。


 上空直掩のヴォンヴィクス戦闘機、スクリキ無人戦闘機は100も満たなかった。烈風戦闘機が敵機に向かう中、流星艦攻隊が小型空母や支援輸送艦、そして護衛の駆逐艦に対艦誘導弾を放った。


 グラウクス級軽空母は、追加の戦闘機を発艦させようとして、飛び込んできた誘導弾に阻まれる。薄い装甲を突き破り、格納庫や機関で爆発。大破、轟沈する。

 駆逐艦もまた遠距離から狙い撃たれ、対空砲による迎撃も虚しく損傷、あるいは真っ二つになって爆沈していく。


 烈風や流星の中には、光弾機銃による輸送艦の掃射が行い、それらを航行不能にしたり物資の誘爆や火災を起こさせた。


 160隻の輸送船団と、それを守る護衛の小型空母、駆逐艦がやられる中、さほど距離が離れていないオーストラリア方面艦隊から防空用の巡洋艦が分派される。

 さらに艦隊直掩のスクリキ無人戦闘機や先に迎撃に出された戦闘機隊も引き返し、船団を守りに向かう。


 しかし、それは罠だった。

 異世界帝国戦闘機が、船団の防衛に向かう後を、奇襲攻撃隊が追尾していたのである。

 遮蔽に隠れ、第一機動艦隊攻撃隊から分かれた第二機動艦隊、第七艦隊の奇襲攻撃隊は、手薄になったオーストラリア方面艦隊の空母群へ接近。対防御障壁用誘導弾を叩き込んだのだ。


「案内ご苦労、というやつだねぇ」


 第二機動艦隊、加賀攻撃隊隊長である内田ハル少佐は、大物であるリトス級大型空母が被弾、炎上する様に笑みを浮かべた。


 敵の戦闘機はそれでも多かった。が、大半が輸送船団に流れたので、紫電改二や九九式戦爆、180機でも対処が可能だったのだ。

 そして残る艦攻隊は、空母や戦艦などを攻撃し、打撃を与えるのだった。

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