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第五〇七話、意味のない攻撃


 日本艦隊へ攻撃に向かったムンドゥス帝国航空隊。ミガ攻撃機のパイロットらは、日本艦の姿を目視した時、もしかしたら転移しないのではないか、という淡い期待を抱いた。


 一方、制空隊であるヴォンヴィクス戦闘機を駆るパイロットたちは、日本戦闘機が一行に迎撃に現れないため、どうせ転移で逃げるつもりだと考えた。

 そうこうしているうちに、日本艦隊を視野に収め、いよいよ迎撃が来ない中、攻撃機隊は、さらに距離を詰める。


 その時、日本戦艦による対空砲弾の発砲があった。ここまで来たら、日本人は普通に戦闘をするつもりだと、攻撃隊パイロットたちは思った。そもそも下等な地球人が、転移技術を持つなど、何かの間違いではないか。


 一式障壁弾による光の壁は、初見だった異世界帝国パイロットたちに回避の間も与えず衝突死を与えた。

 後続にいて、障壁を回避した攻撃機は、高度を下げて日本艦隊に突撃するが、そこに至って、艦隊が転移した。


 結局、空母発艦前に説明があった通り、日本艦隊は転移で逃げたのだ。

 一斉射で、数十機がやられ、何の反撃もできなかったことに、パイロットたちは苛立った。しかし、後の祭りである。


 戦果もなく、攻撃隊は艦隊へ引き返す。その旨、インド洋艦隊本隊に報告された。

 総旗艦である改メギストス級戦艦『プロートン』では、メントー・オロス大将が通達と確認を行った。


「敵艦隊が転移を行った。展開中の襲撃部隊は、索敵を強化。敵を確認したら攻撃せよ。またインド洋艦隊本隊、各群へ通達。敵が直接転移して砲撃戦を仕掛けてくる可能性あり。戦闘隊形にて応戦の準備をせよ」


 指示を出し、司令長官席に腰掛けるオロス。


「転移であるなら、すぐ戦闘もあり得るが……。ここまでは予想通りだな、参謀長」

「はい。敵はこちらの攻撃隊を回避しました」


 テルモン参謀長は姿勢を正したが、表情は些か曇っていた。


「……敵の奇襲攻撃隊の襲撃も想定されましたが、仕掛けてきませんでした」

「攻撃隊も妨害されることなく発進できた。展開したスクリキ浮遊戦闘機隊が抑止力となったのなら、よいのだがな」

「もし敵が我が艦隊に殴り込みをかけてこなかった場合、次に奇襲攻撃隊が現れるのは、こちらの攻撃隊が戻ってきた時、でしょうか」


 艦載機の発艦時に並んで、母艦に着艦するタイミングでの襲撃が多い日本軍である。そこまで防御シールドを嫌っている彼らである。


「その前に、こちらの襲撃部隊が、転移した敵空母群を捕捉攻撃してくれれば、そこまで深刻に考えなくてもよいが」


 本隊とは別に、巡洋艦8、駆逐艦15、支援輸送艦3からなる襲撃部隊を、8つほど展開させているインド洋艦隊である。これらは全て潜水可能艦で構成されており、近くに日本艦隊が転移してくれば水上、水中、そして少数ながら航空機による立体的な突撃戦法を仕掛ける公算となっていた。


「正念場だ」


 警戒しつつ、味方部隊からの接敵の報告を待つ。……しかし十数分経っても、敵発見ないし遭遇の報告はなかった。

 オロスは時計を一瞥し、そして口を開いた。


「敵は、こちらの見える範囲に転移しなかったのか」


 本隊より離れて展開している襲撃部隊からも一切の通報がなく、オロスは苦虫を噛み潰したような顔になる。

 来るぞ来るぞと身構えていたのに、敵は影も形もない。肩透かしにもほどがある。


「敵は自軍艦載機の航続距離外に転移したのか?」

「こちらの襲撃部隊を警戒したのだとすれば、通常より距離をとった可能性も否定できません」


 テルモンは小さく首をかしげた。


「事実、北方警戒の一隊が、敵にやられていますから」


 日本軍が、襲撃部隊の存在に慎重になる材料はあるのだ。しばらく待ってみて、やはり敵発見の報告は入らない。


「もしや、セイロン島まで後退したのか?」


 日本軍の想定よりこちらの戦力を削れなかったために、基地航空隊が使えるだろうセイロン島に戻り、そこで改めて防衛線を引き直した可能性。


「それが元からの彼らの計画であるならば――」


 テルモンは考えをまとめた。


「一連の日本軍の動きは、こちらの戦力を削る漸減作戦であり、セイロン島手前を決戦場に選んだということになります。そこに到達するまで、彼らはこちらの隙を衝いて、戦力を削ろうとするはず」

「潜水艦による待ち伏せ、夜戦による突撃。昼間は航空攻撃……。なるほどな」


 オロスが頷いた時、待ちに待った報告が入ってきた。ただし、インド洋艦隊司令部のまったく想定外の場所から。


「――なに、マダガスカル島に日本軍だと!?」

「はっ、ディエゴ・スアレス港がやられ、輸送艦とその護衛艦艇が壊滅しました。敵は三百を超える大編隊で襲来。近隣飛行場と迎撃に上がった戦闘機は壊滅しました」


 まさしく、奇襲であった。日本艦隊――主力戦闘群はマダガスカル島の北方に転移すると、第七艦隊の哨戒空母『真鶴』の先導に従い、攻撃隊を発進。

 第一機動艦隊から飛び立った攻撃隊は、マダガスカル島北のディエゴ・スアレス港を襲撃。迎撃に出てきたヴォンヴィクス、エントマ戦闘機を数で圧倒し、飛行場や軍施設を火の海にした。


 アヴラタワーを叩かれ、燃料タンクを破壊されたとあれば、その拠点としての機能の復旧には、かなり時間がかかる。

 確認した情報参謀の報告に、オロスはテルモンを見た。


「これは何を意味するのか。日本軍は、我が艦隊を阻止するつもりではないのか?」


 何故、後方も後方、直接戦闘に影響しないマダガスカル島を日本軍が空襲するのか、理解できない。


「マダガスカル島を叩けば、我々が引き返すとでも思っているのか?」

「敵の真意が読めません」


 テルモンは認めた。


「後方拠点がやられ、のちに続くはずだった補給が途絶えた場合、以後の継戦に影響が出る恐れはありますが……。我が艦隊が引き返すことはあり得ません」

「そうだ。我々は、大陸で奮闘する陸軍のために、物資を運んでいるのだ」


 オロスは断言した。


「陸軍に補給が届けば、大陸の戦いは我が方に傾く。艦隊にしても、セイロン島を落とせば、燃料や物資の補充もできて、しばらく保たせることはできよう」


 引き返す理由がない。


「まったく意味がないことはないだろうが、影響は最小限だ。だからこそ、この日本軍の攻撃は不可解である」


 転移があればこその、こちらの想定の外での攻撃だっただろうが、インド洋艦隊が、陸軍への物資輸送が任務であることを考えれば、日本軍は爆弾と燃料を浪費しただけではないのか。


「どのような理由があったにせよ。我々がセイロン島に迫れば、彼らもマダガスカルから転移で戻ってくるでしょう」


 テルモンは眉間にしわを寄せたまま言った。


「そこで叩ければ、同じことです」

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