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復活の艦隊 異世界大戦1942  作者: 柊遊馬


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第五〇五話、詰める者、詰められる者


 北方に出した襲撃部隊が、日本軍の航空攻撃を受けて、戦力半壊。その後、音信不通となった。

 ムンドゥス帝国インド洋艦隊、総旗艦『プロートン』。オロス大将は海図を眺め、口を開いた。


「どう思う、参謀長?」

「敵の奇襲攻撃隊でしょう」


 テルモン参謀長は、きっぱりと告げた。


「待ち伏せするつもりが、敵に先に発見されてしまったようですが、近くに奇襲攻撃隊を送り出す母艦群がいると思われます。第一群を攻撃した連中かもしれません」

「北だったな」


 オロスは頷いた。


「もう一隊がおそらく東。そしてこの北と東の間に、敵の主力艦隊」

「間もなく敵主力艦隊が、我が航空隊の攻撃可能範囲に入ります」


 航空参謀が背筋を伸ばした。


「攻撃隊は出されますか?」

「少し待て」


 オロスは、テルモンは見た。


「今、攻撃隊を出したら、敵は転移で逃げるだろうか?」

「まだこちらは空母が半分以上残っていますから、こちらから攻撃を仕掛ければ、おそらく回避しようとするでしょう」


 何故か? まともに防空戦闘をやれば、どう上手くやっても損害を免れないからだ。いかに多数の戦闘機を繰り出そうとも、激しい対空砲火で迎え撃とうとも、無傷で切り抜けるのは難しい。

 とくに空母は飛行甲板がやられれば、以後の運用に支障をきたす。それを回避する最善の手は、攻撃を受けないことなのだ。


 転移で艦隊の場所を変えれば、こちらの攻撃隊を空振りさせて、攻撃を受けることがない。そして自分たちは、鬼の居ぬ間に攻撃隊を放って、こちらの艦隊を攻撃するだろう。


「北方の襲撃部隊がやられたのは誤算ですが、逆に言えば、そちらに敵は転移しないでしょう」


 インド洋艦隊が、やられた部隊の近辺に日本軍がいるとふんで積極的な偵察機を出してくると、彼らは考えるからだ。そんなところに艦隊を転移させれば、せっかく煙に巻いたのにすぐ発見されてしまって意味がない。


「敵は転移して逃げますが、彼らの艦載機の攻撃範囲内に我が主力艦隊が捉えられる位置に現れるしょう。正直、どの辺りか予想は困難ですが、配置した各襲撃部隊のどれかが近くにあるはずです」

「では、仕掛けてもよいな?」

「はい。予定通りに」

「よろしい」


 オロスは、航空参謀を見やる。


「では、計画案に乗っ取り、敵主力艦隊に攻撃隊を出せ」

「はっ!」


 航空参謀が敬礼をし、艦隊は動き出す。オロスは続けた。


「攻撃隊の発艦である。このタイミングでの敵の襲撃を警戒。浮遊戦闘機隊、全機発進。敵奇襲攻撃隊の第二次攻撃に備えよ」


 インド洋艦隊、第二群、第四群、第三群残存空母から、攻撃隊の発進準備が進められる。

 その間、空母の近くに配置されている支援輸送艦の甲板が開いて、スクリキ浮遊戦闘機が垂直に次々に射出された。


 それはあっという間に空母戦隊、艦隊上空を埋める勢いで広がった。その数、各群300機ほど。小型浮遊戦闘機は、艦隊上空を渦のように旋回し、奇襲攻撃隊の接近の妨害、照準阻害を開始する。


 艦隊に戦闘機の傘がかかった中、各空母では順に攻撃隊が発進を開始する。ヴォンヴィクス戦闘機を中心に、一部ミガ攻撃機が加わり、第二群、第四群から300機ずつ。第三群から200機が飛び立ち、およそ800機が第一次攻撃隊として、日本軍主力艦隊へと向かうのだった。



  ・  ・  ・



 連合艦隊旗艦『敷島』。

 敵艦隊に張りつけた彩雲偵察機の報告により、異世界帝国インド洋艦隊から攻撃隊が出撃したのは掴んだ。

 連合艦隊司令部では、次の行動について議論が巻き起こっていた。


「敵は、こちらの転移退避に備えています」


 樋端航空参謀は、中島情報参謀と顔を見合わせた。


「各転移巡洋艦から、敵の潜水警戒部隊が、こちらの転移予定海域もしくはその近辺におり、こちらが転移すれば早々に発見されることが予想されます」

「敵は、こちらの転移のカラクリに気づいたのか……?」


 山本 五十六連合艦隊司令長官は眉間にしわを寄せた。敵の小艦隊が、転移巡洋艦の行き先に張っているというのは、つまりそういうことではないか?


「どういう仕組みで転移しているのか、それが敵にバレたのかは不明です。ただ、現状、予定海域からズレた場所に転移してしまうことになり、場合によっては第一機動艦隊の攻撃隊の発艦タイミングなどにもズレが生じる可能性があります」


 樋端が事務的に続けた。


「また、敵の警戒部隊が襲撃してくる可能性も高い。無理に転移を強行すれば、転移艦が攻撃され、移動に失敗する恐れがあります」


 中途半端に戦力を送ったところで、転移中断となるのは、以後の集結の手間を増やすだけになることも考えられた。

 草鹿参謀長は口を開く。


「しかし、転移で位置を変えなければ、主力戦闘群は、約800機の敵攻撃隊の空襲にさらされることになります。海氷空母を前衛に出すとはいえ、護衛艦艇を含めて、被害は避けられません」

「……いっそ、セイロン島辺りまで引いてしまってもいいかもしれないな」


 ポツリ、と山本は言った。参謀たちは目を剥いた。渡辺戦務参謀が呆気にとられる。


「それは、退却ですか……?」

「いや、あくまで敵攻撃隊をやり過ごすためだ。どの道、奇襲攻撃群が、敵主力艦隊に突入するための転移艦を前進させたなら、我が主力戦闘群も、転移で敵に突っ込み、ひと暴れできる」


 おおっ、と参謀たちから声を上げた。逃げるように見えて、実際は逆に最前線に殴り込みをかけようと考える山本の胆力に感心する。


「もっとも、時間稼ぎのための転移なら、セイロン島でなくてもいいな。……いや、ちょっと待て」


 山本は、思いついた。閃きと言ってもよいかもしれない。


「敵インド洋艦隊の拠点であるマダガスカル島近くに、転移艦はないか? 今ガラ空きのマダガスカル島の軍港や施設を攻撃したなら、敵艦隊はどうなるだろうかね……」


 悪戯っ子のような笑みを浮かべる山本である。

 セイロン島とカルカッタ方面の攻略を目指す異世界帝国にとって、補給が行き交うことになるだろう拠点のマダガスカル島を叩かれたら、彼らの予定を大いに狂わせることができるのではないか?

 草鹿参謀長は慎重だった。


「大胆過ぎる案ですが……。マダガスカル島近辺に、我が方の転移艦はあったでしょうか……?」


 なければ、ただの絵に描いた餅である。

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