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第四九九話、巨大戦艦を追撃す


 異世界帝国のインド洋艦隊が、セイロン島へ向かい、連合艦隊主力もインド洋に駆けつけた頃、日本海軍南東方面艦隊は、とある作戦を実行していた。

 南海艦隊旗艦だったメギストス級戦艦『アペイロン』の追撃である。


 戦闘に支障ありということで、戦線離脱した大戦艦は、フロリダ島沖海戦に参加しなかったため撃沈を免れた。


 今は、味方陣営の港への移動の最中である。航行自体に支障はなく、また損害の程度も比較的軽いため、この方面に睨みを利かすことになる南東方面艦隊司令部としては、今のうちに何とかしておきたい敵であった。


 第十五航空戦隊の哨戒空母『龍飛』の彩雲改偵察機は、交代で『アペイロン』に張り付き、その位置情報を報告し続けた。

 現在、『アペイロン』は護衛の駆逐艦2隻を従えて、シドニーに向かって航行していた。



  ・  ・  ・



 メギストス級戦艦は、地球勢力との開戦時に世界最大の戦艦だった。

 基準排水量6万9000トン、全長290メートルの巨体は、日本が就役させたばかりの大和型をも上回っていた。


 主砲口径こそ50口径43センチ砲だったが、長砲身であること、四連装砲四基十六門で砲門数も圧倒していることから、大和型とも互角以上に渡り合える火力を有していた。事実、初顔合わせの第一次トラック沖海戦では、『大和』と撃ち合い、撃退に成功している。


 その後の戦い以降は、『大和』にリベンジされたが、依然として強力な戦艦であることには変わりない。

 より新型や改良型が建造されてはいるが、いまだ多くの地球製戦艦を性能で圧倒している。


 メギストス級戦艦三番艦『アペイロン』の艦長であるマルゴス少将は、フロリダ島の海戦に参加できなかったことを非常に残念に思っていた。


 南海艦隊旗艦として日本海軍と戦い、これを撃破する――意気込みは他の南海艦隊将兵ともども高かった。だが日本海軍航空機の奇襲により、それは叶わなかった。

 いかに堅牢な大艦であろうとも、目や耳が傷ついていては本領を発揮することは難しい。


 戦線離脱を余儀なくされるまでマルゴス艦長は、戦闘でもっともしぶとい戦艦として、メギストス級は最後まで戦うものだと思い込んでいた。

 だが現実にはレーダーや通信設備、射撃管制システムをやられたことで、活躍の機会が奪われた。


 強固な装甲は一発も撃ち抜かれていない。機関に異常はなく、主砲十六門も健在だ。にも関わらず、戦えないとは……。


 マルゴスや、『アペイロン』クルーの落胆は大きい。被弾した装置は、故障であれば応急修理で対処もできただろうが、破壊されたことで完全復旧は前線では無理であった。


 できれば早く復帰したい、と味方テリトリーを目指した『アペイロン』だが、最短ルートのゲートはそもそも破壊され、では最寄りの拠点があったエスピリトゥサント島を目指せば、そこは日本機動部隊の空襲で現在放置。


 エファテ島、ニューカレドニア島もまた同様だ。日本海軍は基地、港、そしてアヴラタワーを破壊したことで、異世界帝国軍の復旧作業は進んでいない。

 オーストラリアのブリスベン、タウンズビルもまた日本軍の空襲で、現在復旧を行っている最中だった結果、『アペイロン』はシドニーにまで足を伸ばすことになったのだ。


「こうまで来ると、こちらの島々を先んじて叩いたのは、『アペイロン』を早々に復帰させないためにも思える」


 マルゴス艦長は独りごちた。

 修理が前線に近い拠点でできず、より後方にまで移動しなくてはならないということは、それだけ復帰までにかかる時間が増えるということだ。


 ニューカレドニアやブリスベンを日本軍が空襲したのは、『アペイロン』に修理の機会を与えず、前線から遠ざけるための布石だったのでは、と穿った思いを描かせた。少々、被害妄想もあるが、全てが裏目に出ているようにマルゴスは感じていたのである。


『随伴、駆逐艦に給油完了!』


 護衛のエリヤ級駆逐艦が1隻、『アペイロン』との並走を解いた。メギストス級の航続距離ならば、シドニーまで問題ないが、駆逐艦の燃料は少々心もとない。護衛位置の変更で速度の増減をそこそこ行っていて、その分燃料の減りも早い。2隻いるので、常に1隻が潜水艦の襲撃に対応できるようになってはいるが、やはり洋上給油中は緊張を強いられる。


 幸い、日本軍による襲撃はここまでなかった。ソロモン諸島での戦いに全力を投入していただろうから、こちらに戦力を回す余裕がないのだろう。『アペイロン』は戦場から遠ざかっていくばかりだから、その危険度は時間と共に下がってはいる。


 油断していたわけではないが……いや、無意識のうちに警戒を解いていたのかもしれない。

 それが眼前に現れた時も、何事かと声も上げずに注目してしまったから。


 波の間から飛沫をあげて何かが、『アペイロン』の左舷艦首近くに現れた。潜水艦が浮上するかのようなそれは、いきなりで、聴音室からもまったく知らせがなかった。――それもそのはず、重力バラストによる無音浮上、無音潜航は、音をまったく出さないのである。


 無警告で現れたそれを、マルゴスほかクルーたちは見てしまう。

 最初は島が浮上した、などという非現実的な思いにとらわれた。波が『アペイロン』の艦首甲板を洗う。浮上したのは学校の運動場を思わす真っ平らで――


「?」


 まるで空母の飛行甲板のようだった。小さな艦橋があって、その甲板に人型をした人ではない何かがいくつも現れて――


『左舷に未確認の空母らしきもの!』


 見張り員がようやく現実に引き戻されたように報告を寄越した。味方の潜水特務艦ではない。それならば事前に報告するか、距離ととったところで浮上するものだ。それをやらず誤射されても文句は言えないからだ。


 実際、命令はないものの対空銃座にいた者、高角砲の操作クルーたちは、突発的自体にすぐに反応した。正体がはっきりしないが現れた以上、敵かもしれない。日頃の訓練の成果を発揮してすぐに稼働状態になったが、すでに遅かった。


 空母らしきものの甲板から、人型が常人のそれとは思えないほどの大跳躍で、『アペイロン』の甲板に飛び移ってきたのだ。

 何が何だかわからなかった。マルゴス艦長も一瞬呆気にとられ、しかし理解が追いつかないまでも声を張り上げた。


「艦長から全員へ! 敵と思われる兵が甲板に飛び乗った! 敵の切り込みだ! 白兵よーい!」


 マルゴスも、自分が言っていることが正しいのかわからないまま指示を出していた。


 ――敵が船に直接乗り込んでくる? 大昔の海戦や陸戦でもあるまいし、艦の上で白兵戦だと? 正気か……?


 陸軍が使用している装甲歩兵に酷似したそれは、ひょっとしたらたちの悪い悪戯ではないかとさえ思えてきた。だとしたら陸軍に厳重抗議せねば――などと的外れな思考がよぎった時、『アペイロン』に上陸してきたそれらは何かしらの装置を甲板に撃ち込んだ。手にした機関銃で甲板上を威圧していたそれらだが、次の瞬間、景色が変わり、地震にも似たズガーンとした衝撃が、『アペイロン』を襲った。

 マルゴスは転倒し、他のクルーたちも壁や床に叩きつけられた。


「な、何がいったい……? くそっ、ダメージリポート!」


 大きな衝撃だった。もしかしたら攻撃を食らったかもしれない。しかも船体が傾いている。マルゴスは立ち上がるが、窓の外の景色を見て絶句する。


「こ、ここは、どこだ!?」


 海はなかった。周りには山があって、どこかの岩場らしい場所に『アペイロン』は乗り上げているようだった。


 これは夢なのか? わけがわからいうちにメギストス級戦艦が陸地に打ち上げられていた。海をかくスクリューも空回りするばかりであろうことは想像がつく。

 完全に身動きできなくなった。

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