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第四九六話、逃げる旗艦級戦艦


 ソロモン作戦を終えて、連合艦隊主力は転移にて内地に帰還し、補給と再編成を行った。


 第一機動艦隊では、健在だった巡洋艦戦力を引き抜き、前衛を務める艦隊の穴を埋めるべく、配置転換が行われた。現状、空母と防空艦艇中心の、完全航空部隊化である。

 そんな中、南東方面艦隊参謀長である富岡 定俊(さだとし)少将が、第一機動艦隊参謀長であり同期の神明少将を訪ねた。


「忙しいところ済まないね、神明」

「お互いにな。ただの雑談というわけではないのだろう? 用件を伺おうか」


 神明は淡々と言った。第一機動艦隊は、インド洋作戦のために出撃準備にかかっているし、富岡の南東方面艦隊も、南太平洋の異世界帝国に睨みを利かせなくてはならない。


「実は、フロリダ沖海戦の前に、敵の旗艦級戦艦が、わずかな護衛と共に戦線離脱をしたんだが……」


 富岡の言葉に、神明はとある報告書の一面を思い出した。


「ああ、ゲートを破壊した鳳翔攻撃隊が、敵旗艦に一撃を与えたというやつだな」


 南海艦隊の旗艦を務めていたメギストス級超弩級戦艦――『アペイロン』は、連合艦隊との決戦の直前に、突如現れた烈風改戦闘攻撃機によって艦橋への攻撃を受けた。艦の航行に支障はないが、戦闘力に大きなダメージを受けて、戦場から姿を消した。


「それが、どうかしたか?」

「うん、いま、その旗艦級戦艦が、オーストラリア方面に移動している」


 富岡は答えた。


「南東方面艦隊としては、ろくな護衛もついていないこの戦艦を今のうちに始末してしまうべきだと考えた」

「……確かに43センチ砲戦艦が、うろうろしているのは目障りだな」


 南東方面艦隊に所属する第八艦隊も、戦艦はあるが41センチ砲戦艦が2隻。戦闘力が減じている状態とはいえ、まともな砲撃戦をやってラッキーパンチを食らって返り討ちは洒落にならない。

 では航空攻撃で、となるが……。


「弾薬補充の優先は、インド洋に展開する艦隊だからね。こちらも爆弾や砲弾の使いどころは熟考せねばならない」

「そうだな」


 富岡が訪ねてきた理由が見えてきた神明である。


「つまり、始末はしたいが、どう効率良く始末しようか、その手段について相談に来たんだな?」

「そういうことだね」


 富岡は頷いた。


「第八艦隊には奇襲攻撃隊はないし、第十一航空艦隊も少数しかない。しかし肝心の障壁貫通兵器は、先にも言ったがインド洋に行く艦隊が優先だ。通常弾頭で、まともに沈めにかかったら、以後の戦闘に支障が出るほど消耗する可能性が高い」


 だが放置するのも勿体ない大物ではある。ジレンマだ。


「魔技研の試作兵器でもいいから、何かこうないだろうか?」


 そんな都合のいい兵器があれば苦労はしない。神明は思ったが、口には出さなかった。だが何を使えば、メギストス級を処理できるか考える。


「戦艦『諏方』を使えば、簡単なんだがな」


 アルパガス級戦艦の日本海軍版。防御障壁を貫通する主砲に加え、遮蔽装置もあるから、こっそり近づいて奇襲し、その戦闘力を奪い、撃沈に追い込むのも難しくない。


「しかし、『諏方』は、インド洋で使うだろう?」


 富岡は指摘した。


「とても借りられる余裕はないと思うが?」

「……『鳳翔』を使おう」


 神明は思いついた。メモを取り出し、万年筆を走らせる。


「『鳳翔』だって?」


 予想外だったのだろう。富岡は眉をピクリと動かした。神明は思いつきを書き上げる。


「潜水空母に改装された『鳳翔』は、特殊作戦用で格納庫には航空機以外を載せられるし、転移甲板で格納庫のそれを飛行甲板に瞬時に移動させられる」


 必要なのは荷物運びとして『鳳翔』。前線組み立て型の転移中継装置と、稲妻師団の装甲機動歩兵。


「装機兵は6機もいればいいだろう。手順はこうだ――」


 潜水状態の『鳳翔』が、敵戦艦の針路上で待ち伏せし、敵が至近距離まで近づいたら浮上。飛行甲板に、装甲機動歩兵部隊を転移で出して、それらが敵戦艦の甲板に飛び乗る。そこで組み立て型転移中継装置を設置し、装置を作動させる。


「転移先は、どこかの無人島とか、とにかく陸地だな。転移した敵戦艦は浜に打ち上げられた鯨の如く、身動きできなくなる。あとは転移装置を取り外して部隊は撤収すればいい」


 陸地のど真ん中に乗り上げ、身動きできないメギストス級戦艦など、もはや敵にあらず。異世界帝国側も、その状態の戦艦を回収することはできないだろう。乗員も手の打ちようがない。これならば弾薬を消耗せず、敵戦艦の無力化が可能な策だ。


「無茶苦茶だな……。こんな作戦、前代未聞だぞ」

「それはそうだろう。だが、やってできなくない」


 神明は平然とした顔で告げた。富岡も、南東方面艦隊に所属する者として、転移中継装置を使った基地支援部隊の移動や、装甲機動歩兵部隊の話は聞いている。だが神明ほど詳しくはない。


「敵艦に乗り移ると言うが、防御障壁がある場合は? 乗り込めないだろう?」

「信管を抜いた浮遊機雷に装機兵をくっつけて流す。スピード差がなくなれば、障壁の内側へ入ることができるから、装機兵はそれで敵艦に取り付かせる。転移中継装置は、稲妻師団に転移魔法の使い手がいたはずだ。その者に敵の甲板まで転移させよう。短距離転移なら問題ないはずだ」

「……」


 富岡はじっと神明を見る。次善の策もある。とりあえずの懸念が解消されたことで、彼が言ったものが揃えば、できてしまうのではないかと思えた。


「君の頭の中はいったいどうなっているんだ? 普段からこんなことを考えているのか?」

「技術のことを考えてはいるが、今のは思いつきだ。細部を詰めれば粗も出てくるだろう。だがその辺りを解決できるなら、やってできないことはない」

「……取り急ぎまとめる必要があるな」


 移動しているメギストス級戦艦が、南東方面艦隊が手の出せない位置に辿り着いてしまえば、意味はない。



  ・  ・  ・



 ラバウルに拠点を置いた南東方面艦隊司令部に戻った富岡は、早速、上官である草鹿 仁一中将に、メギストス級戦艦転移作戦について報告した。


 必要装備と、作戦のために払うコストを比較した結果、通常攻撃よりも手間も資材も抑えられると判断した草鹿は、作戦を承認。いまだ南東方面艦隊の指揮下にある稲妻師団に作戦を告げ、実行の運びとなった。


 ソロモン作戦で、ゲート破壊に貢献した潜水空母『鳳翔』は、インド洋作戦にも参加予定がなかったため内地にあったところ、急遽作戦に加えられ、南太平洋にトンボ返りとなる。


 九十一潜水隊の参謀で、この作戦の説明を受けた諏訪(すわ)将治(まさはる)中佐や、稲妻師団から派遣された特殊部隊『(うつつ)』の遠木 迅中佐は、この配置と部隊の指名を見て、かの神明参謀長が立案もしくは深く関わっていることを、感じ取った。


 ここまでまだ実戦での運用経験に乏しい未知の兵器なのに、性能をフルに活かさないと実現不可能なラインのギリギリを攻めた作戦案を、これらの兵器の知識に乏しい一般の海軍軍人が思いつくわけがないのだ。


 だから現場からすれば、無茶を仰ると愚痴りたくなるものの、上手くやれなければ現場が悪いと言える程度には成功する可能性のあるギリギリの命令に、苦笑せざるを得なかったのである。

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