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第四九三話、テシスの悪戯


 日本軍は南方作戦にて、東南アジアを制圧する異世界帝国軍と戦い、解放した。


 現地住人は異世界人によって連れ去られ、同地を植民地としていた欧州各国から日本は管理を委任された。


 戦争継続に必要な石油や資源の獲得と開拓を行った日本。海軍は燃料廠をボルネオ島のバリクパパンに置き、陸軍はシンガポールに南方燃料廠を設置した。

 そんなシンガポールの南8キロにあるサンボ島には、陸軍のガソリン・タンク群があったのだが、ここを異世界帝国は襲撃した。


 紫星艦隊旗艦、超戦艦『ギガーコス』。ヴォルク・テシス大将の艦である。

 撤退を命じた紫星艦隊本隊は、テシスの言いつけ通り、戦闘を避けて東南アジアから離脱を図った。


 しかし、どこをどうヘマをしたのか、紫星艦隊は、現地に配備された艦隊と交戦となり撃滅されてしまった。

 艦隊を離脱させる一方、日本軍の拠点を攻撃することで、その注意を向けさせるつもりだったテシス大将だったが、それが実現する前に艦隊は潰されてしまった。

 これは痛恨の極みである。


「……」


 だが、それで引き下がるムンドゥス帝国の猛将ではなかった。彼は自身の組み立てた計画を実行し、日本軍へ報復へ出たのだ。


「シンガポールの目と鼻の先で、戦艦が堂々と乗り込む。……彼らにとっては、さぞ面白くないだろうね」


 テシスは獰猛な笑みを浮かべた。

 彼の預かる超戦艦『ギガーコス』は、地球に派遣されたムンドゥス帝国軍艦で最大の巨艦である。


 基準排水量13万トン。全長は350メートルと、それまで最大だったプロトボロス級航空戦艦よりも大きい。


 その主砲は、帝国最大の50センチ連装砲を四基八門。さらにシールド突破兵器であるルクス三連砲である20センチ連装副砲を八基十六門を備える。収束熱線砲ほか、高角砲、光弾砲を多数備え、少数だが航空機の運用も可能。


 ムンドゥス帝国が送り出した新型超々弩級戦艦である。


「ガソリン・タンクを破壊するのに、50センチ砲は、少々過剰な火力かもしれないがね」


 超戦艦『ギガーコス』の鉄槌が、日本陸軍のガソリン・タンク群を破壊。やることを終えると、巨艦は西進し、マレー半島とスマトラ島の間、マラッカ海峡へと向かう。

 同時に少数の艦載機であるシュピーラド偵察戦闘機を3機、発艦させる。1機はパレンバンに、1機はリンガ泊地へ、もう1機はセレターへ飛ばした。


 結果、パレンバン第一製油所、そしてセレター軍港が見えない幽霊戦闘機の襲撃を受け、リンガ泊地に駐留していた東南アジア派遣囮艦隊もまた、遮蔽で姿を隠した航空機からの攻撃にさらされた。


 狙われたのは、旗艦である敷島型航空戦艦二番艦の『出雲』である。電探にも目視にも引っかからないシュピーラドは、『出雲』の艦橋にロケット弾と光弾砲を叩き込んだ。攻撃は正確に、第一艦橋、第二艦橋に命中し、そこにいた幹部たちをなぎ倒した。


 突然の爆発に、それが襲撃と気づけたのは、囮艦隊の乗員のおよそ半数。残り半数は、事故か、目の前で何が起きたのか見定めるために行動が止まった。


 この違いは、潜伏していた敵艦がまだいたのでは、と考えた者と、敵はもう去ったのではないかと考えた者の差だった。


 前者が艦長を務める艦は、すぐに防御障壁の展開を命じた。後者だった艦長も、各戦隊指揮官からの命令を受けて、慌てて障壁を起動させた。

 遮蔽装置付きの敵機が潜んでいると、対応能力者を載せた偵察機の発進命令が出されるが、もはや後の祭りだった。

 旗艦を襲撃したシュピーラドは、帰り際に通りかかった泊地施設を攻撃して、さっさと離脱したのである。


 サンボ島のガソリン・タンク群、パレンバンの製油所、セレター軍港を相次いで襲撃されたことは、内地の陸軍省、海軍省を激怒させた。

 現れた敵の超戦艦は、大胆不敵にも、入ればほぼ袋のねずみであるマラッカ海峡へ向かっていた。


 バリクパパンにて補給中だった第九艦隊に、ただちに単艦でうろつく敵戦艦撃沈命令が軍令部を通して発令された。


 陸軍としては、散々南方の防備の強化を要請した上での襲撃。海軍省、軍令部としてはそんな陸軍の要請を聞いた上での失態ゆえ、何としてもこの敵を沈めねば、怒りが収まらないというところであった。



  ・  ・  ・



「さて、厄介なことになった」


 第九艦隊司令長官、新堂 儀一中将は、旗艦である大型巡洋艦『妙義』の艦橋にいた。

 燃料の補給はほぼ終わり、一部の特殊装備を除いて弾薬の補充も済んだ矢先であったが、第九艦隊はただちにバリクパパンを出撃。転移連絡網を用いて、マラッカ海峡の北西側――敵からすれば出口にあたる場所に、転移し先回りした。



○第九艦隊:司令長官、新堂 儀一中将


 第三十六戦隊:(大型巡洋艦):「妙義」「生駒」

 第八十一戦隊:(戦艦)   :「信濃」「諏方」

 第八十二戦隊:(重巡洋艦) :「標津(しべつ)」「皆子(みなご)

 第八十三戦隊:(転移巡洋艦):「夕張」「青島」

 第八十四戦隊:(特務巡洋艦):「足尾」「八溝」「静浦」


 第九航空戦隊 :(空母):「翔竜」「龍驤」

 第十九航空戦隊:(空母):「神鷹」「角鷹」


 第十水雷戦隊  :(軽巡洋艦)「鈴鹿」

  第六十七駆逐隊:「鱗雲」「朧雲」「霧雲」「畝雲」

  第八十八駆逐隊:「白菊」「千草」「若草」「夏草」

  第九十一駆逐隊:「妙風」「里風」「村風」「冬風」



 水上機母艦『千歳』と1個駆逐隊が所属から外れた以外は、ほぼ戦力は変わっていない。戦艦『信濃』『諏方』は健在だ。


「敵は1隻のみらしいが……」

「他にも遮蔽で隠れている可能性がありますね」


 倉橋 清二郎参謀長は告げた。


「新型の戦艦1隻のみで単独航行は、さすがに考え難いです」

「我々の手におえる相手だといいのだがな」


 嫌な予感がする新堂である。幸い、マラッカ海峡は全長約900キロほどだが、幅は65キロから70キロであり、細長いが狭く、また水深も浅めだ。岩礁や浅瀬も多く、潮の流れも強いため、大型艦の通過可能なルートは限られる。ゆえに、待ち伏せしやすい。


「敵が遮蔽で姿を隠すと、少々面倒になるが……」

「能力者を載せた偵察機で見てもらいましょう」


 安村航空参謀は発言した。


「比較的狭い海峡ですから、たとえ遮蔽に隠れても発見しやすいはずです」


 それはそうである。が、新堂の懸念もある。それは、じきに夜となることだ。

 遮蔽でも見える能力者はともかく、電探が効かない相手との夜戦となると、夜間視力の補正があるとはいえ、開戦前の熟練の見張り員がほとんどいない現状では少々面倒である。

・ギガーコス級超弩級戦艦:『ギガーコス』

基準排水量:13万1000トン

全長:350メートル

全幅:51.6メートル

出力:30万馬力

速力:30.6ノット

兵装:45口径50センチ連装砲×4 50口径20センチ連装ルクス三連砲×8

   13センチ高角砲×16 8センチ光弾砲×24 20ミリ機銃×48

   収束熱線砲×1

航空兵装:カタパルト×2 艦載機×8

姉妹艦:

その他:ムンドゥス帝国の新型超弩級戦艦。帝国最大の50センチ砲を搭載、副砲はルクス砲と、強力な武装を装備する。船体もこれまでの戦艦を上回る大戦艦。

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