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第四九二話、フロリダ島沖海戦の決着


 南海艦隊の悪足掻きは、連合艦隊を苦しめた。

 それまで被害を最小にすべく立ち回っていた日本海軍に対して、乱戦を利用しての体当たり自爆は、一種独特の空気を兵たちにもたらした。


 普通は衝突を嫌って、敵味方であろうとも回避を選ぶものだ。そうした船乗りの心理を飛び越えて、むしろ当たりにくる異世界人。


 満身創痍ながら、最後に一矢報いようとする、というのはまだ理解はできる。だが最初から突っ込んでくる勢いで突進してくるのは何なのか?

 命を惜しまない敵の行動は、一部の兵をゾッとさせた。だが大半の日本艦艇艦長や将兵たちは、逆ギレにも似た憤怒の感情を抱いた。


 まだ戦闘可能な状態で、初っ端から体当たりしてくるな。艦長たちの心理として、ある種の、勿体ない精神の発露もあれば、自分の艦艇を守らなければいけないという艦長心理の真逆の行為にさらされたことに怒りを感じ、あるいは敵の無茶苦茶な操艦に「この下手クソが!」と罵声を漏らした者もいた。


 防御障壁によって、衝突を回避できた艦もあった。だが直後の破れかぶれな猛撃で障壁を抜かれて、乱打戦になる艦も続出した。

 しかし艦艇数の差は、連合艦隊の優勢を崩すには至らなかった。だが順当に戦っていれば、そこまでやられなかった艦艇が多かったのも事実だ。この点だけは、南海艦隊の執念の嫌がらせは成功したと言える。


 ムンドゥス帝国南海艦隊旗艦『エクリクシス』は、第一艦隊第三戦隊の旗艦である『土佐』へ距離を詰めての近接砲撃戦を挑んだが、僚艦の『天城』、第一戦隊の『遠江』『播磨』の砲撃を浴びて、艦首砲塔の弾薬庫が誘爆、大爆発を起こした。


 司令長官、ロウバート・ケイモン大将以下、南海艦隊司令部も旗艦と運命を共にした。



  ・  ・  ・



 敵艦隊は壊滅した。

 連合艦隊司令長官、山本 五十六大将は、海上に集結しつつある艦隊の姿を見て、複雑な表情だった。


 旗艦『敷島』には、次々と報告が集まってくる。

 艦隊集結により、残存艦の数や被害報告、離脱し退避した艦艇、敵残存戦力の捜索について、詳細が伝わる。


 現在判明している損害は、沈没艦は軽巡洋艦や駆逐艦に多いが、戦艦、重巡洋艦も損傷、中破ないし大破艦も出ている。

 被害の多くは、前衛として戦った第一艦隊、第二機動艦隊水上打撃部隊、第一〇艦隊に出た。


 第一艦隊では、戦艦『長門』『紀伊』『周防』が中破、『肥前』が大破した。重巡洋艦も、前哨戦ともいうべき水雷艇相手に7隻が脱落していたが、フロリダ島での戦いでは、『笠置』が体当たりで沈没。『身延』も損傷したことで、第十三戦隊は、稼働艦がいなくなった。

 軽巡洋艦は前哨戦で『揖斐』、決戦で『天塩』『小矢部』が沈没。駆逐艦は6隻沈没、2隻中破だった。


 二機艦水上部隊の損害は、自動戦艦である『美濃』が、敵潜水駆逐艦の近接体当たりにより損傷。

 巡洋艦では『水無瀬』『神通』『阿武隈』が損傷ないし中破。駆逐艦は8隻を失った。


 第一〇艦隊は、敵の突撃を潜水で回避しようとした重巡『阿寒』がマストと艦構造物の上部を破壊されて大破。乱打戦により、他『三国』『七面』が損傷。軽巡『阿仁』『巴波』も被弾、中破したが、沈没自体は、前哨戦の敵潜水艦部隊との水中交戦で、潜水艦『呂532』『呂535』『呂541』の三隻に留まっている。特殊砲撃艦は全艦健在だ。


 他は艦隊戦に巻き込まれなかったが、重爆の攻撃で、連合艦隊直率部隊では、囮の海氷空母1隻沈没、2隻が損傷。第一機動艦隊では、『大鳳』『鎧龍』が被弾、修理が必要なダメージを受けた。


 幸い、後衛配置の艦隊は空母以外に攻撃を受けることなく健在で、第六、第八艦隊にも損傷らしい損傷はなかった。


「ソロモン諸島の制海権は、ほぼ我が軍が手にしました」


 草鹿 龍之介参謀長は普段通りの調子で告げた。


「敵艦隊は撃滅。敵の残存艦艇の捜索は続いていますが、残っていてもわずかだと思われます」

「……うむ」


 山本の頷きは重かった。


「どう思うね、草鹿君。君の所感は」

「アラビア海海戦のような圧倒的勝利とまでは行きませんが、同程度の規模を相手に勝利したのは間違いなく、またよく損害を抑えた、と考えます」

「……」

「しかし、もう少し、上手く立ち回れたなら、ある程度損害を低くできたのではないか、と悔いが残ります。もちろん、最善は尽くしたと思いますが」

「最後で、盤面を掻き回された」


 山本が自嘲する。


「草鹿君の言うとおり、皆は最善を尽くした。それでも、何とかできたのではないか、と思わずにはいられない」


 確かに、ソロモン諸島を巡る戦いは勝てた。だがこれは、予定された戦いの前半戦に過ぎない。後半戦――連合艦隊の主力は、素早く補給と再編を済ませて、インド洋へ向かわねばならないのだ。


「損傷艦は、参加できないと見て違いない。弾薬の補充だが、今回の大海戦で相当使いこんだだろう」

「もう一、二戦する分くらいは残っているでしょうが、内地の弾薬備蓄でどこまで補給できるか……」

「第一機動艦隊の航空隊が、こちらに向かってきていた輸送艦隊を片付けてくれたおかげで、艦隊の弾薬消費を多少抑えられましたが……」


 渡辺戦務参謀が苦笑した。


「もし、この輸送艦隊の処理を艦艇でやっていたら、さらに弾不足になっていましたな」


 非力で鈍足の輸送艦隊で突撃など、酷い話だと山本は思う。非戦闘船舶は逃がすのが普通だというのに。


 聞けば、一機艦の第三次攻撃隊は、爆弾を装備せず出撃し、機体の光弾機銃による掃射で輸送艦を撃破して回ったそうだ。

 明らかにインド洋での作戦に備えて、爆弾をケチったのである。日本海軍の弾薬在庫を考慮し、爆弾を使わずに済むなら使用せずに済ませる――それを徹底したのである。


「さて、今度はインド洋の戦いに集中しよう」


 山本は目線を切り替えた。マダガスカル島に集結し、セイロン島やその先へ向かうだろう敵輸送艦隊と大護衛艦隊の撃滅。これは陸軍をはじめ、軍令部もまた本命と見ている戦いだ。


「ソロモン諸島の敵を撃退したが、第八艦隊は警戒のために南東方面艦隊と共にここに残す。それ以外の艦隊は、再編と補給が済み次第、インド洋だ」


 まずは内地なり、各地の泊地や軍港に寄港せねばならない。そう話し合っている間、予想だにしていない緊急通信が、旗艦『敷島』に舞い込んだ。


「長官! シンガポールの南、サンボ島の陸軍のガソリン・タンク群が、敵戦艦の艦砲射撃を受けました!」

「なにぃ!?」


 山本と参謀たちは驚いた。


「もう敵は東南アジアからいなくなったのではなかったのか!?」

「まだ、敵が残っていたか!」


 第九艦隊が、遮蔽で潜伏していた敵艦隊を撃滅した報告は、ソロモン作戦の直前に受けていた。


 敵の残存艦か、はたまた新たに乗り込んできた敵なのか。果たして――

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