第四八九話、空と海の戦い
異世界帝国重爆撃機隊が、連合艦隊の元に到達した時、第一艦隊、第二機動艦隊水上打撃部隊ら前衛艦隊と、南海艦隊の第二列艦隊は砲撃戦に移行していた。
第一艦隊が面舵を取り、二機艦水上部隊は取り舵を取った。正面を行く南海艦隊の左右に分かれる格好だ。
この動きに対して、南海艦隊の主力戦艦群は、第一艦隊の方へと舳先を向けた。両翼の重巡、軽巡戦隊と駆逐隊による突撃を命じつつ、40.6センチ主砲を第一艦隊の戦艦群に向ける。
第一艦隊の戦艦は、旗艦『遠江』を先頭に『播磨』、第三戦隊『土佐』『天城』『紀伊』『尾張』、第四戦隊『長門』『陸奥』『薩摩』『飛騨』、第五戦隊『肥前』『周防』『相模』『越後』の単縦陣を形成していた。
先頭2隻が51センチ砲、残る12隻は41センチ砲戦艦である。
南海艦隊は、旗艦級戦艦が離脱し、残っているのはオリクト級戦艦9隻。こちらも40.6センチ主砲戦艦で固められているが、隻数、砲門数で第一艦隊に比べて劣勢だった。
だが、重巡10、軽巡20、駆逐艦20が、戦艦部隊を補助すべく第一艦隊へ前進する。
一方の第一艦隊の護衛戦力は、水雷艇による襲撃の結果、巡洋艦7、駆逐艦12隻と、明らかに突撃する南海艦隊の巡洋艦戦力に対して不利だった。
第一〇艦隊の右翼隊である志賀型重巡洋艦8隻が、ブロック戦力に加わったが、まだ不足である。
そこへ駆けつけたのは、第一機動艦隊の第二次攻撃隊である。約150機の流星艦上攻撃機が飛来し、異世界帝国軽巡洋艦戦隊に襲いかかった。
まさに横槍だった。日本巡洋艦戦隊を圧倒しようと、重巡洋艦は20.3センチ砲を、軽巡メテオーラⅡ型およびⅢ型は15センチ砲を振り向け、砲撃を開始したところを、遠距離からの対艦誘導弾が突き刺さる。
砲撃を取りやめ、防御シールドをとっさに展開できた艦は少なかった。結果、せっかくの数の優位にあった軽巡洋艦戦隊は、飛び込んできた誘導弾に貫かれて爆発。ある艦は轟沈。またある艦は大破、大傾斜した。
異世界帝国の巡洋艦ならびに駆逐艦の突撃力が一気に半減したところで、第一艦隊、第一〇艦隊巡洋艦戦隊が砲撃を繰り返す。
その後ろでは、戦艦同士の巨弾が飛び交う。
・ ・ ・
南海艦隊主力が、第一艦隊に食いついたため、角田中将の二機艦水上部隊は、戦艦ではなく敵巡洋艦・駆逐艦戦隊をぶつけられた。
数は、第一艦隊に差し向けられた重巡洋艦10、軽巡洋艦20、駆逐艦20である。
二機艦水上部隊は、戦艦8隻に、軽巡洋艦4、特殊巡洋艦6、駆逐艦30。その護衛戦力はほぼ水雷戦隊であり、残りは遠距離から対艦誘導弾を放つ特殊巡洋艦と、砲撃戦となると、やや不利な戦力となる。
とはいえ、戦艦8隻のパンチ力の前には巡洋艦は攻防ともに及ばない。これに第一〇艦隊の左翼隊である和賀型軽巡洋艦8隻の15.5センチ砲による砲撃支援も加わり、帝国巡洋艦部隊が押し切るのは難しかった。
特にプラクスⅡ級重巡洋艦戦隊は、第二、第八戦隊の戦艦から集中的に狙われ、障壁も早々に失い、撃沈されていった。近江型、常陸型、美濃型の41センチ砲弾、大和型の46センチ砲弾は、重巡級のシールドを一発で砕き、丸裸にしたのだ。
巡洋艦部隊が苦境に立たされる中、一部の軽巡と駆逐艦戦隊が高速で距離を詰めてくる。ここで、特殊巡洋艦戦隊が、対艦誘導弾を連続で放った。
二十七戦隊の『球磨』『多摩』『阿武隈』は先日の夜戦で誘導弾を一部消耗していたが、二十九戦隊の『北上』『大井』『木曽』は、一連の戦闘での初の発射となる。これらが、駆逐艦を優先して轟沈させていく一方、第七、第八水雷戦隊が切り込み、残る巡洋艦や駆逐艦を砲雷撃によって殲滅していった。
双方、激しい戦いが繰り広げられる中、ここで異世界帝国重爆撃機が、高空より仕掛けてくる。
狙われたのは、後衛部隊である連合艦隊直率と、第一機動艦隊である。当初は砲撃の最中に乱入して、シールドが欠けているところを攻撃するつもりだった。
が、想定より激しい日本海軍の反撃により、損害が大きく、また刻々と数が減っていくとあっては、余裕がなくなっていたのだ。
特に異世界帝国側は知らないが、日本本土から転移できた鎮守府航空隊の白電隊の参加が、異世界人の思惑を大いに阻んだ。
白電戦闘機に搭載された対重爆撃機用の光弾砲が、爆弾を使い切ってもなお継戦を可能にした。
マ式エンジンにより高高度でも、パライナ、オルキ重爆より優速かつ、果敢な反復攻撃が可能な白電のおかわりは、異世界帝国重爆撃機隊を切り刻んだのである。
だが、それでも完全の阻止はできなかった。日本海軍航空隊の迎撃を抜けてきた重爆隊は、一部が光線砲を使用し、残りは誘導爆弾を複数投下した。
しかし、彼らは相手を間違えた。砲撃戦を展開している日本艦隊を狙えば、まだ状況に変化をもたらせたかもしれない。
水上艦と戦闘をしていなかった後衛艦隊は、防御障壁を展開して自艦を守ったのである。
それに、連合艦隊直率に配属されていた海氷空母戦隊が、重爆部隊にとって一番近い位置にあったため、そちらに攻撃が一番集中した。
結果、海氷空母2が、光線砲の連続攻撃で沈没。海氷空母1が小破、海氷空母3が飛行甲板を誘導弾の連続爆撃で大破した。
次に狙われたのは、第一機動艦隊の装甲空母群である第二航空戦隊である。
敵の攻撃方向の先端に位置すべく、艦隊後方に下がった二航戦は、囮の海氷空母群の次に、重爆撃機隊に近かかったのだ。
光線砲が防御障壁に当たったが、光線搭載型に余裕がなかったか、誘導弾が雨となって降ってきた。その結果、装甲空母『大鳳』が小破、『鎧龍』が敵大型徹甲誘導弾に飛行甲板を貫かれて、大破した。
それ以外の艦は、戦艦や巡洋艦の一式障壁弾による傘もあって、損害を免れた。
しかし――
「装甲空母の装甲を抜けてくるか……!」
第一機動艦隊の小沢中将は、苦々しい表情を崩さなかった。今回も重爆からの被害を完全に防ぐことができなかった。
中部太平洋海戦で、空母が一気に半減したことを思えば、戦闘不能空母は1隻だけで、囮の海氷空母があったとはいえ、かなり抑えたのは間違いない。
「装甲空母だったからこそ、大破で済んでいたとも言えます」
神明参謀長は言った。
「これは他の空母なら、轟沈の可能性もありました」
大きさから狙われにくいだろうが、『祥鳳』『瑞鳳』なら間違いなく爆発四散していただろう。比較的強化されていた翔鶴型でも怪しく、そうであれば『赤城』や蒼鷹型、『飛隼』も撃沈されていたかもしれない。
小沢は頷いた。
「決戦に水を差されなかっただけマシだったと思うべきなんだろうな、これは」
そして肝心の艦隊決戦であるが――
『彩雲観測機より入電。敵後衛の巡洋艦ならびに水雷戦隊が行動を開始』
戦場に目を光らせ、敵情を監視している彩雲偵察機からの報告が飛び込んだ。どうやら、敵主力艦隊の、最後尾にいた艦隊が動き出したようだ。
『うち半数が潜水型の模様! 潜航しつつ、戦闘海域へ侵入しつつあり!』