第四八七話、高空の激闘
異世界帝国軍で厄介なのは重爆撃機だ。
日本海軍で開戦から生き残っている海兵は言う。艦隊決戦が終わる直前にふらっと現れる敵重爆の大編隊。それがいらぬ損害を与えていく。
そして今回は早々と異世界帝国の重爆撃機が大挙襲来。このままでは艦隊決戦に余計な水を刺されてしまうので、迎撃しなくてはならない。
第一機動艦隊からは、先日同様『祥鳳』『瑞鳳』、連合艦隊直卒の『黒鷹』『紅鷹』から青電高高度戦闘機が発進。
通報を受けた日高見海氷巨大飛行場からも白電迎撃機が飛び立つと、業風、暴風戦闘機が発進準備を進める。
さらに、敵重爆対策に考案された戦法を行うため、鹵獲重爆撃機『白鯨号』が、日高見飛行場から飛び立った。
白鯨号は、敵重爆撃機隊の針路を先回りしつつ、高度を上げていく。目標としては1万1000メートル付近。そこで迎撃を抜けてくる敵重爆撃機に仕掛けるのである。
迎撃機隊が、それぞれ移動する敵大編隊に向かう。
先陣を切ったのは、第一機動艦隊の青電部隊だった。
「迎撃してくる奴がいたらそいつは障壁を使っていないから、そいつを狙え!」
瑞鳳戦闘機隊隊長である柏木 源治郎大尉は呼びかけた。
「撃ってこない奴は障壁を使っている型だ。そいつには編隊で挑んで、誘導弾と光弾砲を集中! とにかく、1機ずつ確実に落として数を減らせ!」
異世界帝国の空飛ぶクジラ――アメリカの重爆撃機B29を上回るという超重爆の群れが、蒼空を飛翔する。
「前回は、もっとバラけていたのにな。今回はひとまとめにしましたってか!」
マ式エンジンを唸らせて、青電は高度1万メートル付近でも時速750キロを叩き出す。空気が薄い高空では、レシプロ機では過給機なしでは息をつく。だがマ式には関係がない。
瑞鳳青電隊は突っ込む。外周の敵重爆撃機が、自衛装備の12.7ミリや20ミリ機銃を撃ってきた。
防御障壁を張っていれば、銃弾は通らない。だから撃っている機体は厄介な防御はなし。
「いただきだ!」
魔力マーカーで誘導照準。そして空対空誘導弾を2発投下。こちらも薄いながら魔力防御障壁を張りつつ、狙いは外さない。
空対空誘導弾は艦艇攻撃用より威力はないが、重爆の翼をもぎとり墜落させるには充分だ。
柏木大尉機の後続も、機銃で弾幕を張る重爆に誘導弾を当てて吹き飛ばす。
「敵は防御より攻撃を優先させているのか?」
思ったより滑り出しがいいのを見て、柏木は機体を旋回上昇させつつ、敵編隊を見やる。そこでふと違和感に気づいた。
――ん? 重爆撃機が違う……?
よくよく見ると、外周で果敢に反撃を試みている重爆と、大編隊の中央辺りにいる重爆で微妙に型が違うような気がした。
カラーリングはどちらも灰色を基調とした三色迷彩であるが、じっと目をこらして、ようやく正体に気づいた。
「ちっ、新型じゃねえ! 旧型のオルキじゃねえか!」
防御障壁持ちの新型重爆撃機パライナ。対するオルキ重爆撃機は、開戦から様々な戦線で投入されてきた機体で、お馴染みだ。新型のパライナは、オルキの正当進化型で形は似ているのだが、大きさが若干大きい。
「障壁がねえから、対空砲火を活発に撃ってきたってわけか! くそっ、普通、逆だろうがよ!」
防御障壁があって攻撃に耐えられる機体を外、脆い方を内に配備するもの、と柏木は思っていた。これは先入観だったか、と思う。しかしやってしまったのはしょうがない。
「瑞鳳隊より、各青電隊へ! 敵は、編隊の内側に新型! 外側で弾幕を張っている機は旧型! 各隊、留意して攻撃せよ!」
後続部隊のために敵の配置を報告しておく。すでに瑞鳳隊は、外側の重爆に一太刀与えているので、空対空誘導弾の半分は消費している。これで障壁持ちのパライナ重爆撃機を狙うのは、落としきれず逃してしまう可能性が高い。
「忌々しいが、仕方ない。瑞鳳隊へ、こっちは旧型のオルキを狙い、落とせるだけ落としておくぞ!」
残弾を鑑み、1機でも多く落とせる方を選択をする。旧型のオルキは、重爆搭載型光線砲は積めないが、誘導爆弾などを多数運んでいるに違いない。これはこれで、真上を取られれば艦隊にとっては脅威だ。
すでに戦場には祥鳳隊も突入しており、連合艦隊直率の六航戦や、日高見の白電隊もそろそろ到着する。
柏木は、盛んに機銃を撃ちまくっているオルキ重爆撃機に機首を向ける。
「1機は1機だ。落ちろよ!」
・ ・ ・
日本海軍の高高度戦闘機隊が、異世界帝国重爆撃機部隊に攻撃を仕掛ける。
青電が、対空砲火をかいくぐり、オルキ重爆に機銃や光弾砲を叩き込み、複数小隊でパライナ重爆に攻撃する。
防御障壁ありのパライナも、空対空誘導弾が集中すれば、艦艇ほどの耐久力もなく撃墜された。
しかし障壁を破るために誘導弾を複数発を消費する以上、迎撃を切り抜けた重爆撃機の数も少なくなかった。
日高見の白電、特マ式収納庫装備の青電改が仕掛けて数を減らしているが、それでもまだ半分以上が健在だった。
「……司令部の予想通りの展開だ」
鹵獲重爆撃機『白鯨号』の機長、田島 晴夫少佐は、高度1万メートル付近を飛ぶ、異世界帝国重爆撃機部隊を見下ろしていた。
「どうあっても、戦闘機が足りないな」
青電も白電ももっとあれば……。しかしそれは無い物ねだりというものだった。
「まあ、だから俺たちがいるんだがな」
南東方面艦隊司令部が考案した、対重爆撃機戦術。荒削りだが、やらないよりマシという作戦だ。
「沓井、機体を、敵の進行方向に寄せろ」
「宜候!」
主操縦士が答え、白鯨号を誘導する。味方の迎撃戦闘機を振り切り、連合艦隊の決戦の場に侵入しようとするハイエナども。
「ようし、転移中継装置、作動! 日高見に通信を送れ!」
「了解!」
通信士が答え、戦術が実行される。田島は軽く天を仰いだ。上手くいったらお慰み。
じりじりと艦隊に迫る敵重爆撃機部隊。そして、白鯨号の後方より、お待ちかねの機体群が姿を現した。
熊ん蜂のような太い胴体を持ち、日本機のスマートさはないが、すでに海軍では一定数が使用されているお馴染みの機体。
F6F戦闘機――日本名『業風』艦上戦闘機。日高見飛行場から飛んできた基地戦闘機隊だった。
「日本のレシプロ機は高度1万に飛び上がるだけで困難だ。だがアメさんの発動機なら、一応1万メートル以上も飛べるんだ」
ただし、一応は、というレベルだが。だがそれでも、ないよりはマシだ。