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復活の艦隊 異世界大戦1942  作者: 柊遊馬


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第四八四話、突撃型水雷艇


 それは全長54メートルほどの小型艦艇だった。平らな艦首の甲板、ブリッジは船体の半分より後ろにあり、やや歪だが近未来感があった。


 浮上した時の潜水艦のように艦舷が海面に近く、しかし潜水艦を遥かに凌駕するスピードで、日本艦隊に迫っていた。

 ガダルカナル島とフロリダ島の間に大挙している輸送艦や支援艦に紛れていた、この小型艦艇は、ガダルカナル島北西のエスペランス岬とサボ島の間を突っ切った。


 日本の主力艦隊――その右にいた第一艦隊が、その襲撃を探知する。


「敵は水雷艇の模様! その数、50以上! さらに接近!」


 第一艦隊旗艦、戦艦『遠江』の原 忠一中将は戦闘配食の握り飯の残りを飲み込んだ。今日は忙しくなると飯を入れていたら襲撃である。


「水雷艇か。仕掛けてくるなら夜のうちだと思ったが。というか、そもそも水雷艇があったんだな、敵さんにも」

「あの辺りは、輸送船団が退避していましたから」


 第一艦隊参謀長の伊崎 俊二少将は首をかしげた。


「偵察機も、補助艦艇が護衛艦かと思って見逃していたのかもしれませんな」

「このソロモン諸島なら、水雷艇の出番もあったということか」


 旗艦『敷島』での会議の際にも、敵水雷艇の話は出ていた。島が多い場所ならばこそ、迎撃戦力として航続距離が短いが高速の小型艇にも出番があると、異世界帝国も考えたのだろう。


「敵も必死ということよ。ソロモンで決着をつけようというのだ」

「その決戦の前ですから、主力艦の脱落は是が非でも避けたいところです」

「無論だ。第一艦隊全艦、敵水雷艇を迎撃! 接近させるなよ!」


 高速の小型艦と言っても、魚雷を使ってくるならばそれは大型艦にとっても脅威だ。最悪、防御障壁に耐えれば数発は防げるが、十数本の集中攻撃を受けたなら、戦艦とて危ない。


 異世界帝国主力との衝突前に、その戦艦の1隻や2隻の脱落が、戦局に影響するかもしれないのだ。


 第一艦隊は、戦艦14隻を主力に、砲撃型巡洋艦15隻が主力となる。軽巡1、駆逐艦15の第三水雷戦隊が配備されいているもの、一個水雷戦隊のみなので、駆逐艦に余裕があるわけではない。

 必然的に迎撃の主力は重巡洋艦部隊となる。


 第十三戦隊の『阿蘇』『笠置』『身延』『葛城』はムンドゥス帝国のプラクス級の改装艦だ。55口径20.3センチ三連装砲四基十二門と、伊吹型重巡に匹敵する重砲撃型だ。


 第十四戦隊の『高雄』『愛宕』『摩耶』は、改装によって主砲が一基減って、四基八門の20.3センチ連装砲であるが、自動装填装置付きの自動砲であり、その速射能力は実質倍となっている。小型艦に対しても、その連射力は大きな力となる。なにせ、重巡の主砲である。駆逐艦の半分もない小型艦艇など一発でも当たればタダでは済まない。


 第十八戦隊の『大雪』『姫神』『五葉』『三峰』は、異世界帝国の鹵獲艦を回収して改造を施したものだ。

 イギリス海軍の重巡洋艦『コーンウォール』『ドーセットシャー』『ノーフォーク』『デフォンシャー』がそれで、これらは高雄型と同じく20.3センチ連装自動砲を四基八門装備と、標準型重巡洋艦の一角を形成している。


 これら11隻の重巡に加えて、軽巡洋艦戦隊である第三十四戦隊が、第一艦隊には配属されている。

 この四隻も、敵の鹵獲艦を再生、改修したもので、『久慈』『天塩』『小矢部』『雲出』と名付けられた艦は、それぞれ『サウサンプトン』『グラスゴー』『ニューカッスル』『シェフィールド』だったものだ。


 サウサンプトン級軽巡洋艦は、基準排水量9100トン。日本の最上型(軽巡)や米国のブルックリン級に対抗する砲撃型で、15.2センチ三連装砲四基十二門を搭載していた。

 日本海軍仕様の15.5センチ三連装砲に換装された上、速射性向上の自動砲なので、巡洋艦はもちろん、それ以下の駆逐艦や小型艦にとっては重巡以上に厄介な相手となる。


 これら巡洋艦戦力があれば、多数の水雷艇が相手でも、接近する前にかなりが撃沈、脱落するだろうと、第一艦隊司令部は考えていた。

 一方的にアウトレンジができるし、魚雷の射程距離に入る頃には高角砲や両用砲である光弾砲の砲火も加わるからだ。

 しかし――


『十三戦隊より報告! 敵水雷艇は、防御障壁を使用。撃破は可能なれど、耐久高し』

「防御障壁付き……」


 原が声に出せば、伊崎は口元を歪めた。


「面倒ですな。一発二発で沈まないのでは」


 撃破に手間取る間に、距離を詰められる。そして数で押し込み、雷撃を仕掛ける。


「敵の駆逐艦は相変わらず障壁がなしだったが――」

「突撃する性質上、防御障壁があるのは頼もしいでしょうな。敵にすると厄介としかいいようがありませんが」


 昨年まで第二水雷戦隊の司令官だった伊崎は言うのである。


「航空機があれば、水雷艇を追い散らせると思ったのですが、障壁持ちであればそう簡単にいかないでしょうな」

「ある意味、航空攻撃にさらされないギリギリの時間の襲撃だったな、これは」


 開戦時、第五航空戦隊司令官だった原は頷くのだった。



  ・  ・  ・



 ヴェロス水雷艇は、ムンドゥス帝国軍が開発し、前線に送り込んできた突撃型水雷艇だ。


 その用途は、艦首に搭載した防御シールド発生装置を頼りに、速度性能を発揮して敵艦へ肉薄し、魚雷攻撃を仕掛けるというシンプルなものだ。


 艦艇装備型としては、出力の問題から巡洋艦級の砲撃の数発に耐える程度だが、数で攻める場合、この数発の防御性能が敵にとっては面倒である。

 素早く距離を詰めて、それで中々沈まないとなれば、肉薄できる隻数も少なくないということだ。


 そして何より厄介なのは、この水雷艇は『突撃型』の名を冠する通り、体当たりも辞さない突撃戦法を用いる。

 その艦首には衝角が装備されており、防御シールドとは別に艦首は特に頑丈に作られていたのだ。


 だが衝角はおまけのようなもので、ヴェロス型の真骨頂は、敵艦に肉薄し、敵の防御シールドに体当たりしたところで、シールド同士の衝突でその防御を削りつつ、搭載していた近接用魚雷を最大四発まで発射、敵シールドを抜けて命中させることにあった。

 そう、元々試作はされていたとはいえ、完全に防御シールド装備型艦を保有する日本海軍と戦うためにソロモン諸島に送られてきたのだ。


 日本海軍の20.3センチ砲弾や15.5センチ砲弾が矢継ぎ早に放たれる中、ジリジリとヴェロス水雷艇80隻は、第一艦隊に接近した。

 シールドに当てられた水雷艇は、ジグザグ機動で砲弾を躱して少しでも他艦が狙われないように時間を稼ぐ。


 それでも強力な巡洋艦砲弾に、脱落していく艦が相次ぐ。だがシールドにぶつかるまで、つまり通常の魚雷の射程よりもさらに踏み込み、ほとんど衝突するまで近づかないといけないために、砲撃にさらされる時間は長く、また犠牲も少なくない。


 敵艦に必殺の魚雷をぶつけるために突っ込む雷撃機のような気分だが、最速39ノットでは、航空機の水面ギリギリ飛行の足下にも及ばない。だがそこは数とシールドで誤魔化す。


 砲弾に叩き潰され、四散するヴェロス水雷艇。艦のシルエットが低く、正面からの被弾面積が小さいように設計されていても、当たる時は当たるのである。


 しかし着実に、日本艦隊に水雷艇群は接近しつつあった。

・ヴェロス級大型水雷艇

基準排水量:88トン

全長:54メートル

全幅:6.3メートル

出力:6500馬力

速力:39.3ノット

兵装:衝角×1 70センチ魚雷×2 53センチ魚雷×2

   12.7ミリ機銃×1

航空兵装:――

姉妹艦:――

その他:ムンドゥス帝国が開発した大型水雷艇。地球製ボートタイプ水雷艇の倍近い大きさがあるが、その拡大分は防御シールド発生装置とそれを維持する発電機となっている。シールドを展開する敵艦への攻撃を目的に開発されており、自艇のシールドを敵艦のシールドにぶつけつつ、超至近距離からの専用大型魚雷を投下するのが基本戦法となる。

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