第四八二話、夜間二段構え戦術
艦隊前方に、光源と艦隊が出現。
その報告に、ガンマ艦隊司令官であるフラーウス中将以下、参謀たちはざわめいた。
「艦隊だと? ケイモン長官の主力艦隊か!?」
夜のうちに速度を出して、艦隊合流のために駆けつけたのか? ヒューレー参謀長は眉をひそめた。
「しかし艦隊は、フロリダ島の西で合流予定だったはず! こんな位置にいるわけが……」
「そもそも、あの光は何だ!? 潜水艦が潜んでいる海域で、夜間に点灯など、正気なのか!?」
これでは敵を引き寄せるだけではないか。憤りをおぼえるフラーウスだが、そもそも正面の艦隊が自軍と決まったわけではない。もしかしたら、日本軍かもしれないのだ。
「識別どうした!?」
『艦上に光が強く、シルエットがはっきりしません!』
見張所からの報告に、フラーウスは歯噛みする。しかし脳裏に、これに類似する光景があるのを思い出して指示を出す。
「正面、防御シールド全開! あの光は熱線砲のチャージ光かもしれん!」
ざわっ、と司令塔内が動揺した。
そしてそれは的中する。
・ ・ ・
「まずは光線砲、撃て!」
古賀 峯一大将の号令に合わせて、日本海軍第一〇艦隊の戦艦型特殊砲撃艦、芦津型8隻と、大沼型特殊砲撃艦8隻が、イ型光線砲を発射した。
高高度重爆撃機が搭載して使った光線が闇夜を貫き、異世界帝国艦隊、その狙い定めた敵艦に直進、障壁に命中した。
「弾着観測機より入電! 全艦、標的を捉えております! 命中です!」
「よろしい」
古賀大将は頷いた。
彼が率いる日本海軍第一〇艦隊は、潜水行動により、ガダルカナル島近海まで密かに接近。攻撃の機会を待ち、敵乙艦隊に対して攻勢に出たのだ。
「では本命を叩き込め! 熱線砲、てぇーっ!」
芦津型、大沼型が、艦首甲板に集めていた光から熱線を放射した。イ型光線砲で射線を確認し、より強力な熱線砲を叩き込む。
攻撃は、異世界帝国乙艦隊に吸い込まれ、またも防御障壁に当たり、派手な光を撒き散らした。
もともと弱っていたか、2隻ほど敵艦が吹き飛んだ。しかし、それ以外の艦は何とか攻撃を耐えきった。
「ようし、全艦潜行!」
特殊砲撃艦――莫大なエネルギーを消費するため威力と引き換えに、戦闘力がダウンする熱線砲を活用することを重視して作られた艦である。
一発撃てば、エネルギーが補充されるまではほぼ戦力外なので、潜行して敵の攻撃を躱すのだ。
現れた時と同様、第一〇艦隊の特殊砲撃艦は、海中にその姿を没した。
・ ・ ・
「熱線砲だとぉ……!」
ガンマ艦隊、フラーウス中将は唸った。
前方の光源が熱線砲のそれではないかと予感したのは正しかった。正面に現れた艦隊は、それをガンマ艦隊に向けて発砲した。
もしかしたら主力艦隊が駆けつけたかもしれない、という思いは完全に霧散している。
「日本軍が熱線砲だと!」
「大西洋艦隊のレポートでは、日本艦隊の中に熱線砲を使う部隊があるという報告が――」
情報参謀が言ったが、フラーウスは聞いていなかった。
「艦長! 防御シールドは?」
「シールドのエネルギーがダウンしました。再稼働まで充填中です!」
「しかし、エネルギー切れは、向こうも同じだ。砲撃戦に持ち込んで――」
『対水上レーダーに反応! 敵性艦隊正面に、新たな艦隊出現!』
レーダー士官の報告が割って入り、司令塔から暗闇に目を凝らす。
「今度は何だ? 転移で敵の増援か!?」
・ ・ ・
海面を割って現れたのは、角田 覚治中将率いる第二機動艦隊、その水上打撃部隊だ。
二機艦もまた、第一〇艦隊と共に、潜水航行で、ソロモン諸島北方ルートを通って進撃。山口中将の空母部隊が昼間に攻撃隊を放ったが、水上部隊は第一〇艦隊との連携のため行動を続けていたのだ。
戦艦『大和』『武蔵』を擁する8隻と、巡洋艦7隻、駆逐艦30隻が、放たれた猟犬の如く、第一〇艦隊に代わって現れ、突撃を開始した。
「敵は防御障壁を失ったか、あるいは大幅に弱体化している! この機を逃さず撃滅せよ!」
第八戦隊の戦艦『近江』に坐乗する角田中将は吼えた。
熱線砲で敵の防御を取り払い、間髪を入れず、もう一隊が砲撃戦を仕掛ける。それが防御障壁が存在する戦場における、日本海軍が編み出した二段構えだ。
近江型、常陸型、美濃型戦艦が41センチ砲を向け、大和型が46センチ砲で狙いを定める。
夜間視力装備により、照明弾などがなくとも確保した視界。そして発砲。光源補正により砲手らの目を守りつつ、轟く砲声。
さらに距離が縮まった戦場。能力者による弾道修正砲撃。それらが、異世界帝国戦艦に突き刺さる。
障壁を失った敵戦艦に強烈なる一撃が、艦を震わせた。夜の中に鮮やかに広がる火柱、鋼鉄の破片が飛び散る。
第二十七戦隊の特殊巡洋艦の『球磨』『多摩』『阿武隈』が、四連装対艦誘導弾を相次いで発射。異世界帝国のプラクスⅡ級重巡洋艦、メテオーラⅡ級軽巡洋艦の頭上から降り注ぎ、洋上に新たな火を灯す。
随伴する第七水雷戦隊は、敵駆逐艦がいない丁艦隊に突撃し、損傷した巡洋艦の高角砲や光弾砲を狙って砲撃をしかけつつ、誘導魚雷を放った。
異世界帝国丁艦隊は前の方にいた艦艇が瞬く間に大破、沈没していった。やはり障壁を失ったところからの、近・中距離砲戦で先手を取られたからだ。
しかし、後ろ半分の艦艇は、第一〇艦隊の熱線砲の攻撃を浴びていないため、防御障壁も健在だった。
故に、前半分が崩れるのが早かったのと引き換えに、後ろ半分の艦艇は、日本艦隊に対して反撃に出た。
防御障壁を張りつつ前進する艦と、その後ろについて砲撃する艦が、第二機動艦隊水上部隊に反撃に出る。
しかし、彼らは洋上に気を取られ過ぎた。第二機動艦隊には、もう一つ水雷戦隊があることに。
『川内』『神通』に率いられた改吹雪型潜水型駆逐艦が、潜水艦よろしく海中からの雷撃を敢行。砲撃のため障壁を解除している敵艦に次々と魚雷を命中させ、その航行能力、攻撃力を喪失していった。
丁艦隊――ガンマ艦隊のフラーウス中将の旗艦もまた水上の砲撃、水面下の雷撃に挟撃され、爆沈した。




