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第四七四話、水中と航空の合わせ技


 第一機動艦隊の攻撃隊は、異世界帝国、丙艦隊に殺到した。

 丙艦隊ことベータ艦隊の司令長官、ゲイラ・ティラー中将は、艦隊を東へ退避させつつ、空母を失い、しかしまだ制空任務についている機体に迎撃を命じた。


 これらは燃料がいよいよ危なくなったらガダルカナル島に新設された飛行場へ向かうことになっていた。

 そしてそのガダルカナルの飛行場から戦闘機隊が援護に駆けつけていた。


 しかし、それを合わせても第一機動艦隊攻撃隊の400機にも及ぶ烈風戦闘機の数には遠く及ばない。


 艦隊の手前での激しい空中戦が繰り広げられる。烈風戦闘機の空対空誘導弾が、高速で飛び回るエントマ戦闘機に追いつき、四散させれば、ヴォンヴィクス戦闘機の機銃と光弾砲の直撃で、翼を吹き飛ばされる日本戦闘機。


 あるいは巧みに敵弾をかいくぐった烈風が、零戦ばりの旋回性能で敵機の後方に回り込むと、光弾機銃四門の連射で蜂の巣にする。


 一撃離脱をかけるエントマ戦闘機も、烈風の小回りからの可変翼による高速飛行状態での追撃を振り切れず、残骸を撒き散らす。


 多数の日本戦闘機隊は、ほどなく、異世界帝国戦闘機を追いやり、蹴散らした。だが、制空隊の仕事はそれで終わらなかった。

 異世界帝国軍は、後方の主力艦隊から戦闘機の増援を送りつけていたのだ。


「俺たちの相手が残っていたな! かかれっ!」


 獲物を一航戦制空隊に譲り、待機していた五航戦の烈風戦闘機が、攻撃機隊の攻撃までの援護を兼ねて、新たな敵戦闘機隊を迎え撃つ。

 空中で爆煙と殺意の光が瞬く中、戦闘機同士の饗宴から距離を取りつつ、彩雲観測偵察機は敵丙艦隊を見張る。


『敵戦艦に障壁の反応あり。……お待ちを』


 観測装置をいじっていた通信員が、変化を確認した。


『敵戦艦の展開エネルギーに異常――』

「見えている。下でおっぱじまったぞ!」


 機長が声を上げた。


 東進する異世界帝国戦艦の周りで突然、水柱が連続して上がったのだ。それも連続で。

 潜水艦などの魚雷攻撃にも見えるが、この当たり方は異常だ。


 誘導魚雷でなければ、通常、魚雷は直進するものだ。そのため扇状に射線をズラして発射される。


 だから、同じような場所に連続して命中、爆発するのはまずあり得ないのだ。それこそ誘導して、敢えてそこに当てない限りは。


 彩雲観測機の搭乗員たちは、何が起こっているのか理解している。マ号潜水戦隊こと、第十七潜水戦隊が、誘導機雷を使っているのだ。

 機雷を足止め、航路妨害としてではなく、防御障壁を削るために。


 それはさながら、きちんと順番待ちの列を作っているかのようだった。誘導された機雷はテンポよく敵戦艦、その守りの壁に激突し爆発。断続的な水柱を上げて、戦艦の艦首甲板を濡らした。


『敵艦隊、先頭の戦艦6隻が障壁減少。間もなく消滅します。さらに後方3隻にも誘導機雷が障壁に攻撃を開始した模様!』

「よし、鍋島。その旨を攻撃隊に伝えろ。攻撃開始だ」


 観測機からの報告は、攻撃の機を窺っていた流星艦上攻撃機隊に伝わる。


 待ってました、とばかりに逆ガル翼をきらめかせて流星隊は、攻撃位置についた。抱えてきた1000キロ、もしくは800キロ対艦誘導弾を発射。それらは、障壁が削られ、そして消えたオリクト級戦艦に突き刺さった。


 爆発。破片は派手に飛び散り、波間に激突する。

 シールドによって日本機の攻撃をやり過ごすはずだった丙艦隊――ベータ艦隊の戦艦乗組員は動揺する。


 防御の膜が消えて、慌てて高角砲や機銃を振り向け始めるが、もはや手遅れだった。いや、日本攻撃隊が障壁の消えるタイミングを見計らって攻撃してきたのも大きい。ほとんど迎撃時間を与えずの命中、そして艦の被害だった。


 最初からシールドを持っていない駆逐艦が何隻か、誘導弾を迎撃したが、それは戦艦に近くにいて、たまたま近くに飛んできたからに過ぎない。

 自艦防御に意識が向いていれば、よその艦へ飛んでいく攻撃を撃ち落とそうとする動きは少なかったのである。


 異世界帝国の重巡洋艦、軽巡洋艦がシールドを切って、戦艦の防御に対空弾幕を展開しはじめたのは、第一撃が炸裂し戦艦の半数が一気に被弾、損傷してからになった。


 何らかの攻撃で、艦隊の要である戦艦部隊が半壊。護衛部隊が自艦を優先していられなくなった。狙われていないのに、シールドにこもっているわけにもいかないのだ。

 光弾砲、高角砲、対空機銃が唸りをあげるが、そのほとんどは、流星艦攻には向けられず、誘導弾迎撃に用いられた。そもそも対空弾幕の中に流星が踏み込むことは滅多にないからだ。


 空が騒がしくなれば、水上もまた混沌とするもので、対空射撃を実施する巡洋艦や駆逐艦にも日本機の手が伸びる。


 弾幕すら待っていたとばかりに、シールドを消した艦艇に迫る誘導弾。護衛対象へ迫るものに意識を取られているだろうところに、別方向から魔力誘導された大型弾が飛び込む。よそ見をするのが悪いとばかりに、しれっと飛んできたそれが、護衛艦艇の横っ面を張り倒す。


 艦橋を吹き飛ばされ、一時的に指揮系統を失ったメテオーラⅡ級軽巡洋艦が、戦列から離れる。その空いた穴に誘導弾が入り込み、すでに損傷していた戦艦にトドメとなる。


 時々、マ号潜からの雷撃も混じって、落伍艦や戦艦、巡洋艦に命中、被害を拡大させていく。


 異世界帝国戦闘機隊は、烈風を主力とする日本戦闘機隊に封じられた。対障壁弾を持たない第一機動艦隊攻撃隊だが、マ号戦隊の支援を受けて、敵丙艦隊に痛打を与えることに成功した。


 ベータ艦隊の受けた被害は甚大だった。

 司令長官、ゲイラ・ティラー中将座乗の旗艦を含め、戦艦11隻が沈没。残る3隻も中破。すでに空母は失われていたが、ここにきて護衛の巡洋艦も重巡洋艦3、軽巡洋艦5を撃沈。駆逐艦も半減した。


 残存艦はさらに東進するが、もはや巡洋艦を中心とする中規模艦隊に格が落ちていた。


 第一次攻撃隊は、目的を果たして機動艦隊へ帰投する。

 異世界帝国丙艦隊は、重巡洋艦12、軽巡洋艦10、駆逐艦23にまで戦力が落ち込んだ。そのうち何隻かは、被弾によって戦闘能力に問題があった。

 これらは友軍艦隊に合流すべく、ガダルカナル島方面へ撤退したが、彼らの対空レーダーは新たな日本海軍航空隊を捉えた。


 第二次攻撃隊か――身構える丙艦隊残存部隊。

 現れたのは、日本海軍の巨大海氷飛行場『日高見』から発進した。第十一航空艦隊の陸上基地攻撃隊だった。

 業風、暴風戦闘機隊に守られた一式陸上攻撃機隊だ。


 しかし十一航艦の攻撃隊は、丙艦隊残存部隊を素通りした。上空を守る戦闘機もなく、対空戦を覚悟した異世界帝国艦隊にとって、それは意外だった。


 それもそのはず、十一航艦の攻撃目標は、丙艦隊残存ではなく、増強中のガダルカナル島にある異世界帝国軍の飛行場だったからだ。

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