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第四七一話、潜水艦、大襲撃


 異世界帝国、乙艦隊(アルファ艦隊)の空母5隻が突然の攻撃を受けた。それは、海中に身を潜める日本海軍第六艦隊の潜水艦隊の仕業だった。


 マ式機関により水中から敵艦隊を追跡、同行していた第六艦隊潜水艦。機会を窺っていたところ、敵艦隊上空を潜伏飛行する瑞雲から、敵空母に攻撃隊準備の兆候ありという魔力通信を受けた。


 空母がそれぞれ飛行甲板に、艦載機を並べ始めたのだ。第六艦隊旗艦『塩見』から、艦隊所属潜水艦に、雷撃準備が命令された。

 敵警戒艦から距離があり、目標の空母を雷撃するには少々遠いが、瑞雲の観測誘導により潜望鏡を使うために海面付近にまで浮上する必要はない。


 上空に敵機が飛び回っている現状、雷撃のために浮上するのは、潜水艦にとっては命取りなのだ。

 そして、敵空母5隻が防御障壁を解除した直後、第二潜水戦隊の伊201型潜水艦6隻は、誘導魚雷を発射した。


 基準排水量1050トン。全長79メートル、全幅5.8メートルと、呂号中型潜水艦より小さいからもしれないこの伊号潜水艦は、1938年からの水中高速型潜水艦の研究と開戦後の魔技研の技術が合わさり、戦時急増された新型艦だ。


 マ号潜水艦の量産型である伊611型のさらに量産型として設計され、一部、呂号潜水艦の建造を潰したリソースで造られた伊201型は、艦首に魚雷発射管を4門で武装する。魚雷搭載数は10本と、武装面では呂号潜並だが、その水中での航行速度は、当初の計画どおり25ノットを発揮可能だ。


 これら新型潜水艦群は、巡航する敵艦隊を追い越す水中速度でポジションを確保。敵の水中索敵範囲外からの雷撃を敢行した。

 斜め下方から上昇するように深度を上げていく誘導魚雷は、やがて、異世界帝国空母5隻の真下に入り込み、そして爆発した。


 水中爆発によって吹き上げられた衝撃波と水流によって、標的となった艦艇は水柱に突き上げられたように見えただろう。だがその凄まじい衝撃によって艦底部はへし折られ、分断、大浸水が始まる。

 敵艦に直接命中させるのではなく、その真下で爆発させる。それが魚雷の威力を上げる。


 魚雷を誘導できることで、わざわざ敵艦の深さに深度を調整することなく、また下方から狙えることで発見された魚雷攻撃法によって、狙われた空母5隻はたちまち吹き飛んだ。

 アルクトス級中型空母は文字通り轟沈し、リトス級大型空母も全長320メートルの巨体を分断され、沈みつつあった。


 第六艦隊旗艦『塩見』。艦隊司令長官の三輪中将はニヤリと口元を歪めた。


「これはいけるな。第三、第四潜水戦隊に指令。残る敵空母にも順次雷撃を開始せよ」

「よろしいのですか?」


 仁科参謀長が小首をかしげる。


「まだ残りに空母には、防御障壁が展開されているようですが……」

「この威力ならば、通常弾頭でも防御障壁を削って、攻撃できるだろう」


 本当ならば、敵空母10隻をまとめて撃沈する予定だったが、異世界帝国も、こちらの空からの奇襲攻撃を警戒してか、障壁を解除したのは5隻のみだった。残る5隻も沈めたいが、まず5隻が血祭りにあげられた以上、容易に守りを解かないだろう。


「第三潜水戦隊の一撃で、空母の防御障壁を引っぺがし、第四潜水戦隊の雷撃で、空母群を叩く」


 三輪は告げた。


「第十一潜水戦隊は、障壁を展開していない艦艇に対して、雷撃を開始。第二潜水戦隊も装填が完了次第、攻撃に加われ。第六艦隊でやれるだけやるぞ」


 指令は下った。

 第三、第四潜水戦隊の12隻の伊号潜水艦は残存空母を狙い、第十一潜水戦隊の伊号潜3隻、呂号潜7隻は、それぞれ敵の護衛艦に誘導魚雷を撃ち込んだ。



  ・  ・  ・



『高速推進音! 海中より急速接近!』


 ムンドゥス帝国艦艇の水中聴音室は、1500メートル以内に現れるエンジン音を探知して、警報を発する。

 それが魚雷と察するのは、難しくなかった。艦長によっては、自艦に向かってくると知り、回避運動をとらせようとする。あるいは巡洋艦以上であれば、防御シールドの展開を命じた艦長もいた。


 だが、ムンドゥス帝国駆逐艦はシールドを備えていないため、射線に乗っているならば躱すしか手がない。

 主砲や機銃を海面に向けて、せめてまぐれ当たりを期待する程度ながら迎撃をしようとする艦の砲術担当の兵たち。しかし――


「敵の魚雷は見えません!」

「海面に航跡、見当たらず!」


 そうこうしている間に、水柱を上げて艦体を真っ二つにされる僚艦。


「聴音室! 敵魚雷は視認できない! 位置を知らせろ!」


 艦長がどちらに舵を切るべきか確認すれば――


『敵が使用しているのは誘導魚雷の模様! 追尾してきます!』


 回避不能。呆然となることしばし、突き上げるような衝撃がエリヤⅡ級駆逐艦を襲い、艦を切り裂いた。強度許容外の圧力によって曲げられ、大量の浸水によりたちまち駆逐艦は海へと引きずり込まれた。


 アルファ艦隊旗艦『ヌーベース』の司令塔。アゴラー中将とアンコーン参謀長は呆然と、撃沈されていくリトス級大型空母を見ていた。


「司令官。空母、全滅です……」

「……」


 日本軍の奇襲攻撃隊を警戒していた。さらに空母の発艦も半分ずつ行うことで、一挙壊滅を防ごうともした。

 対策はしていたのだ! しかし蓋を開けてみれば。


「潜水艦、だとォ……!」


 多数の潜水艦を集中運用して、艦隊攻撃を仕掛ける。


 しかも上空にいる警戒機が、潜望鏡深度に浮上している敵潜を発見できていない。つまり海中深くから、しかも索敵外からの遠距離雷撃を仕掛けてきている。


 敵はどうやって、潜水艦同士を連携させているのか? 単独行動が多い潜水艦のこの動きは、ムンドゥス帝国の潜水水雷戦隊以上に統制が取れ、いやそれを凌駕している。


 ――日本軍の潜水艦部隊は、複数運用されているとは聞いていた。


 だが精々、通商破壊戦における数隻単位での陽動、襲撃レベルだろうと思っていた。

 しかし、今アルファ艦隊を襲っている攻撃は、それ以上。10や20の潜水艦ではない。それを高度に統制し襲撃するなどあり得ない。


 ――これが太平洋艦隊を苦しめた、日本軍潜水艦部隊か!


 本来潜水艦を狩るはずの駆逐艦が、真っ先に沈められ、アルファ艦隊は防戦、いやサンドバッグ状態となりつつあった。敵はこちらの水中索敵範囲外から攻撃し、運良く探知に成功しても、水中航行速度が早く、索敵外へ逃げてしまう。駆逐艦も水上速度では、水中の潜水艦より高速だからデータ上では追いつけるのだが、そうすると自艦の騒音でソナー探知が不可能になってしまう。そうこうしているうちに、敵潜水艦の僚艦による側面雷撃で、撃沈されては、満足な反撃など困難であった。


「こんなやられ方があるか……!」


 日本の潜水艦部隊は、化け物か。

・伊201型潜水艦『伊201』

基準排水量:1050トン

全長:79.0メートル

全幅:5.8メートル

出力:魔式機関1万5000馬力

速力:水上25.2ノット/水中25ノット

兵装:53センチ魚雷発射管×4(10本) 誘導機雷×8

航空兵装:――

姉妹艦:伊202、伊203、伊204、伊205、伊206、伊207、伊208

    伊209、伊210

その他:水中での高速を発揮する潜水艦を計画、実験をしていた日本海軍が、魔技研の技術を得て建造した、高速潜水艦。小型にまとめられ、速度向上を重視した設計となっており、魔技研技術の投入で当初の計画通りの水中速力25ノットの発揮に成功した。重力バラストの採用による構造の簡略化、自動化による少人数化が施されて、一部呂号の建造を中止し、生産された。小型にまとめた結果、魚雷装備数が呂号潜水艦並みとなっているのが、唯一の欠点。

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