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第四六七話、旗艦の脱落


 転移ゲートに異変。


 その報告が、ムンドゥス帝国南海艦隊旗艦『アペイロン』に届いた時、ロウバート・ケイモン大将は、参謀たちと日本海軍の迎撃案の確認と検証を行っていた。


 ニューブリテン島を離れて、進撃する連合艦隊はソロモン諸島の間を突っ切ってくる構えだ。現在の配置で、どう攻撃するか――参謀たちから活発な意見が出て行た時、それは訪れた。


「申し上げます! 転移ゲート、消滅しました!」

「なにっ!?」


 飛び込んできた報告にプロイ参謀長ほか参謀たちは一斉に振り返った。一人静かにケイモン大将は、司令塔の側面から出て、艦後方を見やる。

 海から飛び出てアーチを描いている光る門が、確かに影も形もなくなっていた。


「何事でしょうか」


 参謀長は不穏な雰囲気を感じさせる声を上げた。


「特に、ゲートに関して停止するなどの通達はなかったはずですが……」

「……」


 見張り員がざわついている。艦乗組員が甲板に出て、同様にゲートがあった方向を指したり、何か言っている。おそらく他の艦艇でも同じような状況だろう。

 ケイモンは司令塔内に戻る。何やら胸騒ぎがしてきた。


「関係する部署に確認をとれ」

「はっ!」


 情報参謀が通信室へ走る。


 その時だった。司令塔に衝撃と爆発音が連続した。


「何事だ!?」


 突然の揺れと爆発に参謀たちがどよめく。

 旗艦『アペイロン』の艦橋のそばを航空機がすり抜けていったような感覚が一瞬した。しかしそこには何も見えない。だが確かに何かが通り抜けていった気がしたのだ。動揺もピークに達する。


『右舷後部、見張り所に攻撃! 2名死亡!』

『測距儀、破損! 射撃指揮所、壊滅!』

『対空レーダー損傷! 対水上レーダーにも異常』

『こちら通信室、通信装置故障!』


 次々ともたらされる報告は、よろしくないものばかりだった。ケイモンは低い声を発した。


「敵襲だ。敵は遮蔽に隠れておるぞ……」

「敵襲!」


 被害を知らせる警報がすでに鳴り響いている。

 おそらく日本軍の遮蔽装置搭載航空機が、奇襲を仕掛けてきたのだ。姿は見えないが、『アペイロン』の受けた艦橋中心の被害を考えれば、それ以外に考えられない。

 ゲートが消えたタイミングでの襲撃。もしかしたら、ゲートの件も日本軍の仕業かもしれない。


 ――見事な奇襲だ。


 ケイモンは口にこそ出さなかったが、完全に虚を衝かれたことに舌をまいた。これこそ完璧な奇襲だ。

 しかし賞賛もすぐに消える。被害報告を受けた艦長が、ケイモンら司令部に詳細を知らせた結果、旗艦としては最悪の展開となった。


「通信は、僚艦『エクリクシス』に代行させますが、本艦の艦橋に受けた損傷は、現場での応急修理が困難であります。遺憾ながら、旗艦として戦闘に耐えられないと言わざるを得ません」

「……」


 戦艦『アペイロン』、戦闘に支障あり。対空射撃、砲塔からの個別射撃は可能で、航行能力も有している。しかし肝心の指揮能力が失われ、旗艦としての能力を喪失した。

 南海艦隊最強の43センチ砲が、一度も火を噴くことなく、退場が確定したのだ。


「旗艦を『エクリクシス』に移す」


 ケイモン大将は即決した。南海艦隊最強戦艦が脱落しようが、連合艦隊が向かってきている現状、艦隊司令長官は指揮を執り続けなければならない。

 旗艦をオリクト型主力戦艦に移す。第一線戦力であるが、格落ちはやむを得ない。


「やってくれたな、日本軍」


 旗艦変更は速やかに行われた。先にも言ったが、日本の主力艦隊が迫っているのだ。

 その主力は、ブーゲンビル島の南に達しようとしている。つまり、前衛艦隊の空母部隊による航空戦が近いことを意味する。

 急がねばならなかった。しかし、事態はそう簡単ではなかった。


「遮蔽し潜伏している敵機がいる可能性があるため、戦闘機隊による警戒と捜索を行います。旗艦移動の変更は、しばしお待ちください」

「……」


 奇襲を仕掛けてきた敵が、まだ艦隊周りをうろついているかもしれない。

 敵は一撃を仕掛けて遁走しただろう――そうケイモンは思ったが、それを押し込め、発言は控えた。


 ムンドゥス帝国の戦闘機が大量に飛び回るだろう状況は、敵もわかっているだろうから、逃げたと考えるのが普通だ。しかし、そのあり得ない隙を衝かれたことを忘れてはいけない。


 遮蔽を巧みに使い、今も虎視眈々と機会を窺っていたら、移動中の司令長官が狙われる可能性も皆無ではないのだから。



  ・  ・  ・



 ところ変わって、シドニー近海。

 異世界帝国旗艦級戦艦を奇襲した須賀大尉率いる烈風改戦闘攻撃機隊は、ホ号潜水空母『鳳翔』に帰還した。


 お世辞にも大きいとはいえない『鳳翔』の飛行甲板に、熟練の須賀は綺麗な着艦を決め、後方を振り返れば、使い魔と自動コアに制御された無人烈風改が、こちらも綺麗に飛行甲板に降り立った。

 帰還できたのは5機。出撃した9機のうち、4機が未帰還である。


 ――未帰還というか、撃墜は確実なんだけど。


 整備員が駆け寄りながら、格納庫へ転移するのでお待ちをというので、コクピットから降りたい衝動をこらえて待機すること数秒。転移甲板によって、周囲の景色が広大な海から、殺風景で狭苦しい格納庫になった。


「お帰り、須賀大尉」


 諏訪中佐が待っていた。須賀は、かすかに疲労を感じながら立ち上がり、機体を降りた。


「お疲れ様。伊400が転移させた彩雲からの報告は聞いたよ。ゲートは破壊されたって。見事な腕前だ」

「そうでしたか」


 緊張感が抜けて、体が少々だるかった。


「その彩雲から、気になる報告があったんだけどね。ひょっとして君たち、消滅前のゲートに突っ込んだりした?」


 飛び込んだところを観測されたようだった。須賀は笑みを貼り付けた。


「上昇回避するには、面倒なのが大量に飛んでいたので。ゲートをくぐっても、転移離脱で母艦に帰れますから」

「なるほど。向こうへ行ってきたわけか」


 諏訪は腕を組んで、皮肉げな顔になった。


「ゲートの向こうは、ソロモン諸島で間違いなかったか?」

「ええ。敵の大艦隊と遭遇しました。通りがかりの駄賃に、敵の旗艦の艦橋に光弾砲を撃ち込んできたので、そっちも観測できたなら、間違いないでしょう」

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