第四六六話、超低空飛行
異世界帝国の転移ゲートに向かう須賀たち鳳翔攻撃隊だが、異世界帝国は守りを固めていた。
初遭遇となる小型機の数百もの大群が、ゲート上空を周回していたのだ。
遮蔽装置を使って接近する攻撃隊だが、1機が接触、2機が瞬く間に撃墜され、残る攻撃隊の機体は6機となってしまった。
「犬上! 高度を落としてついてこさせろ!」
須賀は烈風改を海面近くまで降下させた。
「なまじ上から行こうというのが間違いだった! 敵艦の間を突っ切る!」
荒れ狂う敵敵小型機の大群。その中を突っ切るより、異世界帝国艦艇がいる海上近くを飛んだほうが、遥かに安全だった。
須賀機に、犬上の使い魔の乗る烈風改がついてくる――はずだ。遮蔽で消えているので須賀の目や機体のレーダーでは確認できないのだ。
犬上は自身の使い魔を遠距離でも感知できるから、機体は見えなくてもどこにいるかはわかる。
異世界帝国のプラクス級重巡洋艦の、戦艦のように高い艦橋のそばをすり抜ける。いくら遮蔽で隠れていても、機体が巻き起こす風は吹きつけたかもしれない。
敵駆逐艦や巡洋艦が、至るところを航行している。敵見張り員が、頭上で生き物のように動きを変えた小型機群を見上げているのを、須賀の動体視力がすれ違いざまに捉えた。
上で烈風改が3機吹っ飛んだ。それもあって、何事か状況を確認しようとしているのだろう。
「敵艦の警報」
「聞こえたか? いい耳だな!」
須賀は、戦艦の艦橋の天辺より下の高さ、超低空を最高速で飛び抜ける。
「すみません、大尉」
「何だ!?」
「五番機が敵艦に接触、墜落」
自動コアと使い魔セットでも追従が難しかったようだ。今はそれどころではないが。
「犬上、準備しろ。もうすぐ、発生機への射線を確保できる……!」
「りょ、了解!」
烈風改は異世界帝国の艦艇群の間を縫って、ゲート左側にある発生装置の動力炉を視界に収める。
防御障壁があるかどうかは、この際関係ない。こちらが積んできた必殺の誘導弾は、対防御障壁用の転移弾だ。
しかし、一方で転移タイミングを間違えると、障壁を抜ける間に当たったり、あるいは目標を通り抜けてしまう危険性もあった。
「犬上! カウントよろしく!」
「了解。5秒前、3、2、1――」
投下!――烈風改の底部に装備された特マ式収納庫の扉が開き、800キロ対艦誘導弾が投下された。
彩雲偵察攻撃機などが搭載する収納魔法付き爆弾倉、これを烈風改は標準装備としている。
烈風に比べて、攻撃機としての能力が向上したのは、対艦誘導弾などの大型兵装を2本から4本搭載することができるからだ。それでいて、収納魔法だから投下するまで機体の重量に関係がなく、戦闘機としての軽快な運動性を阻害しない。
今回は、貴重な対防御障壁弾ということで、烈風改は各2発ずつを積んでいる。
誘導弾が2発、機体を追い越し、目標へと誘導されていく。須賀は、その煙に視界を覆われないよう注意しながら、その後を追う。
後続機が誘導弾を発射したようで、須賀機を追い抜いていく。それらは、烈風改に先んじて、ゲートリングの左へと飛んでいく。
「大尉、退避を……!」
「目標に集中しろ。しくじったら失敗だぞ!」
そして、誘導弾が視界からパッと消えたと思うと、ゲート発生機に相次いで爆発が起きた。手応えあり。最低でも7、8発は命中した!
「大尉!」
「わかってる! このままゲートを突っ切るぞ!」
旋回している余裕なんて端っからない。一番安全なのは、敵艦がいないゲートを突っ切るルートなのだ。上は例の小型機が大群で飛んでいて面倒である。
ゲート発生機が爆発する横で、須賀の烈風改はゲートの光へと突入した。
・ ・ ・
光は一瞬で消えた。ゲートの向こう側へ転移した烈風改。須賀の眼前には、異世界帝国の大艦隊。
どうやらソロモン諸島の南東、サンクリストバル島付近に到着したらしい。
周りは、圧倒的なまでに敵艦だらけ。空にも数十を超える戦闘機が、空中警戒を行っている。
「どうして! ゲートを潜ったんですか!」
普段冷静な犬上が、彼女とは思えないほどヒステリック気味な声を出した。
「転移離脱装置で、離脱できましたよね!?」
「それを使うのは後だ。犬上、後方を確認! ゲートはどうなった?」
「! ――ゲート、消滅を確認!」
「そいつを確認したかったんだ。だから離脱装置は使わなかったんだ」
戦果確認は大事だ。きちんと破壊できなければ、第二次攻撃隊――伊400潜水艦の転移中継装置で、基地航空隊を呼び込むしかなくなる。
「第二次攻撃隊は不要になったな」
「では、任務は完了です。離脱しましょう」
犬上がいつもの落ち着いた声になりつつある。しかし須賀は操縦桿を握り、機体を超低空で飛ばし、敵大艦隊のすぐ上を通過する。
「せっかくここまで来たんだ。一発ご挨拶しておくのも悪くない」
正面には、異世界帝国の旗艦級戦艦――メギストス級超弩級戦艦。
「正気ですか!?」
「こっちは遮蔽装置発動中だ。敵は見えていない。俺たちより、ゲートの方でパニックになっているさ」
須賀の言葉どおり、ムンドゥス帝国南海艦隊主力は、後方の転移ゲートが消滅したことで騒ぎになっていた。
予告もなく突然消えたのは、異世界帝国兵たちの動揺を誘い、その報告は旗艦へ集中。見張り員たちの注意もゲートがあった場所をチラチラと気にする始末だった。
遮蔽に隠れている日本機が飛び込み、艦隊に紛れ込んだことに気づく者は皆無だった。
須賀は、敵旗艦級戦艦へ真っ直ぐ突っ込む。手持ちは四門の光弾砲だが、嫌がらせくらいはできるはずだ。
「犬上、僚機はついているか?」
「後続に4機。誘導弾はありませんよ?」
「光弾砲で充分だ。目標は敵旗艦の艦橋! 電探や測距儀など、大事なモンを吹っ飛ばしてやれ!」
グングン迫る巨大戦艦。全長290メートルの巨体は、大和型を凌駕する。
だが、艦の頭脳といえる艦橋にダメージを与えれば、その戦闘力は大きく削られる。うまくやれば、戦闘参加も怪しくなる。
機銃じゃなくて、より威力のある光弾砲が烈風の装備でよかった――烈風改はトップスピードのまま接近。四門の光弾砲を連射した。
光弾は南海艦隊旗艦『アペイロン』の艦橋の複数カ所に直撃の火花を上げた。




