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第四六五話、ゲートへ突撃せよ


 シドニー近海、異世界帝国が使用する艦隊用ゲートは、遠くからでもその半円状のシルエットをよく確認することができた。

 須賀 義二郎大尉の駆る烈風改艦上戦闘攻撃機は、姿を隠して飛行していた。


 ――あれは見間違うことはないな。


 遠目からでは、艦艇の誤認はあるが、巨大アーチが海から突き出している姿は、異彩を放っている。それよりも目につくものは幾つもあるのだが、しかし――


「あまり思わしくない光景だな」


 須賀は思わず呟いた。道中、偵察機から敵の増援を確認という通信を拾ったが、現場について見れば、ゲート近くに異世界帝国の艦隊が集まりつつあった。


「こいつら、これからソロモン諸島へ行くのか……」


 連合艦隊主力が、ソロモン諸島に展開する敵大艦隊と交戦しようとしている。現状でも敵が多いのに、ここの艦隊が到着しようものなら、戦力差が開いてしまう。それは非常によろしくなかった。


「戦艦9、空母10、巡洋艦およそ30、駆逐艦60」


 後座の犬上 瑞子中尉が、十五航戦の彩雲偵察機の道中報告を繰り返した。


「ソロモン諸島に展開している四個艦隊、その一群に相応する戦力です」

「ただでさえ、弾薬が持つか怪しいのに、その上一個艦隊が増えたら……」


 弾薬切れで戦闘継続不可、撤退――ということもあり得る。それはさすがに許容できない。


「そうならないように、ここでゲートを破壊しないといけないな」

「そうですね」


 淡々と犬上は言った。


「……仕掛けられそうですか?」

「ちょっと接近する必要がありそうだ」


 須賀は深呼吸した。


「あれは何だ……戦闘機か?」


 ゲート周辺を蚊の大群の如く、小型航空機が周回している。何十というレベルではない、何百という大群だ。


「未確認の機体です」


 犬上は言った。


「ヴォンヴィクス型でも、エントマ型でもありません」

「艦艇と違って、異世界人の航空機は異形ばかりだったが……。こいつはまるで羽虫のようだ」


 しかもヴォンヴィクス戦闘機などより、さらに一回り小さい。それが、渦を巻くように編隊ごとに飛んでいる。ゲートという名の巣を守っているように。


「まさか生き物じゃないよな?」

「異世界帝国の生物型兵器は、これまでも複数例が確認されています。主に陸戦で、ですが」


 獣に武器をくっつけた兵器みたいなものがあるらしいというのは、須賀も聞いたことがある。あの小型航空機が、生き物とは思いたくないが、あまりに現実離れした光景に嫌な予感がする。


「犬上中尉、遠目から見て念のため確認するが、この位置から誘導弾を目標に命中させられるか?」

「射程内ではあります。けれど……」


 犬上はわずかに言葉を切った。


「あの周りを周回している敵の群れを避けて当てるのは困難です。……特にゲート発生機に直撃させようとするなら、まず誘導しきれないでしょう」


 あの小型航空機の大集団を避けるように誘導するのは、能力者をもってしても神業の領域ということだ。ゲートが破壊できなくてもよくて、どこに当ててもいいのなら、頑張れば何とかなる、と犬上は言っているが、もちろん、それでは任務失敗だ。


 ではどうするか? 決まっている。距離を詰めて、誘導弾を目標にぶつけるしかない。


「遮蔽装置に感謝だな」


 須賀は操縦桿を握り込んだ。


「でなきゃ、とても近づけないぜ」


 あの周回している小型航空機は、敵と見れば向かってくるだろう。襲われれば、数が数だから近づくのも難しかった。

 それはそれとして。


「犬上、僚機はついてこられるか?」


 彼女の使い魔たちが自動コアをサポートして動かしているという。犬上は、須賀のサポートをしながら、8機の烈風改を操っていることになる。


「何とかやります」


 きっぱりと言った犬上だったが、どこか逡巡したように思えた。努力はするが、無事に抜けられるか保証できないというところだろう。


 須賀は、破壊すべきゲート発生機とおぼしき装置を見やる。遠くからでもかなりの大きさがあるのがわかる。対艦誘導弾でも1、2発では破壊できるか不安。10発とは言わないが、5、6発は保険を兼ねて命中させたい。


 ――つまり、一個小隊分は確実に当てたいということだ。


 残りの二個小隊は、最悪道中失っても許容範囲としよう。須賀は口を開いた。


「突入する。道中で引っかかったら、二機ずつ切り離して、遮蔽解除した上で戦闘させろ」


 囮として使う。


「俺たちの他、最低でも2機は残して対艦誘導弾を使う。残りはやられてもいい」

「了解」

「行くぞ!」


 フルスロットル。烈風改が最高時速700キロ超えのスピードで転移ゲートへと直進する。

 僚機の姿は、こちらからでは振り返っても見えないが、おそらく一本棒か、小隊ごとに後続しているだろう。


 ――うへぇ。やっぱ気持ち悪っ!


 飛行する羽虫の大群に突っ込むような気分だ。もちろん、遮蔽で隠れていても接触すればやられてしまうので、集団の隙間を抜けていくように飛ぶ。


 ――これがなけりゃ、とっとと誘導弾を撃ち込んで終わったのに……。


 ツイてない。それにしても、この小型航空機は何なのだろうか。人間が乗っているとしたら、他のエンジンとかを載せるスペースがほとんどなさそうに見えるが。似たような周回ルートを延々と回っているようにも見えるが……。


「まるで機雷原に突っ込んでいるみたいだ」


 そう呟いて、空中機雷などという言葉が浮かんだ。どうしてその単語が浮かんだのかは須賀自身わからなかった。左方向から飛んでくる小型航空機の編隊を躱すべく、高度を下げて、接触を避ける。


 こちらは見えるが、向こうは烈風改が見えていない。衝突を回避するなら、敵は避けてくれないので、こちらが避けるしかない。

 バンっ、と後ろで爆発音がした。


「八番機、接触」


 淡々と犬上が報告した。


「七、九番機、遮蔽解除。対空戦闘――」


 最後尾の烈風改2機が、編隊を離れて戦闘を開始する。20ミリ光弾砲を乱射し、手当たり次第に小型機を攻撃するが――


「敵に動きあり。体当たり!」


 周回する敵機の大群の列がうねり出した。さながらウェーブのように。針路が変わったことで、こちらの侵入コースも変更を余儀なくされる。


「七番機、撃墜。……九番機、撃墜」


 感情のこもらない冷たい報告だった。囮として切り離した烈風改2機は、小型航空機の集団体当たりを受けて破壊されたのだった。

 残り6機。

・烈風改艦上戦闘攻撃機

乗員:1名乃至2名

全長:9.65メートル

全幅:12.22メートル

自重:2050キログラム

発動機:中島『誉』三二型、空冷2400馬力

速度:714キロメートル

航続距離:1880キロメートル

武装:20ミリ光弾砲×4 ロケット弾×6もしくは小型誘導弾×4 特マ式収納庫×1

その他:烈風艦上戦闘攻撃機に、遮蔽装置と特マ式収納庫を搭載した改良型。奇襲攻撃隊機として運用が可能であり、特殊作戦向けの小型空母での主力機となるよう設計・開発された。

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