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第四六三話、鳳翔特別戦闘攻撃機隊


 その召集は急だった。


 須賀 義二郎大尉は、大和航空隊の戦闘機隊隊長である。一式水上戦闘攻撃機に乗り、第二機動艦隊が前線にある時は、いつでも出撃できるように待機していた。


 が、ソロモン諸島での一大海戦が迫っている頃、部隊は実に慌ただしくなる。


 まず東南アジアに第二機動艦隊は派遣され、侵入した異世界帝国艦隊の撃滅作戦を遂行した。

 角田中将の水上打撃部隊は、敵艦隊を取り逃すことになるものの、先んじて行われた大和、武蔵航空隊による奇襲で、敵機動部隊の空母を叩くことに成功した。


 役目を果たし、生還した須賀だったが、間もなく二機艦は、ソロモン作戦のために東南アジアを離れた。

 その際、須賀の相棒である正木 妙子が、戦艦『諏方』の操艦助っ人として呼ばれた。


 かと思ったら、須賀自身も特別任務に選ばれ、ホ号潜水空母『鳳翔』乗組を命じられた。


「まあまあ、須賀大尉。こちらの作戦もソロモン決戦の上で重要だから」


 そう宥めるように言ったのは、諏訪(すわ)将治(まさはる)中佐である。かつては、連合艦隊司令部で情報参謀を勤め、今は九十一潜水隊の臨時参謀である。


 割と背が高めで、爽やかな顔立ち。これはさぞ異性にモテる男だろうと、須賀は思った。絵に描いたようなスマートな海軍軍人である。


「ゲートを破壊することは、連合艦隊本隊の決戦を有利にするためにも、必要不可欠なんだからね」

「……自分は何も言っていませんが?」


 この人は、心の中を読む力でも持っているのだろうか。魔技研と関係の深い九頭島出の佐官だから、この人も能力者ではないかと須賀は訝るのである。


「あれ、そうだっけ?」


 さして気にした様子もなく、とうの諏訪中佐は実にフランクな態度だった。


「まあいいや。とにかく、その最重要任務に、君が、君たちが選ばれた」

「……」


 ちら、と須賀は、隣に座る人物――切れ長の目を持つ冷静沈着美女の犬上 瑞子中尉を見た。

 アスンシオン島のゲート破壊作戦で、須賀が乗った二式水上攻撃機に搭乗した相棒である。思い起こせば、あの時も相棒は妙子ではなかった。


「中佐、質問よろしいでしょうか?」

「どうぞ、須賀大尉」

「我々しか、いないのですが?」


 搭乗員待機室は、見事に須賀と犬上、そして作戦説明の諏訪中佐しかいなかった。

 いくらこの『鳳翔』の艦載機が、ギリギリ二桁しかいない弱小航空隊だとしても、たった二人とは聞いていない。


「もう察しているんでしょ、大尉?」


 諏訪はあっさりと告げる。


 知っていた――須賀は小さくため息をついた。部隊の僚機は、全部自動コアによる無人機だということは。それでも、やはり、どこかで人間のパイロットが転移でやってきてくれないかと期待していたのだ。


「ご心配なく、須賀大尉」


 犬上が淡々とした調子で言った。


「私が制御しますので」

「……」


 これである。彼女は使い魔を操ることができる能力者だ。そして今回使用される僚機の自動コアは、使い魔による操縦――遠隔操作ともいうが、それを受けつける魔技研の発明品でもあるという。


 ――またぞろ、実戦で試験か。


 須賀は、自分が色々な機体にぶっつけ本番で乗せられてきたために、少々穿った見方をしてしまう。


 今回使用する機体も、複座ではあるが、本来は単座である烈風艦上戦闘攻撃機――最近では普通に戦闘機と呼ばれるが、本来の戦闘攻撃機としての能力を拡大した試験機だった。むろん、今回も実戦ではぶっつけ本番である。

 どうしても、裏に神明少将がいるのでは、と須賀は感じてしまう。魔技研でのあの人の評判を考えると特に。


「今回の任務は、シンプルだよ」


 諏訪は、本当に何でもないように告げる。


「君たちは、遮蔽装置付きの烈風改で、ゲートのあるところまで飛んで攻撃する。奇襲攻撃隊なら、いつもやっていることだし、須賀大尉は先日、セレベス海海戦でやったよね? それと同じだ」


 姿を消して、接近。敵に迎撃される間も与えず、一撃離脱。実にわかりやすい。


「ゲートは海上にある。船舶が移動できるんだから、まあまあ大きい。洋上から見れば巨大なアーチを描いた門のように見えるだろう。君たちには、それをぶち壊してもらいたい」


 最優先標的、と諏訪は言った。

 他に艦隊がいようが、大統領を乗せた航空機がいようがゲートを狙え、と。


「大統領?」

「例え話だ。異世界帝国の親玉が目の前にいたとしてもゲートを叩けって話。……帝国だから、皇帝になるのかな?」


 首を傾げる諏訪であるが、その辺りはどうでもいい話だと、須賀はそれ以上は聞かなかった。


「じゃあ、任務に取りかかろう。須賀大尉、(たま)ちゃん。よろしく頼む」


 タマちゃん?――須賀が見れば、犬上はコホンと咳払いした。


「公私混同は控えて頂いてもよろしいでしょうか、諏訪中佐」

「ああ、ごめんごめん。いつもの癖がね」


 諏訪は苦笑する。姪っ子なんだよ、彼女は――と須賀に説明した。軍務中ではいただけないが、プライベートではずっと『ちゃん』付けなのだろう。それ以上は突っ込まないことにする須賀だった。



  ・  ・  ・



 第九十一潜水隊は、シドニー近海に到着した。敵哨戒機がいないのを確かめ、各艦は浮上した。


 須賀は、『鳳翔』の格納庫にして、一列に並べられた試製烈風改、その先頭の指揮官機に搭乗する。元々あまり大きいとはいえない格納庫だが、艦載機をギチギチに詰め込まないだけあって、少し余裕を感じられる。

 複座仕様の烈風改の操縦席に須賀は乗り込み、後座に犬上が座った。艦内放送が流れる。


『発艦要員以外は、格納庫より退避せよ。搭乗員は機内で待機。1分後、転移甲板が起動する』


 ほいほい――須賀はコクピット内で首を回したりして体をほぐして時間を潰す。


 この潜水空母『鳳翔』は、艦載機用のエレベーターがない。格納庫と飛行甲板を行き来するそれがないことで、艦載機スペースが増えたわけだが、搭載や移動はどうするか?


 答えは、転移で格納庫と飛行甲板を行き来する。格納庫の床が、上の飛行甲板上に転移できる仕掛けになっており、機体を移動させるのである。転移甲板は一定間隔で区切られていて、一定範囲内だけ転移させることも、格納庫の床全体の上のものをまとめて転移させることも可能だ。


 これによりエレベーターのスペースが不要になるだけでなく、格納庫への出し入れを簡易に、収容時間を大幅に短縮できる。戦地での浮上後、発艦や収納速度を向上させるために開発された新装備である。


 待機していると、一瞬で周りの景色が変わった。灰色の格納庫から、波が荒れ狂い、風が吹きすさぶ飛行甲板へ。整備員たちが機体周りに、工具や備品が落ちていないか確認し、発艦準備が整えられる。轟々と誉発動機が唸る。


 須賀が機体の後ろを見れば、僚機である無人型烈風改がもお行儀よく整列し、出撃の時を待っている。飛行甲板の長さが短い『鳳翔』であるが、マ式レールカタパルトにより、滑走距離の問題はクリア済みだ。


「犬上中尉。後ろの連中は大丈夫か?」

「使い魔は配置済みです。いつでもどうぞ」


 冷静さを崩さない犬上である。今回は須賀を隊長に、8機の無人機がつく。わずか9機の攻撃隊は、発艦にかかった。

・ホ号潜水空母『鳳翔』

基準排水量:7600トン

全長:168メートル

全幅:17.98メートル

出力:マ式機関6万馬力

速力:28.8ノット

兵装:8センチ単装光弾両用砲×2 30ミリ光弾機銃×6

   艦首魚雷発射管×4

航空兵装:マ式カタパルト×3 艦載機15機

姉妹艦:――

その他:日本海軍最古の空母『鳳翔』を大改装したもの。空母としては小型過ぎ、練習艦としても不足だったため、特殊作戦用の潜水型空母となった。防御障壁、遮蔽装置など多数の装備を搭載。飛行甲板と格納庫を転移式にしたため、艦載機の移動にエレベーターが不要となった。特殊作戦用の母艦であるため、艦載機のほか、小型艇などを運ぶ揚陸艦としても使用が可能となっている。

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