表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
462/1115

第四六二話、第九十一潜水隊、南進す


 連合艦隊司令部は、ゲートの出入り口について、部隊を動かして調査を行っていた。


 ソロモン諸島南東部、サンクリストバル島近海にゲートが確認されたが、問題なのはこれがどこに通じているか、である。


 北マリアナ諸島アスンシオン島に、重爆撃機用のゲートが発生した時、その先はオーストラリア、エアーズロック近辺だった。

 その例もあって、ソロモン諸島のゲートは、必ず対となる出入り口があると、連合艦隊司令部は睨んだ。


 可能性が高いのは、シドニー近海。ここにいた大艦隊が、ソロモン諸島へ移動してきたとするならば、ゲートは当然、この近くにあるはずだ。


 連合艦隊司令部の推測を裏付けるべく、第十五航空戦隊の哨戒空母をオーストラリア東南部へ派遣して偵察させた。

 遮蔽装置を搭載した彩雲偵察機は、長駆飛行し、ゲート発見に務めた結果、シドニー近くの海上にゲートを確認した。


 ご丁寧に、ゲート発生装置はシドニー近海側にあった。つまり、ソロモン諸島のゲートをどうにかするには、こちらにきて破壊する必要があった。


 方法は二つ。

 ソロモン諸島、敵の大艦隊を突っ切るか、隙をつくかして、ゲートに入り、シドニー側ゲートに出て、攻撃するパターン。

 もう一つは、シドニー近海まで遠征し、攻撃隊を出してゲートを破壊する。


 距離こそあるが、警備状況を比べれば、どちらが容易かは言うまでもない。連合艦隊司令部は、ソロモン作戦開始に合わせて、シドニーに近づき、ゲートを破壊する案を選択した。


 その際、山本五十六長官は、展開中の哨戒空母で、ゲートを攻撃できないかと考えた。

 十五航戦の龍飛型哨戒空母は、各12、3機と小兵で、その艦載機は彩雲だ。だが攻撃機としての能力を与えられた偵察攻撃機型の彩雲改である。


 遮蔽によって敵の目を躱して、ゲートのみを直接攻撃できれば、兵力も分ける必要なく、簡単にケリがつくのではないか。

 山本は参謀たちに確認するが、樋端航空参謀の答えは、ノーだった。


『ゲートは敵にとっても重要装備です。防御障壁を展開していた場合、通常弾しか搭載していない十五航戦の艦載機では、破壊ができません』


 かつてのアスンシオン島のゲートは、日本海軍が航空攻撃によって破壊した。その轍を踏まぬように、異世界帝国軍も対策していると見るのが妥当だ。

 攻撃ができるという彩雲偵察攻撃機も、基本、想定されているのが通商破壊任務が主なので、防御障壁を抜ける武器は積んでいなかった。


 結局、貴重な障壁貫通兵器を持たせた別部隊が、やることとなった。


 そして派遣されたのが、第九十一潜水隊である。

 臨時編成部隊であるが、その構成は、ホ号潜水空母『鳳翔』と、潜水艦『伊400』、特務巡洋艦『春日』の3隻だ。


 命令を受けた九十一潜水隊は、転移によりオーストラリア南東海上まで移動すると、一路シドニーへと向かった。



  ・  ・  ・



 ホ号潜水空母『鳳翔』は、日本海軍最古の空母『鳳翔』が大改装されたものだ。


 開戦時より、小型の艦体のため、大型化する機体による艦載機収容数の低下、第一線で使用するのが困難な旧型空母であった。


 日本海軍は航空隊の練習用空母だったり、試験艦として運用した。

 だが、新型機での練習に使うにも、艦体の小ささは問題であり、外洋航行能力を失ってでも飛行甲板を大型化する改修の話が出た。


 しかし鹵獲艦艇が余っている状況にあって、航空隊の訓練には、より大型の異世界帝国軽空母を利用すれば、わざわざ『鳳翔』を改装する必要がないのでは、という話になった。


 ならば、他の小型空母のように、哨戒空母として使う案も出されたが、これも龍飛型を増やすことで賄えると却下された。


 そこで出てくるのが、魔技研――軍令部第五課である。

 特殊作戦用のキャリアーとして使える潜水可能空母を、特殊作戦群――のちの稲妻師団が欲したこともあり、『鳳翔』を使って、まったく別物とも言っていい大改装が行われた。


 ホ号潜水空母も、当時は仮の名称だった。潜水機能の他、機関含め、内部構造の刷新と新型装備、さらに転移中継装置などが搭載された。


 艦載機搭載数については、格納庫スペースは増えたが、艦体が大きくなったわけではないので、相変わらずの少数だ。だが、マ式カタパルトや新式甲板の採用で、その運用能力はより効率的となっている。


 さらに特殊作戦の輸送艦としても使えるよう複数の揚陸艇の搭載、展開能力も有しているが、その際は艦載機格納庫の取り合いとなるので、航空機を積める数は減る。


 基準排水量7600トン。全長168メートル、艦幅17.98メートル。マ式機関6万馬力で28.8ノットの速力を持つ。艦載機は、約15機前後。

 武装は8センチ単装光弾両用砲2門、30ミリ光弾機銃6門。そして潜水艦でもあるので艦首に魚雷発射管を4門を装備する。


 次に、潜水艦『伊400』だ。こちらは、潜水艦に水上攻撃機を搭載した潜水空母として原案が出て、作られたものだが、その建造は二転三転した。

 当初は特殊攻撃機を3機搭載して運用。潜水隊で敵地近くに進出し、奇襲攻撃をかけるという想定がなされたが、異世界帝国との開戦、そして魔技研の技術が本格的に取り入れられる段階となり、そのあおりを受けたのだ。


 水上艦にも潜水機能を持たせる技術の採用。潜水艦に艦載機を積むよりも、多数の艦載機を搭載できる空母を潜水できるようにしたほうがよい――その考えに至るのは、自明であった。


 しかし、空母は大規模な戦闘海域に用いられることが多いので、やはり奇襲専門部隊としての、攻撃機搭載型潜水艦も使えるのではないか、となり、伊400型は承認、建造されることになった。


 だがこの頃には、魔技研の技術が普及していたから、マ式機関による高速化、重力バラストによる潜水艦の構造自体の変更と相まって、大型ではあるが、その建造ペースは大幅に早まる結果となる。


 しかし、航空機を搭載する案については、転移技術の発展と、哨戒空母の存在の影響で見直しとなる。結果、導き出されたのが、転移巡洋艦の潜水艦バージョンだった。

 大型の転移中継装置を搭載する余裕があった伊400型は、増加予定だった転移艦に流用されることになったのだ。


 せっかくの潜水空母として生まれる予定だった伊400型だが、ここ最近になって、航空隊も転移中継装置で導くという戦術が開発されたことで、本来の潜水空母に近い運用ができるようになったのは、皮肉である。


 かくて、基地航空隊を艦載機替わりに運用できるフネとして、『伊400』が、『鳳翔』と行動を共にすることになった。


 その2隻の護衛につくのは、特務巡洋艦『春日』だ。こちらは日露の関係悪化により、イタリアで建造中だったアルゼンチン向けの装甲巡洋艦を、日本が購入したものの改装艦である。


 つまりは、日露戦争時の旧式であり、他の装甲巡洋艦と同様、なんやかんやで1940年代まで残っていたが、1942年7月に、『浅間』『吾妻』と同じく軍艦籍を外れ、特務艦になっていたところを、軍令部第五部が練習艦として用いて、魔改造を施した。


 他の装甲巡洋艦と違い、全長105メートル、基準排水量7700トンと、一回り小さいために、特務巡洋艦への改装も少々異なるものとなっていた。名前もまだ流用されていなかったため、『春日』のままで運用され、今回の護衛任務に駆り出された。


 かくて、3隻からなる九十一潜水隊は、潜行と浮上を繰り返しながらシドニー近海の転移ゲートに迫りつつあった。

 そして、ホ号潜水空母『鳳翔』に、大和航空隊隊長、須賀 義二郎大尉がいた。


 ――どうしてこうなった?


 自分は、第二機動艦隊の戦艦『大和』と共にソロモン作戦に参加するはずではなかったのか?


 艦内の搭乗員待機室にいる須賀は、思わず天井を仰ぐのだった。

・伊400型潜水艦『伊400』

基準排水量:3240トン

全長:122メートル

全幅:12メートル

出力:魔式機関2万馬力

速力:水上25.7ノット/水中19ノット

兵装:53センチ魚雷発射管×8(20本) イ式光線砲×1 誘導機雷×40

航空兵装:――

姉妹艦:伊401、伊402、伊403、伊404、伊405

その他:改マル5計画で建造されることになった潜水空母。水上爆撃機を3機搭載し、敵地近海に進出、集合のち攻撃隊を放つ想定で建造がスタートしたが、魔技研技術の導入と、潜水型空母の登場などにより、計画は紆余曲折。建造数も18隻から12隻、最終的に6隻となった。潜水空母としての計画は白紙となるが、転移中継装置を積んだ転移潜水艦としての運用が行われることになり、装置を利用した基地航空隊の転移移動などで、本来の想定だった潜水空母に近い運用が可能となった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ