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第四六〇話、新旧艦の饗宴


 彩雲改偵察機による報告で、誘導機雷を敵の針路上に撒いた第十水雷戦隊。


 大体の位置に、どれかが引っかかってくれれば、後はそこに残る機雷を誘導すればいい。そんな感じで散布された機雷が、異世界帝国艦隊の先頭艦に接触し、残る機雷は吸い寄せられるように集まった。


 そしてそれとは別に、潜水航行中の第九艦隊主力から、第八十四戦隊の特務巡洋艦『足尾(あしお)』『八溝(やみぞ)』『静浦(しずうら)』が、乗艦する能力者の力を借りて、遮蔽に隠れている敵に雷撃を行った。


 放たれた誘導魚雷は各2本ずつの合計6本。それらは、動き回れると面倒な敵駆逐艦列に1隻1本ずつを誘導し、命中させた。潜水行動する艦隊にとっての最大の厄介者、それは敵駆逐艦である。

 機雷によって先頭が艦首を潰され轟沈する中、航続の6隻が血祭りに上げられた。


「全艦、浮上!」


 第九艦隊司令長官、新堂中将は、潜水していた主力部隊を浮上させた。


 敵の目を引きつける役である信濃部隊も動き出す。軽空母『神鷹』『角鷹』と水上機母艦『千歳』が、駆逐艦2隻の護衛で回頭、離脱に移り、戦艦『信濃』と駆逐艦『鱗雲』『朧雲』が、その主砲を敵艦隊がいると思われる海域に向けた。


 異世界帝国艦隊の前方ならびに側面を塞ぐように、次々と浮上する新堂艦隊。大型巡洋艦『妙義』『生駒』、戦艦『諏方』が正面を、左翼側に重巡洋艦『標津』『皆子』、特務巡洋艦3隻、妙風型駆逐艦4隻が姿を現す。


『敵艦隊は、現在、航行停止中。単縦を形成しつつ、前の艦との間隔およそ500メートルの位置に後続艦あり』


 彩雲改が、遮蔽を見抜く能力者の観測結果を、艦隊に知らせる。被弾、沈みつつある艦以外は、相変わらず遮蔽で姿が見えない。だが洋上停止しているならば、そこを狙えば当たるということだ。


「各艦、各戦隊指揮官の攻撃目標指示に従い、攻撃を開始せよ」


 新堂の命令が飛んだ。

 損傷、傾きつつある敵艦が、列のおおよその目安を提供する。異世界帝国側は、先頭と駆逐艦列で被弾が相次いだ結果、盤面の線に如く、他列の、そこにいるだろう艦のおおよその位置を推測させた。


 口火を切ったのは『妙義』『生駒』だった。30.5センチ砲弾を発射。空母列の2番艦の位置に、たちまち水柱と命中に爆発が起きる。


 重巡洋艦『標津』『皆子』が、20センチ連装光弾砲を発射する。標津型重巡は、イタリア重巡『トレント』『トリエステ』の改装艦である。

 イタリア初の条約型重巡洋艦であり、後継のザラ級共々、日本海軍で回収され、潜水型の突撃巡洋艦となった。比較的、近距離での撃ち合いを想定し、主砲は速射性と直進性の高い光弾砲としている。基準排水量1万1000トン、全長196.96メートル。やや装甲は薄いものの、15万2000馬力で36ノット近い高速力を誇る。


 光弾砲が矢継ぎ早に、透明の敵艦に突き刺さる中、特務巡洋艦3隻も攻撃に加わる。艦首と艦尾に装備した主砲であるイ型光線砲を発射、一撃で敵巡洋艦の艦体を溶断、轟沈させた。


 この特務巡洋艦は、こぢんまりしたシルエットだった。全長は、大型駆逐艦程度だが、艦幅は重巡に近い幅広だ。

 それもそのはず、『足尾』『八溝』『静浦』は、日露戦争時代を現役に戦った旧型装甲巡洋艦の改造型だったのだ。



  ・  ・  ・



 日露戦争を戦った六六艦隊を構成する装甲巡洋艦は、1940年代になっても、日本海軍は保有していた。ワシントン、ロンドン軍縮条約においても、一線級戦力にも見られかった旧式だったが、敷設艦や海防艦、あるいは練習艦として余生を過ごしていた。


 が、さすがに設備の旧式化と、鹵獲、改修艦に人員を回した結果、これらの大半の艦が練習特務艦に編入されることになった。

 そして1943年には、武装の撤去工事の指示が出たものの手が回らず、放棄されていた。……だがこれを、軍令部第五部、魔技研が目をつけた。


 生産、整備系能力者向けの練習艦という名の実習素材となったこれら装甲巡洋艦は、艦体や鋼材を新品のように再生する魔術に用いられ、能力者のコピー能力によって作られた新型部品や装備を注ぎ込まれた。


 半ば、新人技術系能力者たちによって魔改造されたこれらは、新型兵器の実験艦として使われることになり、今回の第九艦隊増援戦力として、八十四戦隊を編成、実戦に現れたのだった。


 元の艦名が、特務練習艦になった頃に、別艦へ流用されるようになっていたため、新たに特務巡洋艦として、山岳名を与えられることになる。


『足尾』が、旧装甲巡洋艦『吾妻』、『八溝』は同装甲巡洋艦『八雲』、『静浦』も旧装甲巡洋艦『浅間』がベースとなっている。

 これらは9300トンから9700トンほどあった重量が、装甲を見直し、一部撤去、整理した結果、およそ5000トンになった。


 全長は大体135メートル。当時の艦艇は建造国が違ったり、大きさにばらつきがあるので、大体の数値である。


 潜水行動可能処置と、マ式機関への換装――スペースの都合上、駆逐艦の機関を装備したそれらは6万馬力、平均28ノット前後の最大速力を発揮する。


 武装は、イ型光線砲を主砲として二基。これは装填システムを搭載した新型砲だ。それまでは魚雷発射管よろしく、1発1門の使い捨て型だったが、リボルバーよろしく回転式弾倉を装備することで、1門につき6発発射可能としたものだ。従来型が三連装が主であるから、こちらの新型は倍の数を発砲できる代物となっている。


 他に、対空・対艦両方の14センチ単装光弾砲四基。30ミリ光弾機銃十二基。かつては副砲が置かれた場所は改装により、魚雷発射管や対潜短魚雷投下機に変更されている。


 かくて、リニューアルされたかつての装甲巡洋艦は、特務巡洋艦として再び最前線に登場したのだった。



  ・  ・  ・



 主砲が6発。二基で12発しか使えない巡洋艦を、普通の巡洋艦として扱ってよいのか?


 旧式装甲巡洋艦の魔改造艦という話を聞き、さらに最大火力も回数制限ありとくれば、それを預けられた新堂も、扱いには考えさせられた。

 光線砲にしろ光弾砲にしろ、弾道がほぼ直線になるから、長距離砲撃には向かない。しかし火力はある。


 が、最大速度は30ノット以下。潜水可能だから、それで距離を詰めたら、敵艦を手当たり次第、光線砲で撃破して下がれ――そういう戦い方をさせた結果、本来は温存したい気分にさせられる光線砲を、特務巡洋艦の3隻はガンガン使用した。


 長時間戦闘ができる艦ではないことは、これらの乗組員たちも把握していた。異世界帝国の巡洋艦列は、『足尾』『八溝』『静浦』によって、あっという間に半減した。


 艦側面の副砲である14センチ単装光弾砲が、遮蔽に隠れている敵艦を探り、命中を確認すると、そこへ主砲の光線砲を撃ち込む。


 遮蔽により防御障壁が使えない敵艦は、光線砲によって次々に沈められた。駆逐艦列、巡洋艦列が、瞬く間にやられ、残る戦艦、空母と後続駆逐艦は、隠れるのを諦め、防御障壁を展開した。

 姿を見せればこっちのもの。とはいかない。障壁によって、攻撃が弾かれるようになったのだ。


 だが、46センチ砲装備の大和型戦艦『信濃』が、その強烈な一撃で障壁を弱らせ、さらに障壁などお構いなしに、アルパガスの三連光弾砲を再現、装備した『諏方』が、オリクト級戦艦すら一斉射で大破、沈没寸前にまで追い込んだ。


 テシス大将のいない紫星艦隊は、ここに壊滅しつつあった。

・特務巡洋艦『足尾』(装甲巡洋艦『吾妻』)

基準排水量:5216トン

全長:135.9メートル

全幅:18.1メートル

出力:マ式6万馬力

速力:28ノット

兵装:イ型光線砲×2 14センチ単装両用砲×4 30ミリ光弾機銃×12

   61センチ四連装魚雷発射管×2 53センチ艦首魚雷発射管×4

   対潜短魚雷投下機×2

航空兵装:――


・特務巡洋艦『八溝』(装甲巡洋艦『八雲』)

基準排水量:5395トン

全長:124.6メートル

全幅:19.6メートル

出力:マ式6万馬力

速力:27.5ノット

兵装:イ型光線砲×2 14センチ単装両用砲×4 30ミリ光弾機銃×12

   61センチ四連装魚雷発射管×2 53センチ艦首魚雷発射管×4

   対潜短魚雷投下機×2

航空兵装:――


・特務巡洋艦『静浦』(装甲巡洋艦『浅間』)

基準排水量:5400トン

全長:134.72メートル

全幅:20.45メートル

出力:マ式6万馬力

速力:28.1ノット

兵装:イ型光線砲×2 14センチ単装両用砲×4 30ミリ光弾機銃×12

   61センチ四連装魚雷発射管×2 53センチ艦首魚雷発射管×4

   対潜短魚雷投下機×2

航空兵装:――


その他:六六艦隊の一角を担った装甲巡洋艦。旧式であるが、魔技研の技術試験艦としてそれぞれ改装された。

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