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第四五九話、潜伏艦隊に迫る脅威


 第九艦隊は、能力者の乗る彩雲改偵察機の情報で、遮蔽で姿を消している異世界帝国艦隊に近づきつつあった。


 姿を消している敵艦隊にどう戦うか。艦隊司令長官である新堂中将としては、敵艦隊撃滅を命じられているため、確実に敵を捕捉。そしてスルーされることなく交戦しなくてはいけない。


 そこで彼が打ち出したのは、自艦隊を、劣勢の部隊に見せかけることだった。


 戦艦『信濃』、軽空母『神鷹』『角鷹』、水上機母艦『千歳』、駆逐艦『鱗雲』『朧雲』『霧雲』『畝雲』のわずか8隻のみを海上にて進軍させる。


 十中八九、敵偵察機がこの小部隊を発見するだろう。大和型戦艦の『信濃』の存在は敵を怯ませる可能性はあるが、遮蔽で隠れている艦隊が、不意打ちでダメージを与えることができれば、そのまま勢いで押してくる可能性もあった。


 もっとも奇襲はさせないつもりの新堂である。

 旗艦『妙義』にあって、新堂率いる第九艦隊主力も、前衛の囮である『信濃』部隊に随伴する。

 そして、潜伏する異世界帝国艦隊と、第九艦隊はすれ違う。


「――敵はやり過ごす方を選んだようですな」


 倉橋参謀長は、偵察機からの実況報告を受けて、そう口にした。司令長官席の新堂は首肯する。


「あくまで艦隊と交戦せず、任務を遂行する腹だろうな」


 現地の日本軍を隙をつき、ひたすら領海内に潜伏することでプレッシャーを与えるつもりなのだ。


「仕掛けてこないというなら、先手はこちらがもらっていいだろう」

「はい、長官」


 敵は無視しても任務に差し支えないが、第九艦隊は無視してはいけない。姿を消している敵艦を炙り出して、沈めねばならない。


「だが、これは好機でもある。遮蔽で隠れている敵は、防御障壁を使用できない」


 障壁を展開すれば、その防御の光が目視で観測できてしまうからだ。それでは遮蔽の利点を活かせない。


「つまり、敵の防御を気にせず、先制できるということだ」


 この寄せ集めに近い、扱いに癖のある艦隊でも、一方的に敵を葬ることが可能ということでもある。


『戦艦「信濃」の右舷方向2万。我が隊の正面3000に、敵駆逐艦の単縦陣。巡洋艦、戦艦、空母でそれぞれ縦陣を構成しているとのこと』


 偵察機からの観測報告が入る。信濃部隊から離れ、新堂の第九艦隊主力は、敵潜伏艦隊への距離を詰めつつあった。

 現在、新堂の主力部隊は全艦艇が潜水状態にあり、信濃部隊が敵の注意を引いている格好だ。


「まだこちらに気づいていない……と見ていいのか」

「あるいは気づいていても、潜伏を選んで動かないのかもしれません」

「敵は、こちらが近づいているのを偶然と見ているのか。本当にまだ気づいていないのか」


 前者の可能性は低いと、新堂は思う。部隊を二つに分けて、片方が直進してくるなら、自分たちの存在に気づかれているのでは、と勘ぐってもおかしくはない。


『敵艦隊、現在微速にて移動中』


 しかし、異世界帝国艦隊に目に見えて変化はない。波の視認が難しい超微速での前進を継続している。


 遮蔽で隠れている以上、何かあっても急激な回避運動は不可能。やるなら今だ――新堂は口を開いた。


「第十水雷戦隊へ。敵艦進路上に誘導機雷散布を開始せよ」


 旗艦『妙義』からの魔力通信を受けて、軽巡洋艦『鈴鹿』に率いられた初桜型潜水型駆逐艦8隻と、妙風型駆逐艦4隻が、潜水高速航行を開始した。

 倉橋が、新堂を見た。


「雷撃はかけないのですか?」

「海の上より見やすいが、敵がぼんやりしていて、誘導手には判別しづらいだろう。もっと距離を詰めればあるいは……」

「特務巡洋艦の八十四戦隊にやらせるのはどうでしょうか? 聞けば、遮蔽状態のものもある程度、感知できる能力者が乗艦しているようですが」

「オレも、八十四戦隊についてはよく知らんのだが」


 新堂は前置きした。何せ寄せ集めの上、急に飛び入り同然に参加したのが、第八十四戦隊である。


「やれるのか?」

「他の部隊よりは、見えていると思います。やらせてみて、無理だと言うなら諦めて別の手に切り替えましょう」

「これだから、ぶっつけ本番は嫌いなんだ。よろしい、やらせたまえ」


 新堂が苦笑した。

 第九艦隊主力は、いまだ姿を消している敵艦隊に対して、先手を打っていく。


 初桜型潜水型駆逐艦は、通商破壊任務をこなす性質上、誘導機雷を16個を搭載している。潜水状態で4個単位で射出することができる初桜型は、各艦12個、合計96個を、敵潜伏艦隊の先にバラまいた。


 海上では、忍んでいる異世界帝国艦隊と、囮の信濃部隊がすれ違いつつある。敵は、やり過ごそうと息を潜めている間に、自分たちの道にマキビシよろしく機雷が散布されたことに気づかなかった。


 そして、彼らは虎の尾ならぬ、誘導機雷を踏みつけた。



  ・  ・  ・



 突然の爆発と振動。紫星艦隊は、四列の縦列で微速航行をしていた。


 駆逐艦列から順に、巡洋艦列、戦艦列、空母列という風だ。

 それぞれ駆逐艦10。巡洋艦10。戦艦3、駆逐艦5。空母5、駆逐艦5という並びだった。

 が、その先頭を行く駆逐艦、巡洋艦、戦艦、空母は、それぞれ艦首に衝撃を受けた。


「何事だ!?」


 戦艦戦隊司令官、トレケイン少将は叫んだ。座乗する旗艦『ゲネティア』は遮蔽行動中。攻撃を受ける可能性はないはずだった。


 右舷側を抜けていくヤマトクラス戦艦を含む小艦隊は砲を向けていないし、何かしらの攻撃をした兆候もなかった。


 そう、紫星艦隊側は、目の前の大物戦艦に注意を払いすぎて、海中に別動隊が潜んでいることを見逃していたのだ。


『艦首に被雷の模様!』

「魚雷か――うおっ!?」


 再び衝撃が、それも連続した。


 最初の爆発で、展開していた周りの誘導機雷をそちらに集めたのだ。結果、見えないままだが密集してきた機雷により、損傷艦が追い打ちをかけられる格好になる。

 微速で進んでいたことで、艦首の浸水もある程度抑えられると思われた。が、同じような場所に立て続けに食らえば、その限りではない。

 隔壁を破り、さらに海水を飲み込んだ『ゲネティア』は、艦首から沈降していく。


「くそっ! こんなことって――」


 浸水が加速し、オリクト級戦艦は海に引きずり込まれる。それよりも先に、駆逐艦と巡洋艦列の先頭艦が、姿を現し、しかし沈んでいた。


 炎上、傾きつつある空母列先頭のリトス級大型空母『ポルティア』。指揮官ランベルー中将が喚く間にも、駆逐艦列の駆逐艦が次々に攻撃を受けて、撃沈されていく。

 完全に、してやられた。

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