第四五七話、ソロモン方面作戦会議
連合艦隊は、異世界帝国のソロモン方面反撃に対して、これを叩く方針で動いていた。
東南アジアには、囮艦隊と第九艦隊を配置することで、連合艦隊主力は、南東方面に出撃する。
ソロモン方面に展開する異世界帝国艦隊は、サンクリストバル、ガダルカナル、マライタの三島の間の海域に主力艦隊を置き、ガダルカナルの北にあるフロリダ島と、さらに北東にあるマライタ島の間の海域にさらに艦隊を配置している。
「敵は、こちらの侵攻方向について、三つのルートを想定していると思われます」
連合艦隊参謀長、草鹿 龍之介参謀長は告げた。
「ソロモン諸島の間を島伝いに向かう正面ルート。ソロモン諸島の北方を周り込むルート。そしてニューギニア方面から、ガダルカナル南方から進入するルート……この三つです」
地図を前に、参加する艦隊の司令官、参謀長らに説明する。
この席には、連合艦隊司令長官、山本五十六長官と司令部ほか、第一艦隊司令長官、原忠一、第一機動艦隊司令長官、小沢治三郎。同水上部隊指揮官、栗田健男。
第二機動艦隊司令長官、角田覚治。同航空部隊指揮官、山口多聞。
第六艦隊司令長官、三輪茂義。
第八艦隊司令長官、遠藤喜一。
南東方面艦隊司令長官兼、第十一航空艦隊司令長官、草鹿任一。第一航空艦隊司令長官、福留繁。
そして各艦隊参謀長たちがいた。
「正面ルートには、フロリダ島西に展開する艦隊。北方ルートに対しては、フロリダ島の北、あるいはサンクリストバル島、ゲートに近い位置にいる敵艦隊。南方ルートには、先ほどのフロリダ島西の艦隊と、三島の間に展開する主力艦隊が迎撃できる配置となっています」
つまり、大まかに、異世界帝国軍は、四つの艦隊に分かれてソロモン諸島にいるということだ。
「本隊を甲。フロリダ島北の艦隊を乙、同島西の艦隊を丙。ゲート前後衛艦隊を丁と呼称します」
偵察機による報告では、甲艦隊こと本隊に、旗艦級戦艦を含む戦艦11、空母10、重巡洋艦20、軽巡洋艦20、駆逐艦40、その他輸送艦多数。
乙艦隊は、戦艦9、空母10、重巡洋艦9、軽巡洋艦16、駆逐艦40。
丙艦隊は、戦艦14、空母11、重巡洋艦15、軽巡洋艦15、駆逐艦50。
丁艦隊は、戦艦9、空母10、重巡洋艦8、軽巡洋艦15、駆逐艦35。
合計、戦艦43、空母41、重巡洋艦52、軽巡洋艦66、駆逐艦165。ほか輸送艦など150あまり。
戦艦、空母数はあまり変化がないが、巡洋艦、駆逐艦が以前より増えている。第一機動艦隊による夜襲で、中・小型艦、輸送艦を大いに叩いたにも関わらず。
「数が増えたのは、ゲートを使って来たものと思われます。後方拠点をぶ号作戦にて叩いたわけですが、補給もゲート経由で賄っていると考えられます」
「つまりだ」
山本五十六大将は、将官たちを見回した。
「ソロモン諸島の敵を直接叩かなければ、何も解決しないということだ」
「さらにもう一つ懸念点として、異世界帝国軍は、フロリダ島に即席の拠点を作り、水雷艇とおぼしき小型艇を配備していることと、ガダルカナル島に飛行場を複数建設しつつあり、うち一つは完成も近いことが判明しております」
我々が相手をするのは、艦隊だけではない。
「甲・乙・丙・丁各艦隊は、仮に一つの艦隊が交戦しても、2、3時間以内に近隣艦隊が到着できる位置にあります」
各個に分散しているものの、手早く片付けられなければ、時間と共に敵が増えていくことを意味する。素早く撃破できても、急行した次の艦隊との連戦となり、弾薬の消費によっては、艦隊は健在でも戦闘継続が困難になる恐れがあった。
「効率よく戦う必要があるというわけだ」
山本の発言に、各司令官らは頷いた。そして問題になるのは、どう戦っていくかだ。
草鹿参謀長は発言した。
「まず、我々がすべきことは、敵後方にあるゲートを、艦隊と分離させることです」
ざわ、と指揮官たちは予想外の言葉に緊張を走らせた。
「現在、敵の補給を担っているゲートですが、物資や艦艇が遅れるということは、戦闘艦隊も増援として現れる可能性もあるということです。敵艦隊との交戦中に、さらに武装した艦隊が現れては、我々は窮地に陥るでしょう」
弾薬欠乏の隙を狙われ、撤退するしかなくなるかもしれない。
「ですので、後顧の憂いを断ち、増援を気にせず戦えるようにします」
まずゲートの排除。しかるのち、敵艦隊と決戦を仕掛け、これを撃滅する。
手順としてはこうだ。
まず第一艦隊ならびに第一機動艦隊が、島伝いの正面ルートから進撃し、敵の注意を引き付ける。
その間に、敵の想定の外より、別動隊が接近。ゲートへ攻撃隊を放ち、これを叩く。
しかるのち、全軍をあげて敵艦隊を撃滅する。転移を駆使しつつ、敵に肉薄。砲撃戦と航空攻撃を連動させて、反復攻撃。ソロモン諸島の制海権を確保する。
方針が示された後、各部隊の役割が説明され、いかに敵を減らすか、戦術面における連携について活発な意見が交わされた。
山本は、この場では敢えて、次――インド洋があるから温存しようとか、極力損害を受けないように戦おう、などとは口にしなかった。
何事も中途半端はいけない。温存を言い訳に、決定的な勝機を逃してはならないからだ。
かくて、連合艦隊は、ソロモン諸島攻略に動き出す。
各艦隊司令官、参謀長らが退出する中、通信長が足早にやってきた。
「失礼します、長官。第九艦隊より入電です」
第九艦隊と言えば、東南アジアの件である。
「読め」
「はっ。ジャワ海を東進する敵潜伏艦隊、発見。戦艦3、正規空母5、巡洋艦10、駆逐艦20を確認。これを撃滅せんとす。以上です」
「捉まえたか。思ったより早かったな」
山本は相好を崩す。
囮艦隊と、第九艦隊を送ったばかり。潜伏艦隊ということは、想像通り、遮蔽によって隠れていたのだろう。
こんなに早く潜伏していた異世界帝国艦隊を発見するとは、ツイている。決戦前に不安の種がなくなるのは好ましいことだ。
第九艦隊には、ぜひ余計な手間と時間を使わせてくれた敵を叩き潰してもらいたい。内地の陸海軍上層部がうるさいから。
・ ・ ・
東南アジア、ジャワ海を東進していた紫星艦隊を発見したのは、彩雲改偵察機、吉沢 丞二中尉が機長を務める機体だった。
しかし、当の吉沢は、いくら目を凝らしたところで、敵の姿は影も形もわからなかった。
「芦屋兵曹長、本当にいるんだな?」
「間違いありません。虫がたかっているように見えて、気持ち悪いです」
能力者である芦屋 晶江兵曹長は、そう嫌悪感を見せた。人の命が見えるという彼女が言うには、艦艇にいる人間の生命の光が目視できるらしい。
高空からは、全長200メートルを超える艦艇もマッチ箱程度の小ささで見えるから、粒々した光が集まっているように感じられるのだろう。
それを見る力がなくてよかったと吉沢は思う反面、そこにいるという敵艦が見えないのは、もどかしくもあった。
「第九艦隊が来るまで、我々は遮蔽で隠れたまま待機だ。芦屋兵曹長、敵に動きがあったら報告!」
「了解!」




