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第四五四話、ハンター部隊


「南太平洋に行ったと思ったら、東南アジアに行けと言われたものだ」


 第九艦隊司令長官、新堂 儀一中将は苦笑した。


 アメリカ軍が進めている南米上陸作戦『バックヤード』に参加するか否か。軍令部と連合艦隊で話し合いが行われている。

 しかし連合艦隊は眼前の敵への対処で、南米について考える余裕はなかった。それならば軍令部直轄の第九艦隊を中心とした戦力で、米軍を支援する――という案が出た。


 運用試験を兼ねて、第九艦隊は、第一機動艦隊が遂行したぶ号作戦に参加。よい実戦経験を得られた、と内地に戻ったのもつかの間、東南アジアに異世界帝国艦隊が襲撃をかけてきたことで、出撃の命令が下った。


 連合艦隊はソロモン方面作戦を進めたいから、それに参加する予定がない第九艦隊にお鉢が回ってきたのだ。


 元々、第九艦隊は、魔技研の技術試験部隊の側面があって、艦隊決戦に参加する部隊ではない。それ故、ソロモン決戦にも呼ばれなかったのだが――


「東南アジアに侵入した敵の規模は、現状の第九艦隊が正面からぶち当たって制圧できるものではない」


 新堂は、事実を告げる。

 ぶ号作戦で用いた戦力で、第九艦隊が今も預かっている戦力は、大型巡洋艦2、軽空母2、特務艦2と、水雷戦隊もどき。


 これで、潜伏していると思われる敵の戦艦3、正規空母5、巡洋艦10、駆逐艦20と戦うのは厳しいと言わざるをえない。


 配備されている南遣艦隊も駆逐艦以下の小型艦ばかり。味方の基地航空隊も、南東方面艦隊はソロモン方面に行くし、第九航空艦隊もそちらで使われそうな状況であった。


 つまり、第九艦隊の他は、東南アジアの各飛行場にある少数の航空隊の寄せ集めであり、頼りになりそうにない。


「もちろん、お前のことだから、その辺り考えて具申したのだろう、神明」

「はい」


 テーブルを挟んで向かい合うは、第一機動艦隊参謀長の神明少将だ。そもそも、魔技研にいた時期が長いのもあって、能力者については把握しているからこその提案である。


「連合艦隊司令部には、樋端が話をつけていると思うので、こちらはハンター部隊を編成し、それを新堂さんにお任せしようというわけです。……即席ですが」


 新堂が差し出したメモを、新堂は受け取る。


「ほう、これは……本当なのか?」


 些か信じられない顔になる新堂である。


「大戦艦2隻が加わるのは頼もしいが……。使えるのか? ソロモン方面作戦に呼ばれていないフネだろう?」

「『信濃』の方は、実戦経験がないですから不安はあります」


 大和型戦艦3番艦、その名は『信濃』。先の『大和』『武蔵』同様、建造途中に潜水型戦艦として改設計され、その後、魔核生成による建造ブーストで1944年2月に完成。練度向上のための訓練中である。少人数化、自動設備も最新のものだが、魔核で操作する能力者の方に習熟が必要というところである。


「ただ、多少の荒療治も必要かな、と思います」


 一日でも早い艦隊配備のためにも、経験を積ませておきたい、というのが神明の本音である。その能力者については、魔技研時代によく知っているから余計にである。


「で、こっちの……この『諏方(すわ)』とかいう見慣れない艦名は、アレだろう? アルパガス」

「そうです」


 一撃三連の光弾砲を搭載した戦艦『アルパガス』を、現在の技術で再現したのが、戦艦『諏方』である。


 なお日本海軍の戦艦名は、旧国名――令制国のことだが、その名前がつけられる。艦級が変わったせいでそのままという例外もあるが、基本はそれだ。そして『諏方』は、信濃国から分立し、その後10年で戻った極めて短命だった国だったりする。


「このアルパガス――『諏方』が、潜伏している敵艦隊を撃滅するに欠かせない戦力となるでしょう」


 神明は、この特殊な戦艦を使い、能力者の探知能力と連動させることで、敵を追い込む戦法について、新堂に説明した。


「……ふむ、なるほど。透明化という状況を利用するのか」

「こちらで見えない敵を探知できるなら、もう透明化も意味もありませんから。むしろ一度捕捉できたなら、透明になってくれたほうがやりやすいですし」


 神明は薄く笑みを浮かべた。確信の笑み。相当自信があるのだろう、と新堂は思った。


「そうなると、問題は乗組員だな。まだ人を乗せたことがないのだろう?」


 魔核による生成は、能力者によって行われるため、事前に艤装員が乗り込み、艦の艤装にかかる期間がほとんどない。自動化が進められた結果、乗組員はほとんど手を加えることなく、新人よろしく覚えろと渡されるのが現状だった。


「まあ、そこは能力者が魔核で上手くやるでしょう」


 魔核装備艦は、配属される乗組員を新人同様に迎えるが、魔核を制御する能力者のサポートが入り、フォローできるようになっていた。


 最悪、自動化と組み合わせれば、能力者一人で艦艇を動かすこともできるのだ。神明自身、九頭島に敵が襲来した際、戦艦『扶桑』を魔核操作し、迎撃に参加、『プロトボロス』に致命の一撃を浴びせている。


 神明の言い回しから、新堂は、『諏方』についても能力者で動かすことで戦線投入を間に合わせる腹だと察した。


 正規のやり方ではないから、実際に乗組員を乗せての前線配備はまだ先になるだろうが、とりあえず非常手段で、今回引っ張り出すということだ。

 だが、扱うのは大和型に匹敵する巨艦である。経験の浅い能力者では、実戦で使えないだろう。今、訓練中の『信濃』と同じように。


「ぶっつけ本番で、大艦を任せられる者はいるのか?」

「『大和』にいる、正木の妹の方を使います。宇垣さんに許可が必要でしょうが」


 第二戦隊の戦艦『大和』航空隊にいる能力者、正木 妙子。彼女の能力は高く、魔核による操艦も充分に経験している。


「艦に関しては、正木姉の方が上ですが、彼女は『大和』の制御で忙しい。宇垣さんも決戦前に彼女を手放さないでしょう」


 姉の初子はすでに艦を動かしているが、妹の妙子は艦載機搭乗なので、比較的引き抜きしやすい。それが彼女を推す理由でもある。


「しかし、宇垣は手放すか? 妹の方も航空管制や誘導弾制御能力で大事な戦力だろう」

「説得はするつもりですが、それで駄目なら、私がやるしかないですね」


 さらりと、神明は言った。能力者という点では、神明もまた不足はない。


 が、彼は第一機動艦隊の参謀長であり、今度は小沢中将が決戦前に参謀長を引き抜かれては困ると騒ぐだろう。


 そうなると、海軍伝統、兵学校の年次が先である小沢の意に、後輩である宇垣は逆らえない。結果、第二戦隊司令の宇垣は、正木妹の引き抜きを受け入れるしかないのだ。まさに軍隊というやつである。姉の方を引き抜かれないだけまだマシだ。


「そういうことならば、実際に動くことになる我々も助かる」


 大和型と、アルパガス改修型の2隻の大戦艦の存在は頼もしくある。


「で、他の戦力だが……。何だか寄せ集め感が凄いな……」


 新堂は若干の呆れの表情を浮かべる。


「『夕張』は、まあわかるとして……この『青島』ってあれか? 開戦前に実艦標的として撃沈された運送艦の?」

「その『青島』です。魔技研でサルベージして、転移巡洋艦のプロトタイプとして使ったもので、大部分、規格外の改造をしていますから、実質、転移艦ですね」

「ふむ……。他に、イタリア重巡洋艦と、軽巡洋艦? これまた面妖な……」


 新堂はこめかみに触れながら、奇妙な増援リストに目を細くするのだった。

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